もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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 ベランダに出て、外の空気を吸いながら物思いに耽る。

 

「残り2人、アポロも含めるなら3人……か」

 

 未発見の女神はマルスとメルクリウス。そのうち片方は歩美の中に居るのは確定だろう。

 あと1人は、やはりかのんの中に居ると考えるのが自然だ。しかし、本人にその自覚は無いようだ。

 何か見落としているのか? 

 例えば、僕との関係性が薄かった連中は細かい調査はしていない。していないが……そこに女神が居るというのは流石に無理があるか。

 

 ……悪魔の中に女神が居る可能性はあるだろうか? 一応エルシィという前例がある。

 いや、これも望み薄だな。僕と関係性が近い悪魔なんてエルシィを除けばハクアくらい。あとは一応ノーラもか? いや、流石に遠すぎるか。

 辛うじて有り得るハクアも勾留ビンが使える時点で除外できる。

 ……待てよ? ハクアはあくまで宿主で、その中に女神が居る場合はどうなる? 女神自身に勾留ビンは使えなくてもハクアが使えれば……

 いやいや、それでも元々の関係性が遠すぎる。そして本人も女神は居ないと言っている。それだったらかのんの中に女神が居る方が10倍くらい有り得る。

 

 同学年に未発見の駆け魂が居て、そこに女神も居る可能性は?

 こればっかりは流石に無いと信じたいな。居ない事を証明する事は困難だ。そして今から駆け魂攻略を始めるのも厄介だ。

 仕掛け人の有能さを信じるしかない。

 

 ひとまずは歩美とアポロの攻略に専念するしかないか。

 特にアポロ。女神の力が戻ってくれば神託とやらでまた何か分かるかもしれん。

 

 だが、今は……少し休ませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

「隣、いいかな」

 

 ぼんやりとしていたら後ろから耳に馴染んだ声……かのんの声が聞こえた。

 

「別に許可を取る必要は無い。好きにすればいいさ」

「そう。それじゃあ入らせてもらうね」

 

 そう言って僕がやっているのと同じようにベランダの手すりに肘を付く。

 ……少し会話でもしておくか。もし女神が居るなら、些細なイベントでも有効活用できる場面は来るだろう。

 そうだな、まずは……

 

「他の連中はどうしたんだ?」

「ノーラさんは自分の拠点に帰ったよ。

 女神の皆さんは300年振りの再会を楽しんでるみたい。

 ハクアさんはエルシィさんの快気祝いにってお料理を作ってたよ」

「そうか」

「あ、そう言えばウルカヌスさんは身体が弱くて、目も耳も悪いらしいよ。

 人形を操ればちゃんとなるらしいけど……この家に人形って無いよね?」

「一応、限定版ゲームに付いてるフィギュアとかならあるぞ」

「……確かにアレも人形か。すっかり見落としてたよ」

「そもそも貸す気も無いがな。フィギュア自体は割とどうでもいいが、限定版の特典なんてレア物に傷を付けられたらたまらん」

「そういうの意外と気にするんだね。桂馬くんって」

「……まあな」

 

 ゲームキャラクターと、それを愛する者が作った作品を傷つけるなどできるはずがない。

 僕はゲームとそのキャラクターを愛している。それと同時にそのクリエイター達にも最上級の敬意を払っているつもりだ。

 ……まぁ、ユーザーを舐めきった廃課金なゲームと、その悪どいクリエイターは話が別だがな!!

