もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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二人三脚と呼び方

 全員参加の応援合戦などの競技……いや、点数は入らないから競技ではないのか?

 とにかく、そんな感じのものも終わりついに二人三脚の時間がやってきた。

 いや、別に待っていたわけではないんだが……これさえ終われば参加義務のある競技は無くなる。強いて言うなら閉会式くらいだ。

 

「桂馬君、頑張ろうね」

「……まぁ、怪我だけはしないようにな」

 

 たかが二人三脚でさっきの棒倒しほどヒドい事にはならないだろうが、妙な怪我をしてまた保健室に行くのは面倒だ。

 そう言えば、ほぼ全快している気がするな。麻美が……いや、アポロが何かやったんだろうか?

 

 

 配られた布でお互いの足首を結びつけてスタートラインに立つ。

 

「桂木~! ぶちかませ~!」

「ファイトです、神に~さま~! ぶっ飛ばしちゃってください~!」

「頑張れ~!」

 

 応援……と言うか野次が2-Bの方から聞こえてきた。

 ちひろとエルシィとかのんが先頭に立って何かやってるみたいだ。

 さて、こういう場であの3人が先導するとどうなるか。

 答えは簡単だ。クラスの連中が一丸となって応援し始める。

 

「やっちまえオタメガー!」

「あさみんもがんばれー!!」

 

 ……これはアレか? 僕があからさまに手を抜かないようにプレッシャーをかけようというかのんの策略か?

 いや、そんな手間がかかる上にそこまで効果の無い事はしないか。単純にクラスの一員として応援しようとしただけだろう。かのんは勿論、エルシィもちひろも深くは考えてないんだろうな。

 

「……クラスのムードメーカーと愛されマスコットと正真正銘のアイドル……ですか。

 あの3人の人気は凄まじいですね」

「ん?」

 

 隣から聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返ると、そこには結が居た。

 

「何だ結、居たのか。二人三脚に参加してたんだな」

「はい。運動はあまり得意ではないのでなるべく配点が少ない競技に……と」

「ああ、お嬢様だもんな。通学も昔の青山みたいに車とかなのか?」

「最近まではそうでしたが、今は自分の足で通っています。少しでも体力を付けておきたいので」

「ふ~ん……」

 

 結の家、結構遠かったと思うんだが……

 まぁ、本人が満足してるなら構わないか。

 

「そろそろ始まるようですね。お互いに健闘を尽くしましょう」

「程々に頑張るとするよ」

 

 結との会話を切り上げ、改めてスタートラインに向き直る。

 ゲームだと簡単な二人三脚だが、何故か現実(リアル)では転びそうになる事態が多発する。堅実に行くとしよう。

 

「それでは位置について、ヨーイ……」

 

パァァン!!

 

 ピストルが開始を告げた。

 それと同時に僕達もゆっくりと走り出す。

 

「外、内、外、内、外、内……」

 

 ゆっくりと、しかし確実に歩みを進める。

 そんな作戦がが功を奏したのか、僕達は途中でコケた2-Cのペアを抜き去って見事に3位を勝ち取った。

 オリンピックだったら銅メダルだな。実際には下から2番目だが。

 なお、結のペアは2位だった。

 

 

 

「神にーさま凄いです! 2点入りましたよ!!」

「たかが2点、されど2点。

 この2点が、後に私たちの命運を分けるとは、今はまだ誰も気付いていなかった……」

「いや、たかが2点だからな? 最下位でも1点入る事を考えると実質1点だからな?」

「もー桂木ったらノリ悪いな~」

 

 下から2番目にも関わらずクラスの連中は大騒ぎしていた。

 ま、僕は勿論麻美もそこまで運動できるタイプじゃないしな。ビリを回避できただけでも話の種にはなるんだろう。

 

 自分の席に戻ってようやく一息吐く。さて、後はのんびりゲームしよう。

 

「あの……桂馬君」

「……ん? 吉野か。どうした?」

「えっと……その……」

 

 どうも要領を得んな。

 待つのも面倒なのでPFP(予備)で麻美の姿を映してやった。

 

『おお、気が利くのぅ』

「で、何の用なんだ?」

『え~っとじゃな……まあよいか。麻美、妾から言ってしまうぞよ』

「えっ、あ……う、うん。お願い」

『うむ、桂木よ。1つ訊きたい事があるのじゃ』

「手短に」

『すぐ済むわい。

 お主、何であの結とやらは下の名前で呼んでいたのに麻美は名字呼びなのじゃ!』

「……あえて理由を答えるなら、結本人に名字は嫌いだから名前で呼んでほしいと言われただけだが」

『では、麻美も頼んだら呼んでくれるのじゃな?』

「まあそうなるが……そっちの方が良いのか?」

『勿論じゃよ!』

「お前には訊いてない。本人に訊いてるんだ」

「うぅ、そ、その……」

 

 麻美は何やらもじもじしていたが、しばらく待ってやるとやがて口を開いた。

 

「……で、できれば……下の名前で呼んでほしいかなって……」

「……分かった。改めてよろしくな。()()

「う、うん。宜しく……桂馬君」

 

 

 

『うむうむ、よきかなよきかな。

 愛の形というのも様々じゃのぅ。

 麻美が望む未来を掴み取れるよう、祈っておくとしようかの』

 

 

 

 

 

 

 ……その後、クラス対抗のリレーでアンカーの歩美がぶっちぎりでゴールして全ての競技が終わった。

 総合得点もうちのクラスが1位だったようだ。何でも最後のリレーでギリギリ逆転したらしい。

 ちなみに、その時の得点差は……1ではなかったようだ。やっぱり大した意味は無かったな。







 原作の絵で確認できる情報をまとめると二人三脚は同学年のペアと競争するようです。一緒に走ってるのは全員2年でしたし、A~Dの各クラスから1ペアずつ出ていたので。
 しかし、桂馬とちひろのペアはビリを回避していたはずなのに、エルシィによれば2人は4位だったそうです。
 これは……きっとアレですね。エルシィが3と4