もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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女神編 ~finale~
58 朝の出来事


 翌朝になった。

 自分で言った事はしっかりと守ったようで、朝起きたらかのんが隣で寝てたとかそんな展開は無かった。

 居間へと向かうと僕以外の3人はすでに居た。

 

「あ、おはよう桂馬くん」

「おはようございます。神様」

「おはよう桂木」

「ああ。おはよう皆」

『皆早いな。早起きのし過ぎは体に毒だぞ?』

「メルはいつも寝すぎです。ずっと寝てるのも明らかに毒ですよ?」

『私はいいんだよ。私は』

 

 そんな会話をしながら朝食を済ませる。

 

「……こっちの料理はハクアが作ったのか?」

「え? そうだけど……よく分かったわね」

「かのんの味付けの癖は大体把握してるからな。後は消去法だ」

「……お前、味付けの傾向なんて気にしてたのね。

 食べられるなら何でもいいんじゃないかと思ってたわ」

「それも間違っちゃいない。エルシィの料理かどっかの甘味ラーメン以外は特に気にせず食う」

「甘味ラーメン? どんなゲテモノよそれ……」

「ホントだよな。どうしてあんな発想に至ったんだろうな。

 それはさておき、かのんの料理、と言うか弁当は結構な頻度で食べるからそんくらいは気にせずとも気付く。それだけだ」

「どんな頻度で食べてんのよ……」

 

 ほぼ毎日だな。

 最近、かのんが学校に来る日はオムそばパンになる事もあるが、来たからといって必ずしもオムそばになるわけじゃないし、それ以外の日はほぼ全て弁当だ。

 

「……私がお弁当に惚れ薬とか少しずつ仕込んでおけば今頃効果が出てたかな?」

「止めい、お前なら実行できそうだからシャレにならん」

「じょ、冗談だよ。そんな方法で好かれても嬉しくないし。

 あ、またご飯粒がほっぺに……」

「自分で取るから! すかさず手を伸ばすな!!

 いや、だからといって箸を伸ばせって意味じゃない!!」

 

 

「…………」

「あれ、ハクア? どこに行くんですか?」

「ちょっとコーヒー淹れてくる。ブラックで」

「じゃあ私もお手伝いを……」

「ダメ。エルシィは人間界の台所は立入禁止」

「ど、どうしてですか! ま、まさか昨日コーヒー豆を爆発させてしまったせいですか!?」

「そんな事やらかしてたの!? 尚更出禁よ!!」

 

 

 そんな感じで朝の時間は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 4人揃って家を出て、まず天理の家へと向かう。

 玄関のインターホンを鳴らすと足音が聞こえてくる。

 

「……そろそろ来る気がしてたよ。今日は……大所帯だね」

「確かにな。ここに来る時はいつも誰かと一緒だったが、この人数で来るのは初めてだ」

『私としてはもっと高い頻度で1人で来てほしいのですが』

「前向きに検討しておこう」

 

 ディアナの戯言は適当にあしらって本題へと入る。

 

「まずは報告だ。女神を6人全員見つけた」

『っ!! 本当ですか!?』

「こんな事で嘘は吐かないさ。

 全員を集めてから今後の話をしたい。今日は舞校祭だから部外者でもうちの学校に入れる。

 お前たちも一緒に来てくれ」

『分かりました。すぐ準備します。

 天理! 早く着替えてください!』

「う、うん。分かった。ちょっと待っててね」

 

 そう言って天理は駆け足で階段を登って行った。

 数分ほど待った後、再び駆け足で降りてきた。

 

「お、おまたせ……」

「別にそこまで焦る必要も無いんだが……まあいいか。

 じゃ、出発だ」

 

 

 

「……ところで桂馬くん。

 一般解放の時刻って私たちの登校時刻よりもそこそこ後だと思うんだけど……」

「ハクアと一緒に透明化して入れば大丈夫だろ。

 お前も変装してるなら部外者だし、ハクアも部外者だ。2人が3人に増えた所で大した違いはあるまい」

「それもそうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 道中は特に何事もなく無事に学校に着いた……と言いたかったのだが……

 いや、ヴィンテージの襲撃とか、そんな感じのシリアスなイベントが起こったわけではない。そこは安心してくれ。

 

 

「……かのん、じゃなくてまろんでいいんだよな?

