「次は歩美さんのターンだね。
ってあれ? どうしたの?」
歩美さんに視線を向けると苦い顔で頭を抱えていた。
「……あ、ううん、何でも無い。大丈夫」
「う~ん……分かった。どうする? 桂馬くんが戻ってくるまで保留でもいいけど」
「……大丈夫。かのんちゃんに質問。
そこの青山さんとかもだけど、恋愛を使わないで駆け魂を追い出した人も居るんだよね?
その人たちは誰なの? 青山さん1人って事も無いわよね?」
「ん~……分かった。
ついでだから全員を時系列順に並べてみるよ」
さっき私が黒板に書いた三界の説明を消してから名前を並べる。
・高原歩美
・中川かのん
・吉野麻美
・汐宮栞
✓五位堂結
と、ここまで書いた所で声が上がる。
「ちょっと待って下さい!? どうして私の名前が出てくるんですか!?」
「そりゃあ、結さんにも駆け魂が居たからね」
「……私も最初から当事者だったのですか。
すいません、続けて下さい」
「うん」
えっと、次は……
✓小坂ちひろ
当然のように声が上がる。
「えっ、わ、私も!? どういう事!?」
「そういう事だよ」
「う~ん……もしかして、桂木がやたらと協力してくれてたあの時?」
「その辺は覚えてるんだ。じゃあ喧嘩した後に誰と話したかも覚えてる?」
「喧嘩の後? 歩美……じゃあなかった気がするし……アレ?」
「そっちは操作されてるんだね」
一瞬だけ第七の女神の存在を疑ったけど杞憂で済んだようだ。良かった良かった。
さて次だ! と、黒板に向き直ったらその前に歩美さんから指摘された。
「かのんちゃん、ちひろの字間違えてる」
「え? どこ?」
「ちひろの『さか』は坂道の『坂』じゃなくて大阪の『阪』だよ」
「あれ? そう言えばそうだっけ? ちひろさんゴメン」
「あ~、大丈夫。割と良く間違えられるから」
ちひろさんの字を書き直してから次に進む。
✓小阪ちひろ
✓榛原七香
・上本スミレ
・九条月夜
✓長瀬純
・鮎川天理
✓おばあちゃん
✓生駒みなみ
✓青山美生
✓春日楠
✓春日檜
「以上! 計16名が攻略対象者だよ。
説明するまでもないと思うけど、チェックマークを付けた人が恋愛を使わなかった人達だよ」
正確には攻略の決め手がキスではなかった人たちだ。結さんとかちひろさんとかは一応結構使ってる。
まぁ、そこまで話す必要も無いか。本人が忘れてる事を説明しても意味無いし、無理に思い出そうとして変な事になったら大変だし。
「何かまた見覚えのある名前が……長瀬純って、長瀬先生の事だよね?」
「うん。教育実習の期間中にチャチャチャっと」
「あと、春日楠っていうと空手部の春日先輩の事だよね?」
「うん。私のお師匠様。何か気付いたら攻略完了しててびっくりしたよ」
「……攻略ってそんな簡単なものなの?」
「違う……はずだよ」
長瀬先生の時は割と頑張った記憶があるけども、師匠の時はほぼ何もしてなかった気がする。
いや、何もしなかったわけじゃないけど、自然に行う事だけを行っていたらいつの間にか攻略してた。
こうやって改めて並べてみると恋愛を使わない攻略は後半に集中してる。
私も桂馬くんもスキルアップしてたって事なのかな。
「……ところで、この『おばあちゃん』って何?」
「桂馬くんの実家の近くのおばあちゃん。名前は忘れた」
「攻略までしたのに名前覚えてないの?」
「正確には攻略してないの。駆け魂を説得して出てきてもらっただけ。
ほら、おばあちゃんだと子供ができないから、取り憑く事はできても力は得られなかったみたいだよ」
「ああ、そういう事……」
「次は3週目だね。また歩美さんからだけどどうする?」
「かのんちゃんに訊きたい事はとりあえず無いかな。桂木が戻ってくるまで保留で」
「分かった。それじゃあ次の人……」
その後、ひと通り聞いて回ったけどひとまずは大丈夫との事だ。
「それじゃあ桂馬くんが戻ってくるまでは休憩だね。
ちょっとまってね。メールで呼び戻すから」
携帯を取り出して空メールを送信しようとする。
しかし、送信直前で頭の中に声が響いた。
(もしもし、かのん! 聞こえてるか!)
「わひゃっ!」
「どうしたのかのんちゃん」
「だ、大丈夫。何でもない」
突然響いてきた声の正体は桂馬くんの念話だ。
今までは同じ部屋の中でしか使ってなかったけど、契約の首輪の機能を乗っ取って通話してるから通信距離はほぼ無限だ。
突然話されるのはビックリするから止めてほしいけどね……
(どうしたの突然?)
