美生さんがバイトをしているパン屋『パンの笛』は学校に程近い場所にある店だ。
そこのパンは値段の割には美味しいらしい。流石にオムそばパンほどじゃないけど。
あと、まかないが出たり売れ残りのパンを持ち帰る事もできて経済的に嬉しいそうだ。
「……結さんはそんな風に言ってたよ」
「ほ~、万札未満の金の存在を認めてなかった美生がねぇ。立派に貧乏人やってるんだな」
「貶してるようにしか聞こえないのに褒め言葉なんだよねそれ……」
「日本語って奥深いよな」
「そういう問題なのかなぁ……」
と、とにかく、近い場所なので少し歩くだけで目的の店に到着した。
そして、美生さんもあっさりと見つかった。
学校の制服の代わりにお店の制服を身に纏い、いつも履いてた上げ底靴じゃなくて普通の靴を履いてるみたいだ。
「……やぁ、青山。久しぶりだな!」
「え? あ、あんたっ!! えっと……そうだ、桂木、桂木じゃないの! 久しぶりね!」
はい、真っ黒だね。これでもし居なかったらどうしようと思ってたよ。既に飽和してるのに。
美生さんは恋愛を使って攻略したわけじゃないから妙な探り合いなんてすっ飛ばして普通に話せる。
恋愛を使っていないせいで女神が居たとしても復活してないんじゃないかっていう懸念もあったけど……どうやら大丈夫だったみたいだ。家族愛の力か、あるいは結さんとの友情の力だろうか?
「お前の親父さんに線香を上げさせてもらった時以来だな。元気にしてたか」
「当然よ。この私を誰だと思ってるの」
「う~ん、誇れる父親を持った可愛い女の子って所だね」
「か、かわっ!? な、何真顔で言ってんのよ!!」
「だって事実だし」
「っ~~~~! そ、それより、一体何しに来たのよ!
用が無いならサッサと帰りなさい! 仕事中だから!」
「実を言うと、たまたま近くを通ったから寄ってみただけで特に用事は無かった」
「? 何か気になる言い方ね」
「ああ。たった今できたよ。
青山美生、僕は君に恋してしまったようだ」
桂馬くん曰く、攻撃的なツンキャラは意外と打たれ弱い。
だから、出会い頭に告白をかますのがセオリーだそうだ。
もう既に会ってる相手に出会いも何もないけど……多少変則的な攻略になったとしても落とし神様ならきっと乗り越えてくれるだろう。
「……は、はい?」
「……そういう事だから。じゃあな」
「……えっ、あ、ちょ、ちょっと、待ちなさい! 桂木ぃぃぃ!!!」
これで、美生さん攻略の下準備が終わった。今後、堂々と美生さんを攻略できるね。
あとは歩美さんか。一応桂馬くんには作戦があるらしいけど、動くのはまた明日からだ。
今日はもう帰宅して明日以降の行動の準備を整えよう。
私たちが家に帰って休憩しているとハクアさんが帰ってきた。
「ただいまー」
「あ、お帰りハクアさん。大丈夫だった?」
「ええ。特に何も無かったわ。流石に学校の中まで警戒するのはやりすぎかしらね?」
「その台詞、警戒の手を緩めた瞬間に襲われるフラグにしか聞こえないよ……」
「? 意味がよく分かんないけど……ほどほどに警戒しておくわね」
学校内にはリミュエルさんも居るからそうそう何か起こるとは思えないけど……やっぱり警戒しておくに越したことは無い。
……もしかするとハクアさんはこのまま麻美さん護衛要員になるかもね。アポロを攻略するとなると今日みたいな事は頻発しそうだし。
「あれ? 桂木は何やってるの?」
「部屋で明日の計画を立ててるみたいだよ。
何か、『一斉下校イベント』だってさ」
「一斉下校? つまり、一緒に帰るって事?