 一つ訊ねたい事があるんだが」

「ん? なあに~?」

「……どうして手を握ってくるんだ?」

「握ってるだなんてそんな。ただちょっと繋いでるだけだよ♪」

「いや、軽く振りほどこうとしても一切離れていかないのは『繋いでいる』ではなく『握っている』という表現の方が正しいだろう」

「つまり、桂馬くんが振りほどこうとしなければ万事解決だね!」

「その解法はどうなんだ? ゲームの限定版だけをプレイして満足しているかのような違和感を感じるんだが」

「どんな例えなのそれ!?」

「…………掃除をしていて大きな家具の隙間を見なかった事にして満足しているかのような感じだな」

「その例えならよく理解できるよ。確かにそうだね……」

「……納得はしても手を離す気は無さそうだな」

「うん!」

 

 昨日の夜に引き続き、距離感が何かバグってる会話をしていた。

 その時は誰もがスルーしていたが……今は少々状況が違った。

 

『……桂木さん。どういうつもりでしょうか?』

「ん? ディアナか。どういう意味だ?」

『その人との距離感の事です!!

 従妹とはいえ……いや、従妹ですら無いんですよね!?

 あなたには天理という許嫁が居るというのに……どういうつもりですか!!』

「いや、許嫁ちゃうから」

「どちらかと言うと許嫁は私の方だね」

「……どちらかと言うとな」

 

 天理に関してはディアナが一方的に言ってるだけなのに対してかのんの場合は一応お互いに同意が取れていた。

 婚約者的な意味ならどっちも違う事に変わりは無いが。

 

『どういう意味ですか!!

 今まで黙っていましたがもう限界です。そこの方との関係を洗いざらい吐いて……」

 

 ディアナが台詞を言い切る前に、動いた人物が居た。

 天理が、僕のもう片方の手、と言うか腕に抱きついてきたのだ。

 

「んなっ、何してる! 離せ!」

「……やだ。離さない!」

 

 天理にしては珍しく強い主張で返してきた。

 顔を真っ赤に染めてるのでかなり無理をしているようだ。

 いつも俯いているその視線は真っ直ぐにかのんの方を向いており、強い意志が感じられる。

 

「……これは、退けないね」

 

 そんな天理に対抗したのか、かのんも同じように腕に抱きついてきた。

 女子2人に抱きつかれて羨ましいとか思ってる奴が居るなら是非とも替わってほしい。拘束され具合は連行中の犯罪者と大して変わらないから。

 

「……2人とも、手を離す気は?」

「「ないよ!」」

「……そうか」

 

 何かもう考えるのが面倒になったので僕はそのまま学校の側まで連行されていった。







 ちょっとした伏線の解説(今更)
 8月31日編ではディアナがハクアに対して「私はこの人(桂馬)の許嫁です!!」と言っていますが、それに一番敏感に反応したのはかのんだったりします。
 記憶ありましたもんね。許嫁なかのんちゃんが怒ってスタンガン取り出すのも当然です!
 ハクアはとんだとばっちりですね。


 桂馬が両手……両腕に花な場面をイメージして、気になったので2人のスリーサイズを調べていました。
 かのんの場合は86-58-85
 天理 の場合は84-57-84
 ……コメントが難しいですね。かなり僅差です。
 なお、かのんの方が全ての数値を上回っており、身長も4cmほど高いにも関わらず体重は2kgほど軽い模様。かのんちゃん大丈夫だろうか? もはや何かの病気なんじゃないだろうか?


  追記

 ちょっと気になったので調べてみましたが、筋肉と脂肪では比重が違う(筋肉の方が約1.2倍重い)ので、天理の肉体が引き締まっていてかのんの肉体が脂肪分多めなら天理が小さいのに重い、かのんが大きいのに軽いという事は物理的にあり得そうです。
 他の方の二次創作でも触れておりましたが、天理の運動評価は4であり、かのんを上回り京と同レベル。これが女神補正抜きの値であるならば引き締まっていても不自然ではありません。
 ……まぁ、本当に2㎏も軽くなるかは何とも言えないし、かのんちゃんが脂肪分多め(≒太っている)という仮定も無理がありますが、プロフィールの数値が正しいならこんな感じになりそうです。

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