かのんからの何の捻りもない告白は僕の心に深く染み込んだ。
なかなかに美しい告白イベントだ。僕も見習いたいくらいだよ。
「だが、その想いが報われるとは限らんぞ」
「その時はその時だよ。それに、私が本気を出せば桂馬くんの攻略なんてラクショーだよ!」
「ほぅ? 言うじゃないか。何をするつもりだ?」
「そうだね、とりあえず……
……前夜祭でも一緒に回る?」
「……そう言えばそんな時間だったな」
ついさっきまでかなり濃密な時間を過ごしていたので感覚が狂うが、実際の経過時間はそこまででもなかったようだ。
前夜祭の目玉であるキャンプファイヤーは勿論、他の出し物の時間もまだまだ先のようだ。
「……そうだな。せっかくだから見て回るか。
お前はどの格好で行く気だ?」
「えっと……エルシィさんの格好が一番無難だと思うけど……」
「それだと私が回れなくなるんですけど?」
「……あえて錯覚魔法を使わずに……」
「どう考えても大騒ぎになるな」
「となると消去法でまろんちゃんの姿だね。前夜祭って部外者入れたっけ?」
「……制服姿ならバレないんじゃないか? 万が一バレたらエルシィから借りたって設定で」
「よし、それで行こう」
かのんが錯覚魔法を起動したらしい。僕からはよく分からないが。
そう言えば前夜祭をまともに回るのは初めてだな。
「それじゃあ行こっか。
2人きりで……って言いたい所だけど、エルシィさんも来る?」
「え? よろしいのですか?」
「うん。どうせ宿主の誰かと合流しそうな気がするし、従妹だけじゃなくて妹も居た方が女神を刺激せずに済みそう」
「確かにな。予定が既に埋まっているなら別に構わないが、どうなんだ?」
「特に問題は無いです。ただ、ミスコンには歩美さんも出るそうなのでその時には見に行きたいです」
「あいつそんなもんに出場してたのか!? っていうかうちの学校はそんなのがあったのか!?」
「ちひろさんとかが勝手に登録したみたいですよ。本人は乗り気ではありませんでしたが……仕方ないから参加するそうです」
「……ミスコンねぇ。かのんに話は行かなかったんだな」
「いつもは学校に居ないからなぁ……
それに、私が言うのもどうかと思うけど書類審査で弾かれそう。公平を期す為に」
「確かにお前が出たら結果は見るまでもないだろうな」
ファンによる組織票が炸裂して9割か、下手すると10割くらいの票をゴッソリ持っていきそうだ。
イベントの意味が無くなる。
「それじゃ、早く行こうよ。イベントの時間過ぎちゃうよ?」
「ああ。そうだな」
校舎を出てしばらく歩いていると案の定見知った顔が現れた。
「あ! やっと見つけた。この私を放っぽってどこほっつき歩いてたのよ!!」
「美生か。バイトはいいのか?」
「その辺は抜かりないわ舞校祭とその前後のシフトは空けてきたのよ」
「そうか、なら気兼ねなく一緒に回ろう……と言いたい所だが、残念ながら先約がある」
自称妹と自称従妹を指し示しながらそんな台詞を言う。
女神の復活は翼まで出てれば十分とするならもう攻略の必要なんて無い。
ただ、あんまり無下に扱うと退化するとかあるかもしれんからほどほどの付き合いを続けておこう。
「……あんたの妹は分かるけど、従妹って部外者じゃなかったっけ?」
「な、なんのことかなー。私にはサッパリわからないなー」
「……こいつの従妹なだけあってイイ性格してるわね。
まぁ、わざわざ通報するのも面倒だからしないけど、教師にバレないようにしなさいよ」
「ありがと美生さん。あ、そうだ。一緒に回らない?」
「……それもアリか。分かったわ。一緒に行きましょ」
美生も付いてくる事になった。かのんの予感が当たったな。
今のはかのんが誘ったというのもあるが、そんな事しなくても結局一緒に行動する事になってただろう。
むしろ僕と美生の2人きりにさせない為の誘いか。そこまで計算してやったなら、なかなかやるな。
『ところで桂木よ』
「ん? ああ、ウルカヌスか。どうした?」
『我々の女神を探す件だが、進捗はどうなのだ?』
「安心しろ。つい先ほど最後の女神を見つけた所だ。
後で会わせてやる」
『そうか。よくやってくれた。
では私はしばらく休んでいるとしよう。美生と仲良くするのだぞ』
本当の事を話すのが怖いな。こいつが一番危なそうなんだよ。
……そんなの考えるのは後にしよう! そしていざというときはメルクリウスに泣きつこう!
