もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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23 愛の証明

 場所を変えて……と言うより、屋上の隅っこの方に移動してから話を続ける。

 月夜の方は反対側の隅っこでかのんが宥めているようだ。今度こそ完全に無視して進められるだろう。

 

「で、何の話だったっけか?」

「え? えっと……あ、そうだ! あんたが浮気してたって話よ!!」

「……どうやら誤解があるようだな」

 

 ついさっきまで適度に場を荒れさせると言ったな。アレは嘘だ。

 まずは物騒な女神を黙らせよう。アホな誤解で月夜を酷く傷つけたという事を理解させれば少しは大人しくなるだろう。いやまぁ誤解させたのは僕なんだが。

 

「ひょっとして、浮気というのはまろんの事を言っているのか?」

「まろん?」

「ああ、スマン。あっちに居る黒髪ロングの眼鏡の事だ」

「そ、そうよ! どういう事なのよ!!」

「アレは僕の従妹だ」

「…………へっ?」

「今は別の学校に通っているんだが、転校を検討中らしくてな。

 学校内を紹介してて、一休みしていた所だったんだよ」

「そ、そうだったの……ご、ごめんなさい……」

「……いや、気にすることはない。僕の行動も少々問題があったようだ。すまなかった」

 

 これで女神の怒りは収まった……と信じたい。

 直接反応を見ているわけじゃないからなぁ。鏡などを使えば様子を伺う事はできるかもしれんが、何も知らないはずの僕が唐突に鏡の類を取り出すのは怪しすぎるだろう。

 

「で、話の続きだが……」

「? 何の事?」

「……僕がキスをするかしないかという辺りで止まってたよな?」

「っっっっ!?!? そ、その話を蒸し返すの!?

 そんなのやるわけないでしょうが!!!」

「……そうか、僕はそこまで嫌われていたのか」

「い、いや、嫌いとは言ってないけど……」

「気にすることはない。自分が胡散臭い奴だという自覚はある。

 今日もやらかしてしまったようだしな。はぁ……」

「うぅぅぅ……わ、分かったわよ! キスの1つや2つ、やってやるわよ!!」

「え? だがしかし……」

「ああもううるさい!! うだうだ言わずに私にキスされなさいよ!!」

 

 

 一方的に言い放った美生は僕が止める間もなく……

 

 

 そっと、キスをした。

 

 

「……ぷはっ! どう? これで満足?」

 

 美生は顔を真っ赤にしながらも何でも無いかのように強気な態度を崩さなかった。

 女神の殺意にビビって少々消極的な展開にしてしまったが……一応ゴールには辿り着けたかな。

 

「ああ。ありがとう、美生」

「……フン。

 ……私をその気にさせたんだから、責任、取ってもらうからね」

 

 

 その時、太陽の光に照らされた純白の翼が、一瞬だけ見えた気がした。

 女神復活の証……か。

 

 ヒドい作戦だよな。ホント。

 女神は愛の力がないと復活できない。巻き込まれた宿主は全力の恋愛をしなければならない。

 全てが終わった後、宿主たちはどうなるんだろうな?

 ……それは今気にする事ではないか。

 さぁ、前に進もう。この物騒な女神の力も合わせればエルシィの解呪ができるかもしれん。

 

 

「ところで一つ聞かせてほしいんだが、君の中に居る君じゃない方のアレは女神なのか?」

「女神? え、ええ。確かにそう名乗ってるみたいだけど……」

「……本人に直接問い質した方が良さそうだな。コレで行けるか?」

 

 PFPを取り出して中間に置く。ディアナもアポロも大丈夫ならコイツも大丈夫のはずだが……

 

『……お前、何者だ? 何故女神の事を知っている』

 

 どうやら成功のようだ。

 

「その質問に答える前に、名前を聞かせてはくれないか?」

『……良かろう。私の名はウルカヌス。お前が言う通り女神だ』

「ユピテルの姉妹の一柱か。把握した。

 さっきの質問に対する簡潔な答えだが……ディアナとアポロ、そしてミネルヴァらしき奴に会った事がある」

『何っ!? どういう事だ!?』

「直接現状を見た方が手っ取り早いだろう。放課後、時間を空けておいてくれ」

『……良かろう、と言いたい所だが……』

「何か予定でも入ってるのか? って、バイトか。毎日頑張ってるもんな」

「……あ、今日は偶然お休みの日だったわ。ラッキーだったわね」

『えっ? しかし確か今日も……』

「うんうん、ホントラッキー。放課後の予定はバッチリ空いてるわ」

 

 この反応は……本当はあったんだろうな。

 今は何も見なかった事にして、後でしっかりと埋め合わせをしよう。

 

「分かった。じゃあまた放課後に」

「……ええ。またね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……一方その頃……

 

「ルナぁ、ルナぁ……」

 

 攻略の方は桂馬くんに丸投げして私は月夜さんのフォローだ。

 エルシィさんの二の舞にならずに済んだのは良かったけど、精神的なダメージはかなり大きいみたいだね。

 

「つ、月夜さん? 大丈夫?」

「大丈夫じゃない。ルナが!」

「えっと、その……安心して。さっきのアレは腹話術みたいなものであって、決してルナさんの素の口調じゃないから」

「ほ、本当? 本当に? さっきのはルナじゃない?

 またさっきみたいに突然汚い言葉遣いになったりしない?」

「大丈夫。本当に大丈夫だから。

 あ、そうだ。これ私の携帯の番号。万が一何かあったら連絡して」

「あ、ありがとう……なのですね」

 

 少しは落ち着いてくれたかな。トラウマにならないといいけど……

 

 そう言えば、今回は女神の現れ方が違った。いつもは鏡を通して話すか宿主の身体を乗っ取るのに。

 あの女神固有の能力かな? エルシィさんの結界やアポロさんの治療みたいに、特化した能力があるのかもしれない。

 ……まさか、本当に人形に魂を吹き込んでいて、女神さまの意志を代弁していただけの可能性も……?

 いや、流石に無いか。こんなお人形さんが素であんな口汚いって事は。

 

 そう思って、ルナさんをそっと撫でた。その時だった。

 

『フフフフフ、月夜はいつも美しい! 泣いている姿さえも美しい!! 月夜は私のものよ!!

 月夜LOVE!! 月夜LOVE!! 月夜LOVE!! 月夜LOVE!!』

 

「っ!?!?!?」

「どうかしたの?」

「い、いや、何でもないよ。何でもない……」

 

 何か、凄い情念みたいなのが流れ込んできたような……

 いや、きっと気のせいだ。気のせい……







 ゴリ押し感があるけど短期決戦を狙うならこのくらいやらないと厳しいのかも。

 念のため言っておくと最後の部分は単なるギャグです。
 魔力や理力で何かしたとか、適当な理屈を付けようかとも思いましたが、変な能力をくっつけると今後面倒になりそうなので止めておきます。

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