気がついたら足元にダンボールが置いてあった。
いや、違うな。置いてあったわけではないようだ。
箱の下に車輪でも付いているのか、そして誰かに操作されているのか、何もしていないのに勝手にノロノロと動き出した。
「け、桂馬くん……コレ、何?」
「……僕に訊くな」
ラジコン……か? いや、周囲に人影は見あたらない。
特に制御機構の付いていないただのオモチャだろうか?
……と思っていたら突然90度ほどクイっと曲がり何かの部屋の扉にぶつかった。
そして、その扉(引き戸)を開けようとしているのか、くるくると回り出した。
「……何だろう、アレ」
「だから、僕に訊くな……」
それしか言えない事もよく分かるが僕に質問されても分かるはずもない。
しばらく見てみたが、回転するダンボールの角がツルツル滑るだけで扉が開く気配は無い。
やがて、諦めたかのように回転が止まる。それと同時に扉が少しだけ開かれた。
「……ドアは……まだ開けられぬか」
その部屋、生物部の部室から出てきたのは小柄な女子だった
薄汚い白衣と帽子のせいで分かりにくいが多分女子だ。
その女子は謎のダンボール箱を拾い上げて再び部室の中へと引っ込んで行った。
「……何だったんだろうな、アレ」
「……私に訊かれても分からないけど……残念なお知らせがあるよ」
「ん?」
かのんがポケットから取り出した見覚えのあるドクロの髪飾りは嫌な音を発しながらブルブル振るえていた。
……これは……アレだな。とりあえず……
「……飯食いに行くか」
「……そうだね」
とりあえず品切れにならないうちにオムそばパンを食べに行こう。攻略にとりかかるのはそれからだ。
そして放課後。
とりあえず生物部の部室の前までやってきた。
本当ならエルシィの羽衣で透かしてプロフィールを把握しておきたいんだが……来週にはテストが始まるからな。
僕の生活スタイルには何ら影響を及ぼさないが、攻略対象はそうとは限らん。なるべく早めに行動を起こして手早く片付けておきたい。
かのんも一緒だし何とかなるだろう。
さて、まずは部室に入る……前に少々目立つものが置いてあるので確認する。
「……またあるな。アレ」
「……そうだね」
例の自走するダンボール箱だ。
箱の上面に張り紙がしてあり、『実験中さわるな』と印字されている。
「少し、調べてみるとするか」
「大丈夫なのかなぁ……変な物入ってないよね?」
「ソフト面はともかくハード面は大した事無さそうだし、そう変な物は……」
張り紙をめくってダンボール箱を開く。特に封はされていないようで、箱はあっさりと開いた。
その中にあったのは……
「っっっ!?!?」
「ちょっ!? 何これ!?」
中に入っていたのはブヨブヨとしたグロテスクな何か。いかにもナマモノですといった感じの得体の知れないものだ。
箱を空けたら生肉が詰まっていたって、何のホラーだよ!
「おい貴様ら」
「きゃああっっっ!!」
突然背後から声がかけられた。僕も一瞬叫び声を上げそうになったが、その前にかのんが悲鳴を上げたので逆に冷静になれた。
振り返って確認すると、例の駆け魂の持ち主の少女がそこに居た。
「騒々しいな……
怒られたのかと思ったが、特に気にした風もなく淡々とダンボール箱を抱え上げて部室に運び込もうとしている。
少しでも情報を引き出しておくか。適当に質問を投げかけてみる。まずは……1番気になっている事だな。
「……おい、その中身は一体何なんだ?」
「む? これは鶏肉だ」
「鳥肉……そんなもんをこんな所に詰めてどうしようってんだ?
いや、そもそもコレは一体何なんだ?」
「……説明せねば分からぬか。
これは……人間じゃ」
「……は?」
何を言っているのだろうか、この謎の生物は。
アレか? まさかマッドサイエンティスト的なアレなのか?
「しかしまぁ……お前ら……名前はなんじゃったかな?」
「名前? 僕は桂木桂馬だ」
「わ、私はエルシィです! エリーって呼んでください!」
「ああ……そう言えばそんな名前じゃったな」
「? 僕達の事を知っているのか?」
「いや、お前らに関しては全く知らん。尤も、私は人の名前を覚えるのが苦手じゃから私が忘れているだけの可能性もあるが」
「…………」
何なんだこいつは一体。まさか電波系じゃないだろうな?
あいつら苦手……じゃない、面倒なんだよ!
いや、でもこいつの場合は大丈夫か。あいつらが厄介な一番の理由は遭遇場所が特定できない事だしな。
こいつの場合は部室に通ってれば大丈夫だろう。多分。
「ふむ、丁度いい。少し手伝え」
「は?」
「こんな所に居るくらいだからどうせヒマなんじゃろう? 私の人間作りに協力せい」
話の流れがイマイチよく分からないが……これはチャンスなのか?
恋愛を絡める場合でも、単純に悩みを解消するだけでも、相手の懐の内に入れるのは非常に大きい。
トントン拍子に話が進んでいるからなんだか嫌な予感もするが……いいだろう。あえて突っ込んでやろう。
「分かった。ただ、一つだけ訂正させてくれ」
「何じゃ?」
「僕は決してヒマじゃない! ゲームするのに忙しいんだ!!」
「…………」
その時、ずっと無表情だった目の前の少女が少しだけ表情を変えた気がした。
哀れむ方向に。
アポロ「妾と語尾が被っとるぞよ!!」
とか文句を言ってる姿を想像したら何か可愛かった件について。
(多分)外から操作しているわけでもないのにちゃんと生物部の部室のドアに辿り着いたりドアを開けようとするロコちゃんは地味に凄いと思う。
ガワはショボいけど、ソフトの技術がぶっ飛んでますね。何をどうしたらあんなのが作れるんだろうか?
灯の学力は何故か2となっています。この時期はテスト勉強漬けに違い無い! 流石は学力0さんの姉!
と言う冗談はさておき……灯の各パラメータの評価値は最大でも2.5という大人しさなので、正しい評価値が隠蔽されてる可能性がありそうです。
仮に半分になる補正がかかっているとすると学力評価は4ですね。
そもそも証の鎌っぽいのを持っているのだから学力が優秀じゃないとおかしい。
ただまぁ、このヒトだったら悪い悪魔から鎌を強奪した可能性とかも普通に有り得そうな気がする。
17巻でドクロウ室長が言っていた『「証の鎌」は家柄の高い悪魔しか取れなかった』というのが『角付き悪魔しか』という意味なら誰かから奪い取ったか譲り受けたかしたのは確定。但し、リミュエルさんは王族のお嬢との事なので普通に首席になった可能性も十分有り得ます。首席にしては学力が低めなのは……きっと実技系の科目が優秀だったんでしょう。