残り時間は1週間の半分も無い。
アポロの言うことを信じるならせめて舞校祭が終わるまでそっとしておくという選択肢は潰えたようだ。
しかし一体何が起こるんだ? ヴィンテージの連中が関わってくるならロクでもない事なのは間違いなさそうだ。
幸いな事に舞校祭はもうすぐそこだ。このイベントを利用すれば歩美の攻略はそう難しいものではないだろう。
問題は、その次。最後の女神だ。
ここまで来て見つからないという事は流石に無いだろう。既に見つけている誰かが宿主だ。
しかし、記憶が戻っているらしい人物は居ない。
ならば、一度フラットにした状態で考えて記憶以外の条件を考慮した場合、一番怪しいのは僕に最も近い人物、かのんだ。
いや、問題はそこじゃない。目星を付けた所でそれがハッキリとは確定しない事だ。
歩美は速攻で片付けるとして、その後にどれだけ時間がかかるのか。目的地が分からないようでは予定など組みようが無い。
かのんが宿主だと断定して外したら大惨事だぞ。
歩美を攻略したら状況は変わるのだろうか? 先送りにするしか無いのか?
……今は、歩美を攻略する事だけを考えよう。選択肢はいくらでもあるさ。
……結論から言うと、彼の考えた計画はほぼ無駄となる。
何故なら……今日、この街の某所で、とある2人の女子のこんな会話があったからだ。
「おーい歩美! 一緒に帰ろうぜー!
今日は近くのコンビニで新しい肉まんが出るから一緒に買い食いしよー」
「ちひろったら、また肉まんなの? よく飽きないね」
2人の女子とは、言うまでもなく高原歩美と小阪ちひろだ。
幼馴染みである彼女たちは非常に仲が良い。
ちひろが中学生の頃に帰宅部になってからは一緒に下校する頻度は減ってしまっていたが、一応同じ部活になった今では以前以上に一緒に帰っているようだ。
「見よ! あれが新発売の肉まん、その名も『オムそばまん』だ!!」
「……うちの外パンのパクリじゃないでしょうね?」
「さーねー。食べてみれば分かるんじゃない?
店員さん! 新発売のヤツ2つ!」
コンビニの店員からそれを受け取って店を出る。
味の方は……いつものオムそばパンとは違ったようだ。
「ん、外パンとは違うね。これはこれで美味しいけど」
「よっぽど混んでたら買いに来るのもアリかも」
買い食いを終えた2人はゴミをきっちりゴミ箱に捨ててから下校を再開する。
のんびりと、雑談をしながら。
……例えば、こんな雑談。
『うちのクラスで、妙な事を言ってる奴が居たよ』とか。
「そーいえばさ、桂木の奴がさ」
「えっ、ど、どうかしたの?」
「? 歩美こそどうかしたの? 何か挙動不審だけど」
「そ、そんな事無いわよ? それで?」
「あ~、うん。何か『何とかの姉妹』って知ってるかって訊いてきたんだよ」
「姉妹? どういう事?」
「いや、知ってるか知らないかだけ聞いたらすぐに話を止めちゃったんだよ。
何て言ってたんだっけかなぁ……あ、思い出した。『ユピテルの姉妹』だ」
「……えっ?」
「『ユピテルの姉妹』だよ。何だったんだろうね」
「…………どういう……こと……? 何で、桂木が……?」
「歩美? どうかしたか?」
「……ごめん、ちょっと、今日はもう帰る」
「え? おーい!
……行っちゃった。何だったんだろう?」
こうして、神託の通りの舞台が整えられる。
しかし、案ずる事は無い。
絶望を越えた先にこそ希望が輝くように、疑心の果てにこそ真の信頼が生まれるのだから。
というわけでかなり短いけどここまでです。
歩美編(マルス編)の導入をどうしようか迷っていましたが、せっかくだからこんな感じのものを考えてみました。
『攻略中に女神と関わっている事をバレる』というのは原作でも無かった展開ですね。その辺の情報はちひろが止めてたので。
……これ、ちゃんと攻略できるんでしょうかね……本文の最後に何か偉そうな事を書いてますが根拠は全くありません。
きっと落とし神様なら何とかしてくれるハズ!!
……なんて事を書いてみましたが、実際に数話書いてみたら割と何とかなりそうです。しかも短期決戦で。
原作みたいに長期戦に持ち込もうとしても逆にできないっていう。
大体マルスさんのせい。
では、また次回、『『勇気』の女神は疑念の先に輝きを取り戻す』でお会いしましょう!