もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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35 読解

 PFPのメモ帳機能……ではなくメーラーで神託の文面を打ってついでにかのんにも送信しておく。

 

「あ、ありがとう。覚えきれてなかったから助かったよ」

「その神託とやらが役に立つかは分からんがな」

「あの……桂馬君、私にも神託の内容を送ってくれない?」

「ん? ……ああ、麻美か。構わんが、アポロ自身は覚えてないのか?」

『もう既にうろ覚えぞよ。妾が文面を考えているわけではないからのぅ』

 

 そういうものか。まぁ、別に構わん。

 麻美と、ついでにエルシィにも送っておく事にする。

 

「さて、これの解読と今後の計画、どちらを優先すべきか」

「分担しようか。攻略計画は桂馬くん1人で立てられるよね?」

「お前が協力してくれた方が穴のない計画になりそうだが……そうだな。解読の方は頼む」

 

 かのんもこっちに回すと残ってるのが女神コンビと麻美だけになる。

 麻美はまぁ……まともだが、女神が当てになる気がしない。かのんに手綱を握ってもらっていた方がいいだろう。

 

「じゃ、上に行ってるから何か用があったら呼んでくれ」

 

 歩美の攻略か。

 他の攻略に専念する為に一旦落ち着かせた状態だが……どうひっくり返すかな。

 ウルカヌスみたいに殺されかけるのは勘弁してほしいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、こっちも始めようか。

 あ、でも……麻美さん時間は大丈夫なの? 門限とかあるよね?」

「まだ大丈夫。中川さんと一緒の方が良い考えが思いつきそうだから一緒に考えさせてほしい」

「分かった。あと、私の事は名前で呼んでいいよ。て言うか呼んで」

「え? えっと……かのん……さん?」

「……それはそれで微妙に距離を感じるけど……まあいいや」

 

 こっちだって『麻美さん』と呼んでるから文句を言える立場じゃない。

 解読を始めるとしようか。この先の攻略の助けになるかもしれないから。

 

 

      ………………

 

 三百年の時を経て六柱の女神は運命の地へと舞い降りる

 冥界より来たる互助の女神が舞い降りるは人間の神と姫の身許。其の者が存在する場所こそが運命の集結点となる

 『純真』の女神は十年の時を経て帰還する

 『思慮』の女神は邂逅を果たす

 『互助』の女神は地に伏せ、運命が動き出す

 『創造』の女神は猛りと共に顕現す

 『勇気』の女神は疑念の先に輝きを取り戻す

 『叡智』の女神は始まりの刻より神姫の傍らにて眠る

 六柱の女神が顕現せし時、運命の地を襲う大いなる災厄は振り払われるであろう

 心せよ。答えを未来に問うなかれ。答えは汝の過去にあり。汝の心の内にあり

 あらゆる可能性を疑い、意識の隙間を埋めよ。最後の答えはそこにある

 

      ………………

 

 

「女神の封印の期間は大体300年くらいだよね」

「はい、その通りです。私がエルシィとして地獄で過ごしたのはおおよそ300年です」

 

 これで1行目の『三百年の時』の意味は分かった。

 ……だからどうしたって話だけどさ。

 

「『六柱の女神は運命の地へと舞い降りる』

 運命の地っていうのはここの事だよね? 後の方でも大きな災厄が運命の地を襲うって書いてあるし」

『おそらくはそういう事じゃろう。舞島の街へと我々が舞い降りるという事じゃな』

 

 という事は、やはり女神に欠員が出ているなんて事は無さそうだ。

 6柱の女神は必ず存在する。

 

「『冥界より来たる互助の女神』

 これは間違いなく私の事ですね」

「互助はエルシィさんの……女神ミネルヴァの事だよね?

 人間の神と姫っていうのは私たちの事かなぁ」

『そもそも『人間の神』という言葉が矛盾しておるからのぅ。厳密な意味での神と姫では無さそうじゃな』

「エルシィさん、桂馬君となか……かのんさんの事を『神様』『姫様』って呼んでるよね?

 そのまま捉えていいんじゃない?」

 

 エルシィさんが舞い降りたのは私たちが居た場所だ。その解釈で間違い無いだろう。

 その次に続く文は……そのまんまの意味だね。私たちこそが運命の集結点だ。

 

