「順調順調。
ちょっと計画よりも早いけど、遅れるならともかく早まるならむしろ喜べる」
巨大化した檜が見える場所、しかし駆け魂隊が集まっている場所とは異なる場所に1人の悪魔が居た。
「妹との再開が良い方向に働いたみたいね。私が手を回す必要すらなくここまで進んだ」
その悪魔の少女は禍々しい姿の檜を見て、うっすらと微笑んでいた。
「駆け魂が補足されて攻略対象として登録された時は少し焦ったけど……ここまで来たらもう誰にも止められない。
ようやく、ようやく
駆け魂隊の証である羽衣とドクロの髪飾りを身に着けた少女は恍惚とした表情でつぶやいていた。
「さぁ、古の悪魔の魂よ。300年の封印から目覚めなさい。
不純なる新悪魔たち、そして愚かなる人間たちに裁きの鉄槌を!!」
ずっと立ったまま動かなかった巨大な影が、動き出そうとしていた。
檜の心のスキマの中では姉妹の戦いが続いていた。
見守る事しかできてない僕が言うのもどうかとは思うが、サッサと決着を付けてほしい。
こうしている間にも檜の纏う黒いオーラが強くなっていっているんだが……
そんな心配をしていたらまた楠が吹っ飛ばされて僕の目の前まで転がってきた。
「おいおい、大分苦戦しているな。大丈夫か?」
「ぐっ、問題……無い……無いが……」
「どうした? 何か気になる事があるなら言ってくれ」
「……姉上の纏っている黒いもの、なんとかならないのか?
アレのせいで初動が見えにくくなって反応がどうしても遅れてしまう」
「……なるほど」
と言うか今まで遅れててほぼ互角に立ち回っていたのか。
いや、そんな事はどうでもいい。アレを剥がす方法か。
どっかのRPGなら光る珠とか伝説の剣を掲げれば剥がせそうだが
心のスキマを埋める事ができれば消えるだろうが、それができたらそもそも戦っていない。
それ以外で強引に剥がす方法があるとしたら……
PFPを起動する。メールが送れるかは分からないし、送れたとしても上手く行くかは分からない。
電波は案の定『圏外』となっているが、それでも試すだけ試してみよう。
メーラーを起動して最初の文字を打ち込もうとした。
その時、歌が聞こえてきた。
「♪~♪♪ ♪♪~♪♪ ♪♪~♪♪~♪~♪~♪♪~」
「す、凄いです! ちょっとだけ効いてるみたいです!
よくこんな方法を思いつきましたね!」
私が行った事はそこまで複雑な事じゃない。
箱形の反響結界を作ってもらい、そのうちの1方向に穴を開けただけだ。
それだけで音のレーザーの完成……とはいかなかったので結界の長さを伸ばしてみたり形状をいじったりといった試行錯誤を繰り替えして何とか檜さんの所まで届かせる事に成功したようだ。
「♪♪~♪♪~♪♪~ ♪♪♪♪~♪♪~♪♪~」
「いや~、簡単そうで意外と難しかったですね。何とか上手くいって良かったです!」
本当にそうだ。イメージしてるものを実際に作るって難しいんだね。
今回は全部エルシィさんが上手くやってくれた。ポンコツとか、バグ魔とか、羽衣さんが本体とか、色々言われてるけどエルシィさんもやるときはやるのだ。
「♪♪~♪♪ ♪♪♪♪~♪~」
「これで駆け魂を倒せるといいですけど……流石に無理ですよね」
そりゃそうだ。これだけで駆け魂が倒せるなら攻略なんて最初からやってない。
人間の中に入っている駆け魂には全く効果が無いとまでは言わないけど、止めを刺せるほどの効果が出ないんだろう。
人間の肉体に守られているからとか、負の感情の供給源に居座ってるから枯渇しないとか、理由はいくらでも考えられる。
そもそも今歌っているのだって絶対的な確信があったわけじゃない。試しに実際にやってみたら効いたけど、効いたからといって現状を変える効果があるのかは謎だ。
それでも、それしかできることが無いから歌うけどね。
「♪♪♪♪~♪♪♪ ♪♪♪♪~♪~♪♪♪~」
「……あの~、姫様? できれば返事くらいしてほしいんですけど……」
どうやって返事をしろと……。
どうやら、かのんがやってくれたようだ。
どうやったかは分からんが、この場所まで歌声が響いてきた。
「この歌は……?」
「そんな事より、アンタが望んだ展開になっているようだぞ?」
檜の纏っている黒いオーラが少しずつ薄くなっている。
流石は理力が込められた歌だ。駆け魂のオーラを強制的に引き剥がしているようだ。
「これで勝てるんだろうな?」
「ああ。力任せに暴走するだけの相手など楽勝だ!
こんな前哨戦はすぐに片付けてやる」
楠が威勢良く飛び出す。
さっきまで互角の戦いを演じていたにも関わらずいとも簡単そうに攻撃を捌き、アッサリと檜を組み伏せた。
『ッッッ!!!!』
「これで……私の勝ちです」
楠が静かに勝利を宣言して立ち上がる。
踵を返して少し距離を取ると檜に背を向けたまま楠がこんな台詞を放った。
「いやー弱かったです。そーぞうを絶する弱さでした。
姉上がこんな軟弱者になっていたなんてしんそこガッカリです。しつぼーしました」
内容だけを見ればとんでもない暴言だが、凄く棒読みなので刺はあまり感じない。
「……これで満足ですか?
あなたが言っていた通り、尊敬なんて捨て去りましたけど?」
檜はまるで死んでいるかのように微動だにしない。
楠の言葉はちゃんと聞こえているんだろうか?
「違うはずだ。あなたは全然満足なんてしていない。
だって……姉上は勝ちたがっていたから」
ピクリと、檜が少しだけ動いた……ように見えた。
「何もかもを投げ捨てて、平凡な人間として細々と生きていく。それもまた一つの道でしょう。
でも、あなたはそれで満足できますか? 妹に負けっぱなしでいいんですか?
いや、妹がどうとかもはや関係ない。あなたは負けっぱなしで満足できますか?
そうだと言い張るなら、私から言える事はもう何もありません。私はまた間違えた、そういう事なのでしょうから。
だけど、そうではないのなら、あなた自信が勝ちたいと願うなら……立ち上がってください」
その言葉を受けても、檜は起き上がろうとはしなかった。
しかし……声が聞こえた。
「は、ははは……なんつう妹だ。
この私を余裕そうに蹴散らしといて、まだ戦えって言うのか?」
さっきまでの不気味なエコーがかかった声ではなかった。
純粋な、檜の声だった。
「きっと姉上の影響でしょう。私は悪くありません」
「どういう意味だ。ったく」
そして檜は再び立ち上がった。
しっかりと、自分の足で立ち上がった。
「余裕そうにしやがって。いつまでも上でいられると思うなよ?
お前なんて、すぐに追い抜いてやるからな!」
「……やっぱり、姉上は何も変わってなかった。
負けず嫌いで、常に一番を目指してた。私の大好きな姉上だ」
書いたものを自分で読み返してみてどっかの超高校級のメインヒロインさんを思い出したけどきっと気のせい。
意味が分からない人は(ry