メールの返信ボタンを押したら空から女の子が降ってきた。
何を言ってるか分からないと思うけど私にも分からない。
(お、おい、お前の知り合いか?)
(う、ううん、キミこそ心当たり無いの?)
謎の女の子に聞こえないように小声で話し合う。
名前も知らない男子のはずなのに、異常事態に直面したせいか妙な連携が成立したみたいだ。
(僕に3D女の知り合いが居るわけがないだろう)
(え? う、うん)
(……はぁ、こうしていても仕方がない)
男子生徒は女の子の方を向いて問い質した。
「一つずつ整理していこう。
まず、おまえは何者だろうか?」
確かに凄く気になっていた事だ。空から降ってくるなんて只者ではないだろう。
「私、エリュシア・デ・ルート・イーマといいます!
皆はエルシィって呼んでます!
地獄から派遣された、駆け魂隊の悪魔です!!」
………………
どうやら関わってはいけない人のようだ。
男子生徒も同じ事を考えたのか同じタイミングで踵を返して屋上の扉へと向かう。
「さぁ、仕事しないと! 忙しいなぁ!!」
「今日は木曜か。ゲーム買いに行こう」
「あっ、気をつけてください。
首、取れちゃいますよ?」
……え? 今、首が取れるって?
思わず首に手を当ててみると何か固いものがある。
これは……首輪?
「な、何だこれは!?」
よく見ると隣の男子生徒も首輪がかけられてる。
「神様と姫様は悪魔と契約されたんですよ。
契約書、送られましたよね? 室長のドクロウさん宛てに」
どく、ろう?
あっ! そう言えばさっきのメールっ!!
(もしかして、キミもメールを!?)
(……ああ。凄く心当たりがあるっ!)
悪魔と契約なんて突然言われても信じがたいけど、実際に首輪がつけられてるわけで……
ど、どうなっちゃうの私たち!? 悪魔の契約ってお金で何とかなるのかな? それとも寿命やら魂を払えとか……
「地獄の契約は厳しいので注意して下さいね?
もし契約を達成できなかったり、勝手に破棄しちゃいますと、その首輪が作動し、首をもぎ取ります」
……まさかの、命だったよ……
「あはっ、あはははは……」
「ふ、ふざけるなぁっ! 早く外せぇぇぇっっ!!」
「だ、大丈夫ですよ! 駆け魂を捕まえれば外れますから!!」
かけたま? そう言えばさっき『駆け魂隊』とか言ってたような……
「駆け魂って何?」
「駆け魂とは、地獄から脱走した悪人の魂の事です。
放っておくと地上で悪さをするので私たちが捕まえて回っているのですが……」
「捕まえたきゃ捕まえれば良いじゃないか。僕を巻き込むな」
「いえ、それが簡単には捕まえられないのです。
何しろ、奴らは『人の心のスキマ』に隠れていますから」
「心の、スキマ?」
「おいおい、捕まえようが無いだろそんなの?」
「大丈夫です!」
エルシィさんは自信満々に言い放つ。
「要は、心のスキマを埋めてしまえば良いんです!
そして、心のスキマを埋めるには恋が一番っ!
落とし神様のお力で心のスキマを埋めて下さい!!」
落とし神っていうのは、この男子生徒の事なのかな?
なんだかよく分からないけど、実は凄い人なのかな?
「ま、まてまてまてまて! 僕に
あれ? 何か焦ってる?
「え、まぁ、ほどほどに、あの、口付け程度で良いので……」
「バカヤロー!!!! お前はとんでもない勘違いをしているぞ!!
僕が愛しているのは2D女子だけだ!
えっとつまり……この男子生徒には心のスキマを埋める事はできなくて、それだと駆け魂が捕まえられなくて、そうなると私たちは……
……これって、もしかしなくても絶体絶命?
「そ、そんなっ! 何とかならないんですか!?」
「
「え、わ、私!? れ、恋愛なんて無理だってば!!」
男の人なんてお父さんとカメラマンの人とスタッフの人とファンの人とくらいしか話したことないし!
あれ? 意外と多い? でも恋愛は無理だ。
「神様、それは無理です」
「何でだ?」
「だって、駆け魂が隠れるのは女性の心のスキマだけですから」
なるほど、それだったら私に出番は無いだろう。
ソッチ系の趣味の人が相手だったら話は違うかもしれないけど……いや、今は想像しないでおこう。
……あれ? ちょっと待って?
「あの、それだったら何で私まで契約を? 私じゃ何の役にも立てないと思うけど?」
「歌姫様には駆け魂を出した後の事をお願いしたいのです!」
歌姫ってどう考えても私の事だよね?
今までそういう風に呼ばれた事は無かったけど……わざわざ訂正させるほどじゃないか。
「後っていうのは?」
「本来なら悪魔が専用の道具を使って駆け魂を捕えるのですが、私はその道具を使えないのでその場で退治して欲しいのです!」
「た、退治!? む、無理だよ!!」
私にできる事なんてせいぜいスタンガンで人を気絶させるくらいなのに!
「歌姫様なら大丈夫です!
駆け魂は悲しみや恨みといった負の感情をエネルギーにするので、その逆、喜びや感謝といった正の感情をぶつける事で倒す事ができるのです!
歌姫様の歌なら、駆け魂を退治できるはずです!!」
「私の、歌で?」
「はいっ!」
メールに書いてあった『彼ら、彼女ら』っていうのは駆け魂の事だったんだね……
歌うのは別に構わないんだけど……犯罪者相手に歌うっていうのも何か微妙な気分だ。
「歌うだけで良いなら、構わないけど……」
「わぁっ、ありがとうございます、姫様!!」
「構わないんだけど……心のスキマから追い出すのは……」
チラリと隣の落とし神様に視線を送ってみる。
「無理に決まってるだろ!!」
「そ、そこを何とかお願いします、神様!」
「やるやらないじゃなくてできるできないの問題だっ!
2D女子の攻略理論が3D女子に通じるわけ無いだろ!!」
「や、やってみなければ分からないではありませんか!!」
いや、どうなのかな? 流石に難しいんじゃないのかな?
でも、頼れる人がこの人しか居ないというのもまた事実なわけで……
「それに、私たちの命もかかってるんです! どうかお願いします!!」
「ん? 『私たち』だと?」
まさか、と思ってよく見てみるとエルシィさんの首にも私たちと同じ首輪が付けられていた。
っていう事は、駆け魂を捕まえられなかった場合……
「………………はぁ、やるだけやってみるか」
「かっ、神様! ありがとうございます!!」
「上手く行く保証なんて無いからな? 失敗しても恨むんじゃないぞ?」
「勿論です、神様!」
う~ん、不安だけど……何もできない人間が言って良い台詞じゃないよね。
ここは神様に託すしかなさそうだ。
「で、ターゲットはどこのどいつだ?」
「えっとですね……」
き~んこ~んか~んこ~ん
「……続きはまた放課後だ。屋上に集合で良いな?」
「はいっ! お待ちしています!」
……とりあえず、放課後の仕事に遅れるって連絡入れとこう。
とりあえずここまで投稿。
次回以降は同じ時間に隔日投稿の予定です。