美生を連れて家へと帰ったら、ノーラが仲間になっていた。
何を言ってるか分からないと思うが僕にも良く分かってない。
「ごめん、大体全部話しちゃったよ」
「……いや、お前が信用して話したなら大丈夫だろう」
エルシィやハクアならまだしもかのんが信用したならきっと大丈夫だ。
徹底的に疑い尽くして、それでも信用に値したなら全く問題ない。
「ったくも~、女神とか明らかに大事じゃないの。
そういう事はちゃんと私に報告しなさい。私の手柄になるから」
「そうは言っても、誰が敵で誰が味方かも分からなかったからな。
安易に話して回るわけにもいかん」
「それもそうね。ま、最終的に私の手柄になるなら何だっていいわ」
「手柄さえあれば……か。じゃ、女神が復活した暁には手柄はお前に全部やるとしよう。
新地獄の英雄になれるかもしれんぞ」
「私としては構わないけど、そっちは良いの?
後からやっぱりやめたとかはナシよ?」
「むしろ手柄なんて立てたらヤバい連中に目を付けられるだろう。
それを喜んで引き受けてくれるってなら都合が良い」
「あ~、そういう事。理解したわ。
それじゃ、上への報告はしばらく待つ事にするわ。
せいぜい働きなさい。私の手柄の為に」
「別にお前の為に働くわけじゃないが……利害が一致したようで何よりだ」
敵だった時は非常に鬱陶しかったが、味方になってくれるなら心強い。
ここの地区の地区長であり、上へのコネもあり、ダーティーな手段に抵抗が無い。
積極的に働かせるのは不可能だろうが、味方であるだけでも十分だ。
「それじゃ、エルシィを叩き起こすとするか。
行くぞ、お前たち」
女神ウルカヌスを連れて2階へと上がる。
エルシィは数日前と全く変わらない姿でベッドに横たえられていた。
「これが、ミネルヴァなのか?」
「恐らくはな。本人はまだ名乗ってないから確定ではないが……ほぼ間違い無くミネルヴァだ」
「まさかこんな姿で再会する事になろうとは……
しかし、これだけの術を私1人で打ち破るのは少々困難だぞ?」
「それも分かってる。今助っ人を呼んで……来たようだ」
階段を駆け上がる音が聞こえて数秒ほどしてから扉が開いた。
扉の向こうに居たのは、ディアナだ。
「申し訳ありません。遅れたようですね」
「いや、ジャストタイミングだ。丁度ウルカヌスに説明が終わった所だよ」
「っ! 確かにこの気配は姉様ですね。お久しぶりです」
「……ディアナか。久しいな。どうやら再び力を合わせる時が来たようだ。
我らが力を合わせればこの程度の呪いは容易く解ける。そうだろう?」
「ええ、勿論です。やりましょう、姉様」
ディアナとウルカヌス、2人の女神がエルシィに刺さった短剣を握り締める。
それと同時に黒いオーラが2人の身体を這い上がる。
「っ」
「安心しろ。これは似せてはいるが本物の旧地獄の術ではない。
ただの紛い物。この程度なら……解ける!」
そして次の瞬間……短剣は引き抜かれ、黒いオーラは霧散した。
解呪成功……のようだな。
「おいエルシィ、大丈夫か?」
「エルシィさん! 聞こえてたら返事をして!!」
返事は、すぐには無かった。
だが、しばらくして……
「ぅぅ、ぅぅん……? おや? ここは……
……そうですか。神様も、姫様も、ご迷惑をおかけしたようですね」
「良かった! 本当に良かった! ごめんねエルシィさん! ありがとうエルシィさん!
本当に良かったよ! うわぁぁん!!」
「ちょ、ちょっと待って下さい。まだお腹が痛むので、少し手加減を……」
「あぅ……ご、ごめん……」
気になる事はあるが、これでひとまずは一安心だな。
さっさと次の話に進みたいが……もう少し待ってやるか。
ガチャッ
「すまぬ! 少々遅れたのじゃ! 姉上と一緒なら解呪も簡単……あれ?」
「おい、もう全部終わったよ」
「……そ、そうか。それは……良かったのぅ。
……少し、下で休んでくるのじゃ」
……最悪のタイミングで入って来たアポロも、しばらくそっとしといてやろう。
……数分後……
かのんも落ち着いた所で次の話に入る。
「さてと、まず、僕はお前を何と呼べば良いんだ?
今まで通りにエルシィと呼べば良いのか、それとも女神ミネルヴァと呼べば良いのか」
「……お好きな方でかまいません。
私は女神ミネルヴァであると同時にエリュシア・デ・ルート・イーマでもあります。
女神の私も、記憶を閉ざして地獄で過ごしてきた300年の私も、間違いなく私ですから」
「……じゃ、いつも通りエルシィと呼んでおこう。
記憶、やっぱり無かったのか」
「ドクロウ室長と、お姉様……リミュエル姉様が何かやってくれていたみたいです。
今、記憶が戻っているのもお2人のどちらかが何かしたのではないかと」
そう言えばリミュエルが一回お見舞いに来てたらしいな。その時に封印解除でもしたのだろうか?
「じゃあ次だ。お前の女神としての力はどの程度復活しているんだ?
アレに刺されて今も生きているという事は結構復活してそうだが」
「どの程度と申されましても……少し、試してみましょうか」
エルシィが手を組んで祈りを捧げると頭上にはハイロゥ、背中には翼が現れた。
ディアナ及びウルカヌスと同程度には復活しているようだ。300年早く目覚めた影響か、それとも何か理由があるのか……
「……こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「ああ」
記憶の封印解除の影響か、口調が大分変わっているな。
いつも無駄に騒がしかったのに、今じゃ落ち着いた口調のキャラに転生してる。
少々寂しい気がしないでもないが……これが本来の姿なら文句を言う筋合いは無いか。
これでひとまず急いで女神を攻略する必要性は無くなった。
しかし……翼まで復活しているエルシィですら瀕死に追い込まれた事を考えるとやはり放置はできない。
ヴィンテージの仲間が居るらしいという事は捕虜からさりげなく訊き出してあるからな。
いつまた女神が襲われるか分からない。その前に手を打たなければ。
「……少し外の空気を吸ってくる。
感動の再会をするなりなんなりしてしばらくのんびり過ごしててくれ」
ベランダにでも行くか。少し、疲れた。
というわけで落ち着いたクールな口調のミネルヴァさんでした。基本的に女神の性格とかは変えてないけどミネルヴァさんだけは例外です。
エルシィとも、原作ミネルヴァさんとも違う印象を与えられたなら幸いです。
口調が全く変わらないパターンも考えたのですが……今後の事を考えるとこっちの方が面白そうだったのでこうなりました。