もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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決着 そして……

「駆け魂の形が崩れた!?」

「エルシィとその協力者にしてはなかなかやるじゃない。

 さぁお前たち、遠慮は要らない。勾留開始!

 まずは1式包魔陣で拘束しなさい!」

 

 心のスキマの中で檜が立ち上がるのと時を同じくして、外に居た新悪魔たちは動いていた。

 巨大な檜の人影の輪郭が崩れ、旧時代の悪魔の異形の姿となったのだ。

 そのことからノーラをはじめとする地区長たちは宿主と駆け魂とが分離したと判断し勾留に乗り出した。

 しかし……

 

「くっ、何て力なの!? こっちは10人がかりで陣を作ってるってのに!!

 ノーラ!! サッサと勾留してよ!!」

「さっきからやってるわよ!! あーもう、このビン壊れてるんじゃないでしょうね!?」

 

 包魔陣、正八面体の巨大な結界を使って押さえこもうとするも、中の古悪魔(ヴァイス)が暴れだし今にも破られそうだ。

 そうなる前に勾留を試みるも、ノーラが構える勾留ビンは一向に効果を発揮しない。それどころか、しばらくするとヒビが入り、次の瞬間には音を立てて砕け散った。

 

「キャッ!!」

「勾留ビンが!? どうなってるのよ!!」

 

 それと同時に、包魔陣もあっさりと破られた。

 

「くっ、陣もダメ、勾留ビンも効かないって、どうすりゃいいのよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「今のはちょっと喜べない早まり方だったけど、大丈夫そうね。

 今の堕落しきった新悪魔たちに、真の悪魔を止める術など無い……!」

 

「だけど、さっきのは何だったのかしら? 古悪魔(ヴァイス)の力が急速に削られたように見えたけど……

 ……少し、調べてみましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

「……エルシィさん、これってもしかしなくても苦戦してる?」

「そうみたい……ですね。まさかあんな大規模な結界が破られるなんて」

「エルシィさんの結界だったら多分破られなかったんじゃない?」

「いや~、私、結界だけは得意ですけど流石に大人数で張った結界には負けますよ。多分」

「どうかなぁ……まあいいや。どうでも」

 

 大きな音を立てて勾留ビンが割れるのも、結界が破られるのも下から見えた。

 ……少し、手を貸すとしましょうか。

 

「エルシィさん。さっきのアレ、もう一回やろう」

「りょーかいです!」

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちが見ている目の前で、旧悪魔の身体に風穴が空いた。まるで見えない砲弾に貫かれたかのように。

 

「これは一体……? よく分からないけどチャンスよノーラ!」

「もうやってるわよ!! お前たちもボサッとしてないで自分にできる事をやりなさい!!」

 

 ノーラに激を飛ばされたみんなは羽衣で旧悪魔を拘束したり、ノーラの隣で自分も勾留ビンを構えたりと、とにかく動いた。

 それが効を奏したのか、旧悪魔の抵抗は段々と弱まり、そして勾留された。

 

「や、やった……の?」

「そうみたい……ね」

 

 しばしの静寂の後、どこからともなく歓声が上がった。

 途中で妙な事もあったけど、私たちはあの巨大な悪魔を倒す事ができたのだ。そう実感できた。

 

 歓声が少し弱まった頃にノーラが声を上げた。

 

「さぁお前たち、勾留完了してもまだ終わりじゃないわよ。

 倒壊した家屋の修復と、記憶操作の下準備、最後まで気を抜くんじゃないわよ!」

 

 確かにそうだ。勾留した所でお終いとはいかない。

 でもその前に、ちょっと桂木の所に顔を出しておこうかな。

 

 

 

 巨大化した宿主が立っていた場所に近づくと3人の人間が地面に倒れていた。

 さっきまで巨大化していた宿主の女性と、桂木と、あと1人の女性は……見覚えは無い。

 宿主の関係者? 無理に起こす必要は無いか。

 

「桂木、大丈夫?」

「んん……ああ、なんだ。ハクアか」

「なんだとは何よ。せっかく来てあげたのに」

「……ここは……道場のある山の中か?

 そうか、外に放り出されてたのか」

「外? って言うかお前今までどこに居たの?」

「ん? エルシィからは聞いてないのか。あの巨大化した檜……宿主の体内に乗り込んでたぞ」

「はぁぁっっ!? 何やってんのよ!? そんなムチャクチャな……」

「別にいいだろ。無事に解決したわけだし」

 

 っていう事はもし攻略が間に合ってなかったら宿主だけでなく桂木ごと殺してたのね……

 更に言うなら首輪で命が繋がってる2人、エルシィと、中川……だっけ? あれ? 西原だっけ? と、とにかくもう1人の協力者も死んでたのね。

 ……間に合って本当に良かった。

 

「……はぁ、何というか……お疲れさま。

 エルシィはどこに居るの?」

「ん? 知らないのか。だったらその辺に居ると思うが……」

 

『メールだよ! メールだよ!』

 

「……ちょっと待っててくれ」

 

 どうやらメールが届いたらしい。空気の読めないメールだ。

 

「…………ハクア、ちょっと手を貸してくれ」

「へ? どういう事?」

「…………」

 

 桂木が無言で突きつけたPFPの画面にはこんな文が書かれていた。

 

 

 

『今すぐ来て! エルシィさんが大変なの!!』







 檜編は終了。
 ですがもう少し続きます。

 今回も次回も短めなので5分後に。

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