 

 

「ねぇ、桂馬くん。ちょっと話は変わるんだけど……」

「何だ?」

「……今だからこそ言うけど、桂馬くんが女神を攻略したのって……私の為だよね?」

「……どういう意味だ?」

「私がエルシィさんの件で責任を感じないように、死んでしまわないように解決しようとしてくれた。

 そういう事……だよね?」

「フン、そんなわけが無いだろう。

 僕は自分が死にたくなかったから最大限努力したまでだ。お前の事は全く関係が無い」

「……ははっ、やっぱり敵わないなぁ。

 私には、到底真似できそうにないや」

「お前は何を言ってるんだ」

「……真実はそこまで重要じゃない。重要なのは、私がそう思ったって事。

 桂馬くんは望まないかもしれない。むしろ気を遣わせてしまうかもしれない。

 でも、私はちゃんと君に伝えたいんだよ。『ありがとう』って」

「……別に僕の許可を取る必要は無い。好きにすればいいさ。

 と言うか、もう伝えてるじゃないか」

「それもそうだね。ありがとう。桂馬くん」

 

 別に礼を言われるような事は何一つやってない。

 そう否定する事もできたが……何を言っても無駄だろう。

 素直に受け取ってやるとするか。

 

「あ、そうだ。もう一ついいかな」

「今度は何だ?」

「女神を積極的に攻略する理由は無くなったわけだけど……それでも、君は攻略を続けるの?」

「……愚問だな。ゲーマーとして、一度始めた攻略を投げ出すなど論外だ」

「分かった。それじゃあこれからも全力でサポートさせてもらうよ。

 羽衣さんはエルシィさんに返しちゃったからできることは少なくなっちゃったけどね」

「……ああ、何か足りないと思ったらそれか。そりゃそうだな」

 

 他の宿主と違ってエルシィは女神本人みたいだから『交代して引っ込む』という事ができない。

 理力を常時垂れ流して敵に見つかるなんてことになりかねない。

 隠蔽機能が標準搭載されている羽衣さんは必須アイテムか。

 

「それじゃ、そろそろ行こうか。きっとハクアさんがご馳走を用意して待ってるよ」

「食事なんてゲームの中でやれば一瞬で済むのにな」

「それじゃあお祝いの意味が無いし、そもそも最近ゲームあんまりやってないよね……?」

「……確かにな。じゃ、行くか」

 

 

 

 ベランダから屋内へと戻り、階段を降りて居間へと向かう。

 

 僕が扉を開けたその瞬間……突然爆発音が鳴り響いた。

 

 クラッカーでも鳴らされたのかと思ったが……どうやら違うようだ。

 

「エルシィっ!! どうしてオムレツにマンドラゴンの卵なんて使ったのよ!!」

「いや、その、ハクアが卵を焼いてと言ったので……」

「鶏の卵を焼けっていう意味に決まってるでしょうが!! どうしてよりにもよってマンドラゴンの、しかも有精卵を使うのよ!!

 アレの生態を考えたらすぐに強制孵化するに決まってるでしょ!!」

「我々が復活してからの初めての本格的な戦闘の相手がまさかミネルヴァの食材とは……」

「やはり適当な人形が欲しい。有ると無いとでは段違いだ」

「妾の専門は医術と神託ぞよ。荒事は得意ではないから勘弁して欲しいぞよ」

「う、うぅ……」

 

 

 ……どうやらエルシィが懲りずに地獄の食材を使おうとして事件になったらしい。

 ちょっと前に少し寂しく思った気がしたが……気のせいだったな。

 

「コラエルシィ! 何やってるんだ!!」

「い、いえ、ちょっとしたトラブルがあっただけで……」

「エルシィさん! 地獄の食材は使わないって言ったよね!? どういう事!?」

「え、えっと……その……ご、ごめんなさいぃぃぃっっ!!!」

 

 

 ……一応、取り戻す事はできたんだな。この鬱陶しくて騒がしい日常を。







 通常版も限定版も大事にする桂馬だから特典も全部大事に保管してあるハズ。
 フィギュア付きの特典も普通にありそうです。『くれよん』でも豪華五大特典に2つも付いてたし!
 ただ、しっくり来る理由付けに少々苦労しました。アレで大丈夫だったかなぁ……

 爆発オチにするのは結構前から決まってました。
 やっぱりエルシィはエルシィだった……という感じですね♪


 以上で女神編3日目は終了です。次はマルスかアポロか……どっちかなぁ。
 またしばらく間が開いてしまうかもしれませんが、気長にお待ちください。

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