37 地獄の尋問
さて、
色々と大変な事になっている桂馬たちについて語る前に、こっちもこっちで別の意味で大変な事になっているハクアについて語っておこう。
私が独房のような所に閉じこめられて何時間経過しただろうか?
せいぜい固めの椅子くらいしか無い殺風景な部屋だ。精神的に追い詰める効果でも狙っているのかもしれない。
あと、補足しておくと監視カメラの類も無い。隠しカメラも……私が確認した限りでは無かった。そもそもカメラが必要になるような用途で作られた部屋じゃないのか、あるいは記録を残したくなかったのか、そんな所だろう。
そのおかげで私はのんびりとログの破壊(電撃魔法による記録用ナノマシンの破壊)ができた。前にも言ったように厳重に守られている座標データはそこそこ復元されるだろうけど、音声や映像その他諸々のデータは復元不可か、あるいはかなり時間がかかるだろう。それだけの時間があれば桂木なら余裕で6人の女神を集めきる。
そうして暇せずに過ごしていると顔を隠した公安の悪魔が入ってきた。
部屋に入ってきたのは1人だが、外には数名の悪魔が待機している。
「取調室に移動します。着いてきてきて下さい」
「……はい」
ノーラは『拷問紛いの尋問』とか言ってたけど、一体全体何をされるのやら。
……この連中の機嫌を損ねないように、上手く立ち回らないと。
ルールの網目のギリギリを突くとか、そういうのって私の分野じゃないでしょ。そもそも網に近づく事を考えた事すら無いんだから。
取調室に連行されると、人間界のドラマでよくあるみたいに質問する悪魔と机を挟んで向かい合わせに座らされた。
ドラマとは違うのは、どういうわけか私ともう1人の他に4人も悪魔が居る事。そのうち2人は私のすぐ隣に立っていて、あとは唯一の出口である扉の前と質問役のすぐ側に立っている。
まるで脱走や反逆を警戒しているかのような配置ね。実際そうなんでしょうけど。
「重ねて申し上げますが、これは取り調べではありません。気軽にお答え下さい」
「私に答えられる事であれば、なんなりと」
取り調べじゃなくて冤罪を吹っかけようとしてるんでしょうね。確かに嘘ではない。
「では、最近何かいつもと違う事はありましたか?」
「……と、言いますと?」
「何でも良いのです。心当たりがあれば答えてください」
「……強いて言うなら今です。私が服務違反を犯したとの事ですが、どういう事ですか?
私は誰かに告発でもされたのでしょうか?」
「ええ、その通りです。あなたが服務規定違反をしているという匿名の通報がありました」
「一体誰がそんな馬鹿げた事を……
誰からの告発か……は流石に無理として、具体的な告発の内容、いつどこで何をしたといった事を教えていただく事は可能でしょうか?」
「申し訳ありませんがお教えする事はできません」
そんな事言われたら弁解のしようが無いんですけど?
仮に教えられたとして、理詰めで反論しても結局何か吹っかけられそうだけど……
「何か、ご自分の身に思い当たる事はありませんか?」
「……いいえ、特にはありません」
「そうですか……
……あなたが入国した際に提出した活動ログを拝見させていただきました。
見たところ特におかしな所は無かった」
「それは何よりです」
「はい。なので、写しではなくオリジナルの活動ログを提出して下さい」
この要求、ちゃんと想定しておいて良かった。
ちゃんと応答も考えてある。
「えっ、オリジナル……ですか?」
「はい。何か問題でも?」
「いや、あの、問題といいますか……提出済みの写しではダメなのですか?」
「はい。念のため確認させて頂きます」
「……はぁ、分かりました。見せた方が話が早いでしょう。どうぞご覧下さい」
ここで意地でも拒んだらノーラが言ってた通り反逆罪にされるのかしらね。
そういうわけにはいかない以上、私は羽衣を提出するしかない。
「拝見させて頂き……
……ハクア殿? これはどういう事ですか?」
「だから見せたくなかったんですよ……
本当に申し訳ありません。雷撃魔法の練習をしていたらちょっと制御に失敗しまして。
それで……ご覧の有様となっております」
ログの破壊が隠せない以上、こういう筋書きにでもするしか無い。
私に責任が行かないような言い訳も一応考えたけど、例えばエルシィのせいにでもしたらもっと探られたくない場所を探られるかもしれないし、敵から雷撃を受けたとかいう事にすると大事件になって嘘を通せなくなる。(そんな物騒な事ができる駆け魂はごく稀だ。もしかすると駆け魂の仕業じゃないならと天界の関与を疑われるかもしれない)
これで納得してくれたらいいけど……そう都合良くはいかないでしょうね。
「……そうですか。では、こちらの写しは一体どういう事ですか?」
「提出用以外にも、自分で振り返って反省会ができるように記録を取っておいたんです。
今日の入国時はひとまずそれを提出させて頂きました」
「次回以降は一体どうする気だったのですか」
「次回までに精一杯の修復を試みて……不可能なようであれば報告するつもりでした。
活動ログの収集も羽衣が必要不可欠というわけではないので、次回か次々回くらいまでならどうにかなるかと」
「ふむ……事情は分かりました。そういう事であればログの提出は結構です。
この羽衣もお返ししましょう」
あれ? あっさりと返された。没収されてデータ修復されるくらいは覚悟してたのに。
「しかし……あなたが支給された装備を破損させた事は明らかです。
何らかの処分が下される事は間違い無いでしょう」
「そう……ですよね。
減給程度で済めば良いんですけど……どうなんでしょう?」
「処分を決定するのは我々ではないので何とも言えません。
今から報告してくるので、もうしばらくお待ち下さい」
そう言って私に質問をしていた悪魔は去って行った。
まだ周りでは4人の悪魔が私を監視してるけど……一応、この尋問は凌いだみたいね。
しっかし、いやに諦めが良かったような。助かったけど、どういう事かしら?
ハクアならその気になればログの徹底した破壊くらいはできそうです。
何故か証拠品になる羽衣も没収されてなかったし。
ただ、ナノマシンが強い電気に弱いという設定は本作で勝手に付けた設定なので、実際には効かない可能性もあります(主に姫様がフィなんとかさんを撃退する為に生えてきた設定)
ハクアが電撃を扱えるのもハクア編(ハクアが初登場した章)の反省会で桂馬がサラッと言った『鎌が燃えたり帯電したりしていた』という本作独自の台詞から来ているのでそもそも扱えない可能性もあります(ハクアなら原作でも使えそうな気がするけど!)
ま、まぁ、電撃による破壊にこだわらずとも何らかの方法でどうとでもなりそうです。燃やすとか。
以前も後書きで述べたように、原作を読む限りではヴィンテージはハクアを狙ったわけではなくあの辺の地区長をヴィンテージで固めたかっただけのようです。
なので、わざわざ反逆罪に仕立て上げて懲戒解雇までさせる必要は無く、ただ地区長から失脚させられる口実があれば十分でしょう。ハクアは以前も別件でやらかしてるのでこれくらいの口実でも十分のハズ。
誇り高きヴィンテージに雷撃魔法を暴発させちゃうようなドジっ娘悪魔に構っているヒマなど無いのです! ダミーログ自体は本当に何の問題も無かったし! データの復元なんて超面倒くさいし!