美生が合流して数分後、また見知った顔が現れた。
「ようやく見つけたぞ桂木よ! 妾から逃げおおせるとでもアイタッ」
「このアホ女神が。こんな人ごみで表に出てきて何やってやがるんだ」
「少しくらい良いではないか!」
このアホが表に出て僕を探していたなら結構な時間表に出てたんじゃないだろうか?
ヴィンテージの連中に補足されてないだろうな?
「む? そっちのお主はウルカヌス姉様の宿主ではないか。2日振りじゃな」
「……ねぇ桂馬、確か女神って狙われてるのよね?
大丈夫なのコレ?」
「大丈夫じゃないな」
「大丈夫じゃないね」
「大丈夫じゃないです」
「何じゃお前ら揃いも揃って!」
「御託は要らん。さっさと麻美に代われ」
「むぅぅ、妾は女神なのに蔑ろにしおってからに」
女神なんてありふれてるからな。
リアルアイドルの方がまだレア度が高い。知り合いに2人しか居ないから3倍のレア度だな。
「……えっと、その……アポロが騒がしくてごめんね」
「気にするな。お前も苦労してるんだろ?」
「……うん。
それじゃ、私はこれで……
…………ごめん、何かアポロがうるさいからもうちょっと一緒に居てもいい?」
「……エルシィよりもヒドいんじゃないだろうかこれ」
「ちょっと神様? どういう意味ですか?」
というわけで麻美も合流した。女神が4人揃ったな。
流石に天理とディアナは来てないし、歩美とマルスはミスコンの準備をしてるだろうから合流してくる事は無さそうだ。
……とか思っていたら別の連中と出くわした。
「お、桂木じゃん! って、一体何があったの?」
「何がとは?」
「いや、だって……どうして沢山の女の子と一緒に居るの?」
「……成り行きだ」
「一体どんな成り行きですか」
歩美の勇姿を見る為に集まっていたちひろと結だ。あと、京も居る。
「まぁ、細かい事情は別にいいや。
それより、これからミスコンがあるんだよ。歩美も出るぞ!」
「ああ、エルシィから聞いたよ」
「よーし。じゃあ一緒に見に行こう!」
「別に構わんが……果たして
「いつもの桂木だね~。こういうのは内容よりもフインキが大事なんだよ!」
「
こうして、計8名(エルシィ以外の女神も入れるなら計11名)とかいう大人数の集団になっていた。
ま、少しは楽しんでみるとしようか。
「……ところで桂木さん、どうして美生が居るのですか?
まさか……彼女も宿主なのですか?」
「察しがいいな」
「……あなた、いつか天罰が下りますよ?」
「多分下されるのは神罰だろう。女神からの」
「……死なないで下さいね? あなたの人間性自体は割と気に入っているので」
「安心しろ。僕もゲームを積んだまま死ぬ気は微塵もない」
「あなたの基準はやはりゲームなのですか……」
……その後、ミスコンには歩美ではなく何故かマルスが出てきたりといった事件があったりはしたが、前夜祭は無事に終わった。
明日は舞校祭だ。今と違って一般入場が普通に許可されているから天理も堂々と入れる。
ようやく6人の女神が集まる。そこから先は……どうなるのやら。
マルスのミスコンを書いてみようかと思ったけどかなり面倒なので断念しました。
そもそも何でマルスが出てきたかというと……
『歩美、そんなもじもじしてどうしたのだ?』
「だって、ミスコンよ!? こんな服を着て大勢の前で喋るのよ!? 恥ずかしいじゃないの!!」
『別に大した事無いじゃないか』
「大した事よ! って言うか、そこまで言うならマルスが出てみなさいよ!」
『……よし、分かった』
「えっ? ホントに出る気?」
『当然だ。それに、勝負事は全力で挑まねば。
今の歩美は見ていられない』
「そこまで言うなら……出てみる?」
『勿論だとも!』
で!
「うぅむ、この服は少々心許ないな。敵から襲撃を受けたらどうするのだ」
『そういう服じゃないからこれ』
「まあいいさ。それじゃあ、全力を尽くすとしよう!」
みたいな流れで割と自然に参加するんじゃないかなと。
なお、観客からはちょっと髪色を変えた歩美にしか見えないのでマルスの暴走はそのまま歩美の黒歴史になる模様。
以上でメルクリウス編、そして歌姫編は終了です。
この後はヴィンテージとの決戦をやって舞校祭をちょっと書いて終わりかな。
今までサボってきたリューネさんの行動の描写とかも必要かも。
次回こそは女神編最終章になりそうです。
絶対に書くつもりでかなり前から構想を練っていたメルクリウス編が終わってしまったのでモチベーションを保つのが少々キツいです。もういっそのことこれが最終回でもいいんじゃないだろうか? いや、流石にダメか。
少々時間が開いてしまうと思いますが……また次回お会いしましょう!