もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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46 運命変革の一矢

「桂木くん。私と、ゲームをしよう」

 

 突然笑い出したかのんが言ってきた台詞だ。

 僕が言う事じゃないかもしれないが、こんな時にゲーム?

 

「……桂馬くん、もしかして桂馬くんに似合わないような事を考えてないかな?」

「お前はエスパーか」

「道具頼りとはいえ魔法も使えるからあながち間違いでもないかもね。

 話を最後まで聞いてくれれば理解して貰えると思うよ。

 ゲームのルールは、簡単。『先に女神を見つけた方が勝ち』」

「……ほぅ?」

 

 そのルールだと自分の中から取り出して『はい女神』って言うだけで終わる可能性までありそうだが……いや、もう少し黙って話を聞こうか。

 

「基本的なルールは説明するまでもないね。その名の通りだから。

 ただ、2つほど、追加ルールを設けるよ」

 

 大きく頷いて、無言で先を促す。

 

「うん。ああ、不満があれば後でまとめて言ってね。

 まず1つ目。自分の中から取り出して『はい、見つけた』っていうのはナシ」

「まぁ、当然だな。2つ目は?」

「……正直言って、こういう勝負で私が桂馬くんに勝ってる要素は殆ど無い。

 だから、今から私が語る推理が否定された場合、私は諦めるよ。

 桂馬くんが勝利条件を満たすまでもなく桂馬くんの勝ちでいい」

「……随分とお前に不利なようだが?」

「そうでもないよ。私が見つけられないなら桂馬くんはかならず見つけ出す。

 どれだけの時間がかかるかは分からないけど……わざわざ待つのもただ面倒なだけだから」

「……なるほど」

「ちょっと遠回りしたけど、ゲームのルールはシンプル。

 今から発表する私の推理を桂馬くんが信じるなら私の勝ち。そうでないなら、私の負け。

 さぁ、どうする? 受けてくれる?」

 

 どうやらかのんには何か考えがあるらしい。

 その推理とやらを素直に発表すりゃあいいのに、わざわざゲームにするなんてな。

 そんな事をした理由は……

 

()()()()。私と、ゲームをしよう』

 

 ……いいだろう。今だけはエルシィから聞いた事を忘れておくとしよう。

 

「ルールに異存は無い。来いよ、()()!」

「っ! う、うん!」

 

 勝てるものなら勝ってみせろよ。落とし神であるこの僕に!

 

 

 

 

 

「まず、情報を整理していこう。

 ユピテルの姉妹は全員で6人。そして、6人全てが少なくとも私たちの生活圏内に居る。

 実は5人しか居なくて残りは別の場所で復活してる可能性も一応あるけど……それを考慮する必要が無いって事は桂馬くんには説明するまでもないよね?」

「ああ。続けてくれ」

 

 仮に別の場所に居た所で、僕達がそれに干渉する事は不可能だ。こっちでサボろうが全力で何か頑張ろうが、一切の影響を与えない。

 だったら、居る前提で攻略を進めるべきだ。サボったら世界が終わりなのに対して、過剰に攻略した所で人間関係が悪化する以外のデメリットは無いのだから。

 

「そして、『女神はドクロウさんの手によって集められている事』と『女神は駆け魂と一緒に人間界にやってきた』っていうのは、ほぼ事実のはず。

 だからこそ私たちは駆け魂が潜んでいた女子たちの再調査を行った」

「その通りだな」

「師匠には居なかった、みなみさんにも居なかった。

 ほぼ間違いなく、私たちの高校の同学年に限定される。

 

 結さんには居なかった。

 月夜さんにも居なかった。

 栞さんにも居なかった。

 ちひろさんにも居なかった。

 

 麻美さんには居た。

 美生さんにも居た。

 歩美さんにも居た。

 ついでに、エルシィさんにも居た。

 あと、天理さんもね。別の高校だけど。

 

 これで、『駆け魂が潜んでいたこの高校の2年の女子』に該当するのは1名だけになる。

 そう、私だけに。

 

 でも、私の主観では私に女神は居ない。

 ふふっ、ゼロになっちゃったね」

「……遠回しな自白……のわけが無いよな?」

「当然。こういう時は前提を疑うべき。そうでしょう? 桂馬くん」

「……まぁ、確かにそうだが、お前が改めてじっくりと纏め上げたように前提に綻びが見あたらないんだが?」

「先入観に囚われすぎてない? アポロさんも……いや、アレはアポロさんの言葉じゃないけど……あらゆる前提を疑えって言ってたよね」

「神託の事か。確かにそうだが……」

「私が提示する可能性。それは、『過去に駆け魂が居た場合』だよ」

「何だと!?」

 

