もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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24 地区長とヴィンテージ

 放課後、桂馬くんは美生さんを連れて家へと帰る。

 その間私は……一緒に居るのも微妙なのでハクアさんと一緒に先に家へと向かう。

 え? 部活? 確かに出るべきなんだろうけど、エルシィさんが起きてくれたら真っ先に言わなきゃならない事があるから。

 

「これで残りの女神はあと2人か」

「1人は歩美って子に居るのよね? 残り1人はどこに居るのかしら」

「桂馬くんは私を疑ってるみたいだけど……う~ん……」

 

 自分の立ち位置が一番怪しいっていう自覚はあるけど、それ以上に女神が居る自覚が無い。

 かと言って他に怪しい所も無いんだよね。ん~……

 

「……とりあえず歩美さんとアポロさんの攻略が終わってから考えようか。

 その時までにまた新しい情報が出てくるかもしれないし」

「先延ばしにしてるだけな気もするけど、確かにどうにもならないわね……」

 

 そんな感じでのんびり話しながら歩いていたら家に着いた。

 玄関の鍵を開けて……開けようとしてから異変に気付いた。

 

「あれ? 開いてる?」

「朝閉め忘れたの?」

「その可能性はあるけど……」

 

 可能性はもう一つある。

 それは、誰かが開けた可能性。

 今この家には手負いの女神と敵の捕虜が居る。侵入する価値は十分にあるだろう。

 

「……ハクアさん。警戒して。誰かが侵入したか、あるいはしてるのかもしれない」

「っ!? 分かった」

「それじゃ、開けるよ」

 

 音を立てないように扉を開けて中へと入る。

 ハクアさんも入った後、ゆっくり扉を閉めてからスタンロッドを取り出して構える。

 廊下には誰も居ないようだ。こういう時はどういう手順で調べるべきなんだろう?

 2階? いや、先にリビングを調べてみよう。そう思って私はゆっくりと扉を開けて……

 

「あら? 遅かったじゃない。ちょっとお邪魔させてもらってるわよ」

 

 開けた扉の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえた。

 ハクアさんを手で制して廊下で待つように促してから中へと入る。

 

「あなたは……ノーラさん?」

「あれ? アンタは確かハクアの協力者(バディ)じゃない。どうしてここに?」

「それはこっちの台詞ですよ! 一体何の用ですか?」

 

 警戒を続けたまま問いかける。

 ノーラさんが味方である保証はどこにも無い。ヴィンテージの回し者である可能性は十分有り得る。

 

「……まあいいでしょう。教えてあげるわ。

 今度私の地区のヒラ悪魔が増員される事になってね。

 でも、予定の日を過ぎても一向に連絡は無いし、そもそも連絡が取れなくなってたわ。

 だから何か情報は無いかうちの地区の悪魔達に聞いて回ってたのよ」

「なるほど、その行方不明の悪魔の名前は……?」

「わざわざ言わなくても知ってるでしょ? フィオーレ・ローデリア・ラビニエリよ」

「……ああ、あの人ってそんな名前だったんですね。みんなフィオとか呼んでたので知らなかったです」

「……本当に知らなかったのね。まあいいわ。

 さて、ここからが本題よ」

 

 ノーラさんは懐から何かを取り出すとテーブルの上に置いた。

 アレは……勾留ビンか。中には襲撃者……フィオなんとかさんが入っている。

 

「単刀直入に訊かせてもらうけど、フィオを勾留したのはハクアで合ってるの?」

「……ここでもし『いいえ』って答えたとしても私が関わっている以上はハクアさんは確実に巻き込まれますよね?」

「と言うか、勾留ビンをちゃんと調べれば誰のものかなんて一発で分かるわよ。面倒だからやりたくないけど」

「……質問の答えは『はい』です」

「そう。じゃあ次。上の階でエルシィが瀕死の状態で転がってたけど、それをやらかしたのもフィオで合ってるわよね?」

「その質問の答えも『はい』です」

「……そう。ありがと。

 じゃ、これは返しておくわ」

 

 突然勾留ビンがこちらに放り投げられた。

 一瞬打ち返しそうになったけど、上手くキャッチする。

 中を確認するとフィオさんは気絶していた。話を聞かれていた心配は無さそうだ。

 ひとまず、ポケットにねじ込んでおく事にする。

 

「いいんですか? 私に返しちゃって。

 解放できるチャンスでしたけど?」

「何で私がわざわざ薄汚い正統悪魔社(ヴィンテージ)の悪魔を解放しなきゃならないのよ」

「……角付き悪魔は旧地獄から続く名家の証だって聞きましたけど」

「だから旧地獄の復活を望むって? ハッ、バカらしい。

 確かに、今の地獄が旧地獄にくらべて大人しくて少し退屈な事は否定しない。

 けど、退屈なら自分なりに面白くするだけよ。旧地獄か新地獄かなんて関係ない。

 それに、連中は私に喧嘩を売った。なあなあで済ませるつもりは全くないわ」

「喧嘩?」

「そうよ! 私の地区で悪魔……駆け魂ならまだしも部下の新悪魔が死んだなんて事になったら出世に響くのよ!

 幹部クラスの意志なのか、下っ端の暴走かは知らないけど、絶対に後悔させてやる」

 

 演技の可能性も……一応あるのかもしれない。

 けど、その言葉はとても真っ直ぐで、本当の事を言っているように聞こえた。

 ノーラさんはヴィンテージではない。そう信じてみよう。

 

「分かりました。あなたを信じて全てを話しましょう。

 気になってる事が沢山ありますよね?」

「え? 何か拍子抜けね。さっきまで随分と警戒してたみたいだけど?」

「今の言葉が嘘には聞こえなかった。それだけです」

「……とんだ甘ちゃんね。まあ好都合だわ。

 それじゃあ聞かせてもらいましょうか」







 原作の流れを考えるとこの辺でノーラさんが来そうな気がしたので家を空けている最中に侵入させてみました。
 侵入したのがノーラじゃなくてハクアとかだったらリビングで待ち受けていたのはフィオーレになってたでしょうね。ノーラさんなら安易に開放する事は無いでしょう。捕らえられていたのがよっぽどの大物悪魔なら話は別ですが。

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