「『純真』はディアナさん、『思慮』はアポロさん、『互助』はエルシィさん、『創造』はウルカヌスさん。

 あと、『勇気』がマルスさんで『叡智』がメルクリウスさんだったよね?」

『その通りじゃ』「その通りです」

「……私たちが会った順と同じだ。エルシィさんだけはちょっと違うけど、大きなイベントが起こった順番としてはこの順番だ」

『確かに、そのようじゃな。後半の文も大体合ってるのかや?』

「ディアナさんの宿主の天理さんがこの街を離れてたのは10年。ピッタリと一致してるよ。

 アポロさんはちょっとフワッとしてるけど、ディアナさんに会えたって事なら通る。

 エルシィさんは倒れて、そこから一気に色んな事が……運命が動き出した。

 ウルカヌスさんは……そりゃあもう怒ってたね。それ以上に月夜さんが怒ってたけど」

『姉上の登場はちょっと見てみたかった気もするのぅ……』

「姉上? 誰の事?」

『妾の姉上はウルカヌス姉様しかおらんぞよ。妾は次女じゃからな』

「ちなみに、ディアナさんは三女らしいよ。ミネルヴァさんは……五女だっけ?」

「いえ、四女です。五女はマルスで、末妹にメルクリウスと続きます」

「……エルシィさん、末っ子じゃなかったんだ」

「あの、姫様? それはどういう意味でしょうか?」

 

 エルシィさんに2人も妹が居た問題は置いておいて、次に移ろう。

 4人の女神を既に攻略しているからその辺の情報はもう要らないけど、残り2人に関しては何か分かるかもしれない。

 

「『疑念の先に輝きを取り戻す』か。どういう意味だろ、コレ」

「疑って、復活する? 女神の力って『疑い』の感情じゃ復活しないよね?」

『そりゃそうじゃ。疑いなどネガティブな感情の筆頭ではないか』

「疑う事自体は別に悪い事では無いと思うけど……

 ん~、疑いを乗り越えた先に、愛は生まれるって事かな」

 

 次に攻略予定なのは歩美さんだ。

 何か疑われるような事をやらかすんだろうか?

 ……心構えだけはしておこうか。次だ。

 

「『始まりの刻より神姫の傍らにて眠る』

 ……この、神姫っていうのはさ……」

『ほぼ間違いなく、お主らの事じゃろうな。神と姫でまとめて神姫じゃろう』

「……そう解釈すると、最初からずっと側に居るって事になるよね?」

『そうなるのぅ』

「…………メルクリウスさんってどんな人……もとい、女神なの?」

『一言で言うと術式オタクの寝ぼすけじゃな』

「『叡智の女神』というくらいなので知識量において右に出る者は居ません。

 無駄にしか見えないような知識も沢山ありますけど……」

「う~ん…………」

 

 私の中で眠っている可能性、あるのかな?

 『始まりの刻』の解釈で他の可能性も生まれるかな? いや、私と桂馬くんが契約を結ばせられてから今に至るまで、私たちに最も近付いているのは私自身くらいしか居ない。

 ……いや、もう1人居るか。

 

「念のために訊いておくけど、エルシィさんの中にメルクリウスさんが居るって事は無いよね?」

「いや、流石に居たら気付きますよ」

「だよねぇ……」

『解釈が誤っている可能性もあるのじゃ。分からんものは気にしない方が気が楽じゃよ』

「それ良いのかなぁ。神託を下した人に失礼じゃないかな。一応アポロさんではないんだよね?」

『その辺の解釈は任せるが……神託なんてそんなもんじゃよ』

 

 重ねて言っておくけど、私の中には女神は居ない……気がする。

 ……次、行こうか。

 『六柱の女神が顕現せし時、運命の地を襲う大いなる災厄は振り払われるであろう』

 これは……そのまんまの意味で大丈夫そうだ。次!

 

「『心せよ。答えを未来に問うなかれ。答えは汝の過去にあり。汝の心の内にあり』

 これは……どういう意味だろう?」

『神託にはよくあるんじゃよ。こういう誰に伝えたいのか分からん文が』

「……神託って一体……?

 えっと……汝っていうのは明らかに誰か特定の人に向けて言ってるように見えるけど、私と桂馬くんの事でいいのかな?」

「かのんさんと桂馬君が中心に居るなら、そういう事になる?」

「この場面で誰かに訴えかけるのであれば神様と姫様以外には居ないでしょう」

 

 この言葉を普通に解釈するなら……私か、あるいは桂馬くんは気付いていないだけで既に『答え』を知っているという事だ。

 

「この『答え』っていうのと次の文章に出てくる『最後の答え』っていうのは同じものなのかな?」

『『あらゆる可能性を疑い、意識の隙間を埋めよ。最後の答えはそこにある』か。

 ちょっと分からんぞよ』

「前半がマルスさんで、後半がメルクリウスさんを指してる可能性もあり得る?」

 

 マルスさんの居場所については多分歩美さんで確定だろう。よっぽどてこずらない限りは行方不明の女神よりも攻略完了が遅くなるという事は無いはずだ。

 と言う事は……うーん……

 

「……きっといつか分かると信じておく事にしようか」

『先延ばしというヤツじゃな』

「……一応、神託によれば次はマルスさん、多分歩美さんだし、そっちの攻略が終わってからまた考えてみる事にするよ」

 

 疑問がスパッと分かるような能力だったら良かったのに、融通が効かない能力だ。

 今日はもうゆっくり休むとしよう。明日からも、また頑張らないと。


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