長かった1日が終わって翌日。僕達はいつものように学校に登校していた。
女神候補の大半がこの学校の生徒だからな。
仕組まれたのが10年も前だとすると『同じ学校に通っている』という関係性を重視するのは少々危険かもしれないが……そこは仕掛け人の有能さを信じよう。きっと上手いこと同じ学校に通うように宣伝したり洗脳したりしていたのだと。
「それで、どうやって女神を探すの?」
隣を歩くかのんが声をかけてくる。なお、今は錯覚魔法を使ってエルシィの姿になっている。
本業に関しては1週間程度の休暇をゴリ押ししたようだ。アイドルなんてそんな簡単にドタキャンできる仕事じゃないだろうにな。
……かのんの覚悟を感じる。僕も全力で行こう。
「桂馬くん?」
「ああ、すまない。女神探しについてだが、見つけるだけなら簡単だ。
『女神居ますか?』って訊いて回るだけで済む」
「……でも今は見つけるだけじゃダメだよね」
「ああ。まだロクに力を持っていない女神が集まってもエルシィを救えない可能性がある。
だから、女神の力を復活させる。今すぐに」
「……ごめん、辛い事をさせちゃうね」
「お前が謝る必要は全く無い。あのバグ魔にくたばられたら寝覚めが悪くなる……と言うか、首輪のせいで永眠するハメになるからな。
僕が自分の判断でやる事だ。気にするな」
「……そっか。桂馬くんがそう言うなら、そういう事にしておくよ」
かのんが覚悟を決めたなら、僕も覚悟を決めないとフェアじゃない。それだけだ。
僕達の間にこれ以上の言葉は要らなかった。その後、学校に着くまで無言の時間が流れ……
「って、ちょっと待ちなさいよ!! どういう意味なのよ!!」
「あれ? ハクアか、居たのかお前」
「居たわよ!! 何で空気みたいに扱われなきゃならないのよ!!」
「いいじゃないか。人が生きる上で必要不可欠な代物だぞ」
「そういう意味じゃないわよ!!!」
こんな感じでハクアにも一応来てもらってる。最初は錯覚魔法を使わせてエルシィと入れ替わってもらおうかとも思ってたが、その役割はかのんがやっているので必要なくなりむしろあぶれている。
透明化も普通に使えるらしいからしばらくは近くで潜伏してもらう事になるな。きっと役に立ってくれる時が来るだろう。多分。
「何か凄くバカにされてる気がするんだけど?」
「気のせいだろ」
「……そういう事にしておくわ。
それで、お前たちは一体何をどうする気なのよ」
「何って、決まってるだろ。
女神を復活させる為に女神候補の女子達を恋に落とすんだよ」
「…………は?」
ハクアが何か理解できない事を聞いたかのように固まっている。
やれやれ、エルシィだけでなくハクアもポンコツだったのか。新地獄はよっぽど人材不足らしいな。
「またしても不当にバカにされた気がするわ……
いや、そうじゃなくて、どういう意味よ!!」
「いい? ハクアさん。
女神っていうのは愛とかの正の感情を糧にするんだよ」
「それくらいは覚えてるわよ。駆け魂とは逆の存在なのよね」
「うん。だから、『恋愛』を使えば手っ取り早く復活させられるんだよ」
「いや、だからって……えぇぇ?
め、女神候補って確か何人も居たわよね?」
「最大で14……いや、15人だ」
「……その全員と恋愛するの?」
「攻略前に絞り込みを行うから全員ではないが……複数名という意味では正しい」
「……何股かける気なのよ。最低の作戦ね」
「その自覚はあるが、これが最善の選択肢だ。
嫌なら帰ってもいいぞ」
「そこまでは言ってないわよ。最善、最善ねぇ……
まあいいわ。まずはその『絞り込み』をやるの?」
「ああ」
女神候補は既に確定している3人と、ほぼ居ない事が確定している結を除いて14人だと思っていた。
……が、よく考えたら一応訊いておくべき人物を思いついた。
人物っていうか悪魔だが。
「ハクア、質問だ。お前は女神じゃないよな?」
「えっ、わ、私!? いやいや違うわよ! って言うか、もしそうだったら昨日の時点で言ってるわよ!!」
「そうか、エルシィが女神だったから可能性が0.0001%くらいあるかと思ったが……」
「それ、0%と何が違うのよ」
「たった今0%になったから気にするな。これで候補が15から14になった。
この調子でどんどん絞り込むぞ」
「……もう、好きにやりなさい……」
「言われずともそのつもりだ」
ここで今一度、あの関係表を頭に思い浮かべる。
僕と関係性が近い人物に女神が居ると仮定するなら、まずは遠い部分をサクサク潰していこう。
念のため確認しておきたい奴が居たんだよな。なんやかんやあって関係性がかなり近くなっているが、他校生でありチェックも付いてるんでまず居ないであろう奴が。
相手に女神が居る可能性が濃厚な場合はかなり慎重に接触しないと厄介な事になるが、非宿主である事が濃厚な場合は雑に扱っても問題は無い。
「この時間なら大丈夫か。
かのん、ケータイ貸してくれるか?」
「3つあるけど、どれを使う?
私のと西原まろんのとエルシィさんの3つだけど……」
「その3択だったら西原まろんの携帯だ」
「じゃあ、はい」
電話帳から検索して目的の人物に掛ける。
特に待つ事もなくすぐに繋がった。
『もしもし~? どしたん?』
「もしもし、僕だ」
『ん? まろんやなくて桂木か。どしたの、こんな朝っぱらから』
「急用ができてな。お前に質問だが、『ユピテルの姉妹』という言葉に心当たりは無いか?」
『ゆぴ……なんやて?』
「その様子だと知らなそうだな。邪魔したな。切るぞ」
『え、ちょっ!?』
よし、これでシロ確定だ。遠慮なく除外できるな。
「七香さんには居ないみたいだね。もし居たとしても後から連絡くれそう」
「次は、学年違う組だな。
……学年が違うだけあって接触がちょっと面倒だな。できれば昼休みに片を付けたいが」
「手分けして調査しようか。
私は師匠に桂馬くんの事とか、お姉さんの巨大化とか、その辺の事を覚えてるか探ってみる」
「じゃ、僕はみなみだ。軽く挨拶して様子を探ろう」
「あの、私は何をすれば……」
「そうだな……その辺で寝ててくれ」
「ちょっと!? 私の扱い軽すぎない!?」
「ははっ、冗談だ。
じゃあ、都合の良い時間に中川に羽衣の使い方を教えてやってくれないか?」
「ああ、あのエルシィが使ってた羽衣ね。やってみてもいいけど、操作方法とか違ってないかしら?」
「エネルギー源は違っても同じような機能を持ってるんだから意外と何とかなるんじゃないか?
ダメだったらそれでも構わん。使いこなせれば便利ってだけだからな」
「分かった。じゃあやり方を考えておくわね」
「宜しくお願いします。ハクアさん」
そんな感じで、初日の朝の打ち合わせは終了した。
ハクアファンの方ごめんなさい……この展開で代理の協力者なんて必要ないですよ……
ハクアがエルシィをほっぽって帰るとも思えないので流れで居てもらってます。
いつか役に立ってくれる時が来る……ハズ。