(女神たち全員に戦闘準備させて旧校舎裏まで来てくれ。大至急!)
(っ!! 分かった!!)
どうやら只事ではないらしい。急がないと。
「皆! 戦う準備を整えて私に付いてきて!」
『どうしたのだ? 敵襲か!?』
「分かんない。今、桂馬くんから急いで来てくれっていう通信が入ってきた。
とにかく急いで!」
流石は軍神と言うべきか、真っ先に動いたのはマルスさんだ。
私の言葉に即座に反応して立ち上がっていた。
「場所はどこだ?」
「旧校舎裏!」
「分かった。先に行っている! 皆もすぐに来てくれ!!」
そう言ってガラッと窓を開けてベランダを越えて飛び降りていった。
私が念話を聞きながらナビゲートするつもりだったんだけど……まあいいか。近くまで行けばきっと分かるはずだ。
「ちょっ!? 歩美……じゃない人!? 大丈夫!?」
『問題ないのじゃ。翼まで復活しておるなら普通に飛べるからのぅ。
さ、麻美、妾たちも続くとしよう』
「うん……お願いね、アポロ」
アポロさんも続いて窓から飛び降りていった。
目撃者が居ない事を願いながら私も窓へと向かう。
……が、それを止める声がかかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれない?」
「? 美生さんどうかしたの?」
「行きたいのはやまやまなんだけど……」
『……済まないが、手頃な人形を持ってないだろうか?
美生の家には丁度良いものが無かったのだ』
「……美生さん、それはどうなの……」
「だってしょうがないじゃない! 人形なんて買うお金が無いわよ!
ウルカヌスが喜ぶような人形はどれもこれもバカ高いし!
アレを買ってたらオムそばパンがいくつ買えるのって話よ!!!」
「オムそばパンか。それじゃあ仕方ないね」
『納得するのか!?』
流石に冗談だよ。3割くらいは。
それはそうと人形か。この場にあるもので何とか凌ぐしか……ん?
「あ、そうだ。エルシィさん」
「何でしょうか?」
「羽衣さんを使えば人形も作れるんじゃない?
理力で動く羽衣さんだし凄いのが作れそう」
「なるほど。一理あります。
デザインはどうしましょうか?」
『前に月夜という娘が持っていたあの人形、あれはかなり使い勝手が良かった。
できればあれと同じものが良い』
「月夜さんに怒られそうだなぁ……言葉遣いはできるだけ気をつけてね」
『……善処する』
……バレなきゃ平気か。
エルシィさんに人形をサクッと作ってもらってから出発だ。
と思ったらまた呼び止める声が。
「ちょっと待って!」
「……今度は何?」
『私は他の女神と違って自由に飛び回れるほど身体が強くはない。
悪いが、私を運んではくれないか?』
「そう言えばそうだったね……
それじゃあ、はい」
美生さんに背中を向けてしゃがむ。
身体強化を身に着けた今の私なら人ひとり背負って飛行するくらい余裕だ。軽そうな美生さんならなおさら。
「……ありがと。悪いわね」
「ううん。それじゃ、行くよ!」
それじゃあ今度こそ出発……
「あ、一つ宜しいでしょうか?」
「……結さん何?」
危うくコケる所だった。一体何?
「なるべく早く帰ってきて下さいね。
ステージ本番に向けてもう少し練習したいので」
「……うん。分かった。
さっさと片付けて、日常に戻ってくるよ」
「では、行ってらっしゃいませ。
ご武運を」
そんな結さんの言葉を聞き届けてから、私はベランダから飛び降りた。
「大丈夫なんかな、かのんちゃん達」
「さぁ? 分かりませんよ。
ですが、私達にできるのはただ祈る事くらいです。
今は信じて待ちましょう」
「……それもそっか。
それじゃ、練習やろっか。人が殆ど居ないけど」
「そうですね。そうしましょう」
「丁度良かったです。ここの部分がどうしても上手く弾けなくて練習したかったのですよ」
「ああ、ここですか。この部分はコツがあって……」
「「ん?」」
「どうかしましたか、お2人とも」
「……エリーさん。あなた女神持ちでしょう。
と言うか女神でしょう! さっさと行って下さい!」
「あ、そ、そうでした! 行ってきます!!」
そう言ってエリーさんは慌ただしくベランダから飛び降り……
ガッ
「あれ、足が引っかかってっ、わぁ~~~~~~…………」
ドサッ
「……結、エリーって女神様なの?」
「……一応そうらしいです」
「……ホントに大丈夫なんかな?」
「た、多分……?」
不安は残りますが……大丈夫だと信じて……いいんですよね?
頼みますよ。部長と会計さん。
ちひろの名前の誤字は以前筆者がやらかしたミスでもあったり。
今回は間違えずに最初は『小阪』と正しく表記していたのですが、かのんが覚えているか微妙な気がしたので誤字に修正してみました。