もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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16 難易度

「ど、どういう事ですか!? これは一体……」

 

 私が偽物だと見抜いた結さんもまさか錯覚魔法で変装しているとは思ってもいなかったようだ。

 と言うか、もしそんなのを想定できたらエスパーだと思う。

 

「色々と事情が複雑でね……

 しっかりと説明しようとすると凄く長くなるから、今は最低限の説明だけさせてもらうよ」

「は、はい……」

 

 今は軽音部の休憩時間だからね。長々と話す時間は無い。

 最低限の事だから……説明すべき事は1つだけだ。

 

「本物のエルシィさんについてなんだけど……一昨日、刺されたんだよ」

「刺された? 蜂にでも襲われたのですか?」

「ううん。ナイフでお腹をグサリと」

「……一大事ではないですか!!! エリーさんは無事……ではないでしょうけど、怪我の具合はどうなっているのですか!?」

「……今のところは大丈夫。何とか舞校祭までには間に合わせるよ」

「そういう意味で訊ねたのではありませんが……分かりました。

 エリーさんはサボりたくてサボっているわけではないのですね?」

「そういう事だよ。

 色々と気になる所はあるだろうけど、それはまた後でね」

「…………分かりました。今は飲み込んでおきます。

 では、そろそろ戻りましょうか。

 

 そして、結さんが階段を数段下り、それに私が続こうとした時、携帯が鳴った。

 

「あ、メール……麻美さんからだ!

 ごめん結さん! ちょっと用事ができたので遅れます!!」

「慌しいですね……って、中川さん? そっちは屋上……」

 

 ここから茶道部の部室まで行くなら屋上から飛び降りて一旦外に出た方が早い。

 錯覚魔法を張り直して、羽衣さんに透明化も頼んで……行きます!

 

 

 

 ……その後、アポロさんを捕縛して桂馬くんに引き渡した事は説明するまでも無いだろう。

 そんな作業を終えた私は再び軽音部の部室まで戻って練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

「よっし、今日の特訓はこれで終わりだ! 皆、お疲れさま!!」

 

 キリの良い所でちひろさんが号令をかけた。

 時間は十分稼げているだろう。足りないようであれば歩美さんを引き止める必要があったけど、きっと大丈夫だ。

 

「ふぅ……それじゃ、私帰るね」

「ちょっと待って歩美! 帰りに最近リニューアルしたたい焼き屋に寄ってこうぜ!」

 

 ……アレ? 雲行きが怪しい。

 下校イベントというものは昨日私が述べたように2人っきりのプチデートだ。

 ……『2人っきりの』イベントだ。居てもさして問題ないのはせいぜい妹とかくらいだろう。

 どうにか、引き剥がせる? ちひろさんを、歩美さんから? 無茶じゃないかな。

 

「え、2人とも寄り道するの? 私も付いて行っていい?」

「勿論だとも! ねえ、歩美」

「う、うん……そうだね」

 

 京さんまで!? ヤバい。どんどん悪化してる。

 流石に2人だけを歩美さんから切り離すのは不可能だ。こうなったら私も付いて行って適当な機会を伺うしか……

 

「あ、エリーさんは残ってください。少々話があるので」

 

 結さんを振り切ってちひろさん達に付いていくという選択肢が頭に浮かんだけどすぐに却下した。

 逃亡した上に呑気にたい焼き屋なんかに行ってたらすぐに追いつかれるだけだよ。そこで何とか結さんを説得できたとしても、下校メンバーが更に増える事になる。

 それだったらなるべく迅速に事情を説明して解放してもらった方がいい。

 変装解除、早まったかなぁ……いや、あの時にシラを切っていたら結さんからの質問が1つ増えてただけか。

 ごめん桂馬くん。ハードル低いはずの下校イベントの難易度がハネ上がったけど、何とか頑張って!

 

 

 

 

 

 

 

 ……おいかのん。こんな状況になってるなんて聞いてないんだが?

 下校イベントというものは2人でしなきゃいけないものなんだよ! ゲームでは!!

 それに割り込んで良いのは妹か幼馴染みだけだ! ゲームでは!!

 そんな事はかのんも十分理解しているはずだ。攻略中にも教えたし、昨日も模範回答を答えてたからな。

 それでもかのんが居ないという事は、何か不測の事態に巻き込まれたのか?

 

(大丈夫なの? 昨日は2人きりで下校するとか言ってたわよね?)

(……少々強引だが、ちひろも京も無視だ! 居ないものとして会話を進める)

(無視って……それは可能なの?)

(知らん! だがやるしかないだろ!

 それより、中川の様子を見てきてくれないか? 何か妙な事に巻き込まれてるかもしれん)

(……分かった。大変そうだけど、頑張ってね)

 

 校舎の方へ飛び立つハクアを見送り、僕は校門の脇で歩美を待ち構える。

 そして丁度いい距離に来た所で台詞を放つ。

 

「やあ。一緒に帰ろうと思って待

「あ、桂木じゃん! そんな所に突っ立って何してんのさ」

 

 ちひろぉぉぉ!!! 現実(リアル)女子の分際で台詞を上書きするな!!

 い、いや、今更現実(リアル)の仕様にケチ付けても仕方がない。やり直しだ!

 

「……やあ。一緒に帰

「あ、そうだ! ヒマなら一緒にたい焼き屋来る? なんなら奢るぞ~」

「えっ、ち、ちひろ!? コイツも連れてくの!?」

「うん。たまにはいいでしょ。一応うちらの部長だしさ」

「それはそうだけど……み、京はどう思う?」

「まあいいんじゃない? 色々と世話になってるし」

「う、うぅぅぅ……」

 

 ……台詞を遮った事は万死に値するが、僕を誘った事だけは褒めてやろう。

 かなり不利な状況ではあるが……向こうから誘ってくれるなら歩美と2人になれるチャンスもあるだろう。

 

「そうだな。せっかくだから奢ってもらおうか」

「よっし。それじゃ、しゅっぱつしんこー」

 

 こんな大人数の下校イベントは初めてだが……やりきってやるさ。







 原作と比べて攻略人数が減って余裕が生まれたはずなのに歩美の下校イベントだけは何故か悪化しているという。
 ちひろさんを攻略しないからこそ野放しになってこういう事になるっていうね。

 最初はたいやき屋が新しくできた設定だったのですが、過去の話を読み返したらエルシィがたいやきに言及してる箇所があったので修正しました。エルシィェ……

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