もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

295 / 343
束の間の小休止と女神の神託
27 日常風景


  ……女神攻略 4日目……

 

 エルシィが復活したおかげで差し迫ったタイムリミットは無くなった。

 しかし、大元を断つことができなければ再び同じ事の繰り返しになりかねない。今回刺されたのはエルシィだったから瀕死で済んだが、かのんが刺されていた場合にどうなっていたかは分からない。

 そんな事になる前に、女神をできる限り復活させておかなきゃならん。

 

「次はどっちから行くの? アポロさん? 歩美さん?」

「そうだなぁ……」

 

 あ、そうそう。エルシィは復活したが、依然としてかのんによる変装は続行している。

 羽衣さんはエルシィに返却したので今のかのんは透明化が使えない。わざわざエルシィに使ってもらわないと使えない。

 だったら、最初からエルシィを透明化しておいてかのんは今まで通りにした方が便利だというわけだ。

 

「他の人が演じる私の姿を見るというのも中々に奇妙な感覚です」

「僕達にとってはお前の口調の方がよっぽど奇妙なんだが……」

「そこに文句を言われましても。慣れてください」

「善処する。

 ……って、ちょっと待て。まだ中川はお前の演技なんてしてないぞ?」

「えっ? 聞き取りやすい良い声でフレンドリーに神様に語りかけるこの口調は私のものではないんですか!?」

「違ぇよ! このポンコツ女神!!」

 

 エルシィは透明化しているので表情は伺えないが……冗談めかして言ってるような口調には聞こえなかったのできっと本気で言ってるんだろうな。

 

「エルシィさんの声は……もうちょっと間延びしててポワポワ~ってした感じだよ」

「そ、そんなバカな。有り得ません!」

「何を根拠に断言してるんだ……?」

 

 何というか、平和だな。

 このバグ魔が起きた時には口調が変わっていて驚いたものだが、一皮剥けば前と殆ど変わらないバグ女神が戻ってきていた。

 

 ……さて、感傷に浸るのは置いておいて、話を本題に戻そうか。

 

「そう言えばさ、今日はアポロさんと一緒に登校しなくて良かったの?」

「ん? ああ。今日はいいや。攻略において、押し一辺倒じゃなくて時には引く事も重要だ」

「押してダメなら引いてみろってヤツだね?」

「そういうこった。今頃アポロは悶々としてるだろうな」

 

 

 

 

  ……その頃のアポロ……

 

『……桂木の奴、来ないのぅ』

「そうだね。来ないね」

『あやつをコテンパンにする為に色々と準備しておるのに、台無しではないか!』

「そんな事してたの……?」

『勿論じゃ!! どうせそのうちすぐに現れるじゃろ。その時が年貢の納め時じゃ!!』

(……何故だろう、今日は来ない気がしてきた)

『ん? 麻美? 何か言ったかのぅ?』

「ううん~、何でもないよ~」

 

 

  ………………

 

 

 

「……女神って、一体何なんだろうね」

「……さぁな」

「???」

 

 エルシィが居るはずの方向を眺めながら、僕達はしみじみと呟いた。

 

 

 ……ああ、そうだ、ハクアについてだが今日は来ていない。なんでも地区長以上が参加する定期報告会みたいなのがあるらしい。

 問題が無ければすぐに戻ってくるとは言っていたが……こういう場合って大抵は何かあるんだよな。ゲームでは。

 今から心配しててもしょうがないか。帰ってくるまで大人しく待っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっす! おはようエリー!」

「おはようございます! ちひろさん!」

 

 教室に入るとちひろが挨拶をしてきたのでかのんがいつも通りに挨拶を返す。

 女神口調のエルシィの演技ではないんだな。今までの口調の方が慣れてるし、突然口調が変わっても怪しまれるだけだから当然と言えば当然か。

 

「昨日はどうしたのさー。何か大事な用事があるって言ってたけど」

「えぇっと……ごめんなさい。内容までは話せません」

「ん~、まいっか。何か結が『まだ来れないのか』とか言ってたけど、今日は部活来れる?」

「……はい。バッチリです! 生まれ変わった私の姿をお見せします!!」

「へぇ。それじゃ、期待させてもらっちゃおうかな」

 

 女神ミネルヴァの音楽の腕前に関しては未知数だが、会話するときの口調で驚かれるのは確実だろうな。

 ただ……

 

「か、神様! 私ってあんな間の抜けた喋り方じゃなかったですよね? ね!」

 

 ……一皮剥けば全く変わっていないので全く問題は無さそうだ。

 って言うかエルシィうるさい。僕に聞こえてるって事はそこまで徹底した防音してないよな?

 

 

「あれ? 何かエリーの声が変な所から聞こえたような……」

「き、気のせいじゃないですか? きっとそうですよ!!」

「そうかなぁ……」

 

 ……軽音部、か。

 せめて舞校祭が終わるくらいまではそっとしておくという選択肢も視野に入れるべきなんだろうか?

 う~む…………







 本文中に自然な感じで挟めなかったからこの場で日程ちょっと整理しておきます。

 舞校祭は2日間。とりあえず土日としておきましょう。
 (原作をよく確認すると数日前に週末(図書館訪問からの月夜再攻略(ウルカヌス様攻略))があったので実際には祝日か平日っぽい。
  けど本作では結構前から週末にやる前提で進めている描写があるのでこのまま進めます)
 なお、その前日の金曜の夜には前夜祭があります。原作では桂馬がちひろにやらかしたあの日ですね。
 原作において女神攻略が終了したのは舞校祭1日目の夜のようです。その後、明け方にちひろが桂馬の家にギターを取りに戻り、その日の夕方頃に後夜祭のライブがあったっぽい。

 攻略終了を原作と同じタイミングに合わせるなら、なおかつアポロとマルスとメルクリウスにそれぞれ1日ずつかけるなら本作では現在木曜日みたいですね。
 尤も、無理に合わせる必要もありませんが……その辺はまだ未定です。
 一応メルクリウスの攻略の会話の流れだけはほぼ決まっているんですが、マルス攻略の流れは全く作ってません。原作の歩美並に手間がかかるとすると3日もかかるわけですが……どうしたもんかなぁ。いやまぁ、本作ではちひろが候補から外れてる分だけ楽できるからそこまではかからないでしょうけど。

 そういうわけなんで、現在の曜日は予告無く変化するかもしれません。
 桂馬が唐突に『明日は舞校祭だ!』とか言い出すかもしれませんが……生温かい目でスルーして下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。