 そうか、過去に駆け魂と一緒に女神が入れられて、僕達の前任か何かが駆け魂だけを狩った場合があるのか。

 何故僕はその可能性を考え……って、いやいや、それくらいは考えたよ。

 しかし、有り得ないとまでは言わないが、考えにくい。

 

「……反論はあるよね? 言ってみて?」

「予想済みなのか。まあいいだろう。

 ドクロウ室長が女神を復活させたいならノーヒントの場所に女神を仕込むわけがない。

 ……ついでに言うなら、これは駆け魂と切り離して女神だけが居る場合でも同じ理屈が成り立つ。

 そういう奴が居たとしても構わないが、せめて何らかのヒントが下されるはずだ」

「その通りだね。ノーヒントで仕込む上に連絡も寄越さないっていうのはおかしい。それで失敗したらドクロウさんのせいだってハッキリと言える。

 ……でもさ、ヒントを出すまでもないような目立つ人物なら?」

「……そんな奴が居たか?」

「ふふっ、どうだろうね」

「おいおい、はぐらかすなよ」

「その質問に答える前に、もうちょっとおさらいしておこうか。

 そもそも、駆け魂が人間に取り憑く目的は?」

「そんなの決まってるだろ。負のエネルギーを吸収する為だ」

「間違ってはいないけど……その先は?」

「……転生だ。成長し切った駆け魂は隠れた女の子供として転生する」

「正解だよ。

 ところで……桂馬くんのおばあちゃん……の、近所のおばあちゃんの話は覚えてる?」

 

 かのんの奴、今一瞬『僕のおばあちゃん』で言い切りそうになったな。寸前で踏みとどまってたが。

 

「勿論覚えてるさ。最後は大きな屋敷が燃え落ちるアレだろ?」

「そ、それはその時撮影したドラマの内容……桂馬くん分かっててボケてるよね?」

「……攻略よりむしろそっちの方が印象に残ってたからな。そう言えばお前の後輩は元気にしてるのか?」

「いつも元気一杯だよ。

 で、その印象に残ってない方の攻略なんだけど、最後は結局エルシィさんが説得して出てきたよね。

 ね、エルシィさん」

「え? ああ、はい。そうだったと記憶しています。

 お婆様はご高齢で子供が望めませんでしたから、それを理解したらあっさりと出てきてくれましたね」

 

 かのんがエルシィに話を振ると今までずっと黙っていたエルシィが口を開いた。

 そう言えば居たな、お前。

 

「おっけー。この事を覚えておいてね、桂馬くん」

「ん? ああ」

「じゃ、最後にエルシィさんに確認」

「はい? 何でしょうか」

「そもそも女神が人間に取り憑く目的は?」

「……駆け魂と違って望んで取り憑いているわけではありませんが……まぁ、正の感情を得る為です」

「……その先は? 駆け魂のように転生するの?」

「隠れた女の子供として転生……する事も不可能ではないですが、わざわざそんな事をせずとも復活に近い事はできます。

 受肉して生身の肉体を得られるならそれに越した事はありませんが、わざわざ母体を危険に晒すような事はしませんよ」

「……ありがと。天理さんや他の宿主のみんなのお腹が膨らむとか悪阻に苦しむ様子も無かったんで大丈夫だろうとは思ったけど、ようやく確信が持てたよ」

「そんな事考えてたのかよお前」

「……冷静に考えるとちょっと変態っぽいね」

「スマン、続けてくれ」

「う、うん。

 えっと、これらの情報を私なりにまとめると……

 『駆け魂の宿主は子供を産める身体である必要がある』

 『宿主が子供を産めないと分かれば駆け魂は去っていく』

 『女神の宿主は子供が産めなくても問題は無い』

 ……これ、反論はある?」

「…………いや、無い。

 だが……まさか、お前……」

「気付いた? ヒントを出す必要すら無い最後の宿主候補。

 『叡智』の女神は始まりの刻より神姫の傍らにて眠る。

 私が候補に入れるなら……もう1人もその資格はあるよね?」

「……ロジックに矛盾は見られないな」

「それじゃ、私の推理を言わせてもらうよ。

 

 

 

 

 

 桂木桂馬くん。君こそが最後の女神の宿主だよ」


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