歩美が落ち着いた後、マルスがPFP越しに話しかけてきた。
(女神との関わりを隠す必要が無くなったのでその為だけに取り出した)
『つかぬ事を訊くが、ついさっき私にした話は嘘だったのか?』
「そういう事になるな。マルスだったな? すまなかった」
『……歩美が許すなら、別に構わないさ。
しかし……どうして私を探していたのだ?』
「そうだな……その件に関しては結に説明してもらうのが一番良さそうだな」
「え、結まで関わってるの? どういう事!?」
「結自身は一般人だが、訳あって事情の一部を話した。
信用できる話し手という意味でも、適任だろう」
「信用って……確かにちょっと信用できないけどさ……」
「それが当然の反応だ。まずは結から話を聞いてみてくれ。
その後で、気が済むまで蹴り飛ばしてくれればいいさ」
「蹴らないわよ!!」
「アハハ……
ん~、もうHR始まってる時間だな。行ってらっしゃい」
「あ、ホントだ……って桂木はどうするの?」
「HRなんてどうせ大した話しないだろ?
仲良く教室に帰って目立つものヤだし、ここでのんびりサボってるさ」
「た、確かに悪目立ちするでしょうね……
まぁ、桂木だし大丈夫か。じゃあね!」
そう言って歩美は駆け出す。
が、数歩ほど進んだ所でまた戻ってきた。
「どうした?」
「……ちょっと気になったんだけど、どうして結の事を結って呼んでるの?」
「ん? ああ。本人を『五位堂』って呼んだら『その名字は嫌いだから名前で呼んでくれ』って言われたんだ」
「ああ、そういう……確かに結ならそう言いそうね。
分かった。今度こそじゃあね!」
そうして、今度こそ歩美は屋上から出て行った。
この後の予定は……昼休みくらいに歩美が結と話して、その後の放課後に……
……いや、放課後まで待たずとも午後は舞校祭の準備がある。運動部で集まるって事もなければ軽音部で集まるわけでもないだろう。ステージの準備はもっと別の所が担当してるはずだ。
となると、うちのクラスでの集まりに参加する事になる。その時にじっくり話せるだろう。
結への演技指導は……しない方がいいな。従って貰えるかどうかも分からないし、結には自然体で話してもらった方が歩美に好印象を与えられるはずだ。
ただ、余計な事を口走ってしまわないように見張っておく必要はあるか。
「……中川、居るか?」
「うん。ここに居るよ」
「歩美と結の会話の監視、頼めるか?」
「別に構わないけど……桂馬くんは何するの?」
「ちょっと気になる事があってな。
空を飛ぶ必要があるんでエルシィも連れていくつもりだ」
「空を……? まあいいか。
分かった。頑張ってね」
「ああ」
昨日の占術世界で、あの禍々しい黒い靄は海のある1点から現れていた。
具体的にどんな災厄が待ち受けているのか……調べておいて損は無いだろう。
……一方、地獄では……
「降格……ですか」
「ええ。以前のあなたの失態も考えると妥当な所でしょう」
公安に言い渡された私の処分は、『地区長からの降格』だった。
ショックを受けなかったわけではないけど……またヒラ悪魔の立場でイチから学び直すっていう意味ではむしろ有難いのかもしれない。
それに、エルシィを見ているとよく分かるけど、駆け魂狩りの成績と悪魔の能力は必ずしも比例はしない。そんな環境で昇進や降格を一喜一憂するのは疲れるだけだ。
そう、思うことにしておくわ。決してショックだったわけじゃないんだから!
……2~3日分のログデータ紛失だけにしては重い処分だと思うけど、以前駆け魂を取り逃してクビになりかけた事を考えるとまだマシだと思っておきましょう。
「後任の地区長は追って通達されます。引き継ぎの準備等は早めに済ませてください」
「分かりました。私の担当地区……と言うか、担当区域は……?」
「ひとまずは以前と同じ区域を担当して下さい。詳しい事は追って通達されます」
「……分かりました。では、失礼します」
ようやく帰れるみたいね。
とりあえず……自宅に戻って、それからどうするかを考えましょうか。
「あ、少々お待ち下さい」
「……まだ、何か?」
「あなたは羽衣のログ記録の機能を破損していたでしょう?
こちらで補充用のナノマシンを用意したので時間がある時に使用して下さい」
「分かりました」
公安からビン詰めにされたナノマシンの塊を受け取る。
……何か妙なウィルスでも仕込まれてないでしょうね?
羽衣の修復はやりたいとは思ってたけど、素直に使っていいかは微妙ね。
「では、今度こそ失礼します」
「ええ。お疲れさまでした」
……一旦家に帰って、このビンの解析からかなぁ。
ようやく舞校祭の日程が本編中で明かされるという。
本日が金曜で、土日に舞校祭です。