もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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60 質問ゲーム

 美生からの質問は『そこの従妹は一体何なの!?』である。

 のんびりと説明していこう。

 

「名前は西原まろん。僕の従妹。

 3月3日生まれの16歳で僕と同年代。

 親の都合で今現在は僕の家に居候して美里東高校に通っている。

 ……彼女の『設定』はこんな感じだったな」

「せ、設定? いや、ちょっと待ちなさい。居候ってどういう事よ!?」

「ああ、そうか。美生はそこすら知らなかったか」

 

 この設定を最初に伝えた相手はちひろだったので、少なくともクラス中くらいには知れ渡っているだろう。

 そしてこの場に居るのはほぼ2-Bの生徒だ。例外は結と天理。あと美生くらい。

 結と天理は他の女神の宿主以上に事情を把握しているから居候の従妹の事は勿論従妹の正体も知っている。

 美生だけが仲間外れになっているな。

 

「あの、桂木? 居候が居る事は知ってたけど、設定ってどういう事?」

「良い質問だな歩美。要するにその辺の事情は適当にでっち上げた嘘っぱちって事だ」

「西原さんに関する事も嘘だったの!? あれ? でもそうすると居候っていうのも嘘?」

「いや、そこは本当だ」

「ええっ? って事は……どういう事なの?」

 

 この設定は確か『姫様』の存在が隠しきれなくなった時に作ったものだったな。

 ところ構わず『姫様』と連呼し、『姫様のお弁当』を堂々と取り出したエルシィのせいだ。

 ……思い出したら少し腹が立ってきた。後で……いや、今文句を言おう。

 

(エルシィのバカヤロー)

(な、何ですか突然念話なんかして!?

 どういう事ですか!?)

 

 憂さ晴らしした所で話を戻す。

 

「居候自体は実在するんだよ。料理が得意な女子がな」

「……ちょっと待って、その居候ってのは従妹じゃないのよね?」

「ああ。血縁的には赤の他人だ」

「どういう事よ!? 親戚ならまだしも、そういうのじゃない女子と一緒に住んでるって事よね!?」

「待って待って! それも気になるけど、結局そこの従妹……っぽい人は一体何なの!?」

 

 予想通り歩美と美生がグイグイ来るな。

 それじゃあネタばらしといこう。

 

(かのん、やれ)

(おっけ~)

 

 念話をしながら指をパチンと鳴らす。

 それと同時にかのんが立ち上がり口を開いた。

 

「よくぞ訊いてくれました。

 ある時はスーパーアイドル。

 ある時は平凡なベーシスト。

 ある時は桂馬くんの家の居候。

 そしてその正体は……!」

 

 ここでようやく錯覚魔法と解いたようだ。理力と魔力が伝わってきた。

 歩美や美生といった知らなかった連中が驚いた顔をしている。

 

「初めまして……じゃない人も多いけど、初めまして。

 桂馬くんの許嫁こと中川かのんです!」

 

 おいおい、そこまでやれとは誰も言ってないんだが……まぁ、いいか。

 そもそもアイドルが同年代の異性の家に居候って時点で大問題だし、問題ないだろう。

 むしろパンクさせた方が細かい事はスルーしてもらえそうだ。

 これって攻略でも何でもないからフラグ管理とかも要らないしな。

 

「い、いいなずけ……一体どういう……」

『どういう事ですか桂木さん!! い、いい許嫁とは!!!』

「どういう事、だと? やれやれ、そんな事も分からないのか。

 いいか? 許嫁というものはだな……」

『意味を訊ねているのではありません! はぐらかさないで下さい!!』

 

 今度はディアナがぐいぐい来る。こいつも自称許嫁だったな。

 半ば本気……いや、完全に本気で僕と天理を結婚させようとしてたし、看過できないのだろう。

 

「えっとだな……とても一言じゃ言い表せないような深い事情があって一時的に許嫁になっていたのは事実だ。

 だが、現在はそんな事は全く無い。許嫁というのはコイツの戯言だから気にしないでくれ」

「間違った説明があったら即座に指摘しようと思ったけど、残念ながら全部事実だね。

 改めまして、元・許嫁の中川かのんです! 宜しくお願いします!」

『も、元? それだったら別に……

 って、いやいや、良くないですよ!! 何なのですかあなたは!!』

「か、かのんちゃんが許嫁ってどういう事なの桂木!?」

「……桂馬君、私ですら知らない情報なんだけど……飛ばしすぎてない?」

 

 何か凄い大騒ぎになってるなー。

 大体知ってた結とか麻美とかは比較的大人しいが、それ以外は大体騒いでる。

 ……ああ、うん。エルシィはキリッとした顔でポケーっとしてるし、かのんは相変わらずニコニコしてるよ。

 

 さて、どうしよう。これは攻略じゃないから特に準備とかしてないんだよな。

 だから、この場を一発で収めるような裏技とかは用意していない。

 そんな事をぼんやり考えていたらある人物が動いた。

 

 

ダァン!!!!

 

 

 そんな鋭い音が鳴り響き、注目が一斉にそちらに集まる。

 そのドラムの音を立てたのは、結だった。

 

「皆さん。少し落ち着いてください。桂木さんの耳は2つしか無いのです。そんないっぺんに話していては埒が明きませんよ?」

『だったらどうしろと言うのですか!!』

「……ではルールを決めましょう。

 質問は1人ずつ順番にする事。ああ、女神と宿主は合わせて1人としておきましょう。

 質問はなるべく簡潔にする事。

 桂木さんは決して嘘を吐かない事。

 答えたくない事であれば無回答でも構いませんが、その場合は再質問を受け付ける事。

 これでいかがでしょうか?」

 

 なるほど。実に分かりやすいルールだ。

 同意したい所だが……僕が口を開くと面倒な事になりそうだ。黙っておくとしよう。

 

『……いいでしょう。他の皆も異論はありませんか?』

 

 ディアナその案に同意し、他の連中からも特に異論は出なかった。

 

「僕も異論は無い。じゃ、誰から……結、何か良い案は無いか?」

「そのくらいは自分でやってください」

「……分かった。じゃあ、じゃんけんで……いや、それも面倒だな。

 僕が順番に指名していく。まず歩美から」

「えっ、わ、私から?」

 

 もう面倒なんで『攻略した順』にしておこう。

 文句を言う奴がもし居るなら……

 

『桂木さん! どうして天理を先に指名しないのですか!!』

「そう言われてもな。これって先に質問するのと後に質問するのでどっちが有利なんだ?

 後に質問した方が情報量が増えた状態で質問できるんでそれはそれで有利だぞ」

『むぐぐ……確かに一理ありますね。いいでしょう』

 

 こんな感じで煙に巻いておこう。







 やっぱり人数が多いとかなりキツいですね。
 小説だと漫画とかと違って一行一行進めていく必要があるから『一度にたくさんの事をやる』という描写はかなりの高等技術だと思います。
 というわけで、こういうルールにして一度に会話する人数を制限してみました。実際には質問者以外の全員が黙りこくってるなんて有り得ないですけど、そこは筆者の能力不足なので皆様の脳内で補完して頂けたらと思います。

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