そんな事して何の意味があるのよ」
「フン、これだから素人は」
「ひゃっ!?」
桂馬くんがハクアさんの背後に立っていた。
一体いつの間に部屋から出たんだろう……
「な、なな何よ突然!」
「下校イベントの重要性を知らぬとはな。愚かだな」
「え、重要性も何も、ただ一緒に帰るだけよね?」
「フッ、その程度の事しか言えんのか。
……中川、説明してやってくれ」
「…………一緒に下校するっていうのはある種のプチデートだよね。2人っきりの一緒の時間を共有するんだから。
それに、下校自体は大抵の人は誰もがいつもやってる事だから、その時に一緒に付いていくだけなら行動を起こす時のハードルもかなり低い。
普通のデートとかと比べると恋に落とす効果はやや劣るかもしれないけど、費用対効果っていう意味ではかなり優秀なイベントなんじゃないかな」
「……まぁ、そんな所だ」
桂馬くんがやや不満そうに見えるのは決して気のせいではないだろう。
私に女神はホントに居ないんだけどなぁ……居たら嬉しいけどさ。
「そう言われると何か凄く思えてきたけど……でも、それって全員同時にやるの? 何人も集まってそれやったら意味なくない?」
「フッ、誰が同時にやるなどと言った。勿論このイベントは別々に行う」
「……お前、一体何回下校する気なのよ」
「3回……いや、4回になるな。普通に帰る分も含めて」
「……下校ってどういう意味だったかしらね……」
桂馬くんなら女子を攻略する為なら言葉の定義くらいは簡単にねじ曲げるだろうね。
落とし神の名は伊達じゃないよ。
「じゃ、飯にするか。中川、もうできてるか?」
「うん、バッチリだよ~」
「え、もう料理できてるのね。せっかくだから私が作ってあげようと思ってたのに」
「いや~、流石にお客さんに作らせるわけにはいかないよ」
「そういうお前も名目上は居候だったよな……?」
「そこは……ホラ、家賃代わりっていうコトで」
「だったらなおさら私も作るわよ。明日は楽しみにしてなさい。とびっきり美味しい料理を作ってあげるから!」
……こんな感じで、女神捜索1日目は終わった。明日からはいよいよ本格的な攻略になる。
私にはちょっとしたお手伝いくらいしかできないけど……頼んだよ。桂馬くん。
本話を書き終えた後に『結が美生に写真付きで桂馬の事を説明していたパターン』を思いついてしまいました……
まぁ、その後桂馬がすぐに仏壇に線香を上げた時の事について言及しているので大丈夫でしょう。モノローグでの断定のタイミングがやや早かったのはかのんの早とちりって事で。そもそも飽和しているからまず間違いなく居る場所ですし。
フィ(ryさんの尋問風景も描写すべきなんでしょうけど、何かもう面ど……げふんげふん、どうせ適当におちょくってるだけなのでカットです。
ただ、どうしてかのんを狙ったかくらいはもう引き出しているはずなのでこの場でダイジェストでお届けします。
桂馬『しっかしお前も災難だったな。女神を狙って暗殺魔法を使ったってのに新悪魔に庇われて、しかもどっちもピンピンしてるんだもんな』
フィ「全くよ! どうしてこの私がエルシィなんかに邪魔されなきゃならないのよ!!」
桂馬(……女神を狙ったって部分は完全にスルーされたな。
という事は少なくともあの時のコイツはかのんの事を女神だと思い込んでたわけだ。
『かのんが女神持ちでない』と仮定するなら……)
桂馬『そう言えば、あのセンサーは中々興味深いものだった。女神の発する理力を感知するセンサーとは。正統悪魔社もなかなかやるじゃないか』
フィ「え、ええ! その通りよ! 正統悪魔社の仲間が来てくれればお前なんて一捻りよ!! 謝るなら今のうちだからね!」
桂馬(センサーなんてあったのか。個人の力じゃなくて何かの道具を使ってるんじゃないかとカマをかけてみたわけだが、見事に成功したようだ。
それはさておき、流石に現場の下っ端じゃあセンサーの原理までは知らないか)
(結論は……
『かのんの理力を感知して女神だと勘違いをした』
……そんな所か。
正真正銘、『女神のセンサー』だと断定できていたらかのんに女神が居るかハッキリ分かったんだが……まぁ、仕方ないか)
フィ「ちょっと、聞いてるの!? もしもーし!!」
こんな感じで。原作に出ていた『女神センサー』は『理力センサー』という事にしておきます。
連続更新は今度こそストップです。
キリの良い所まで書けたらまた上げます。
最近忙しいのでどれくらいかかるかは分かりませんが……次回もお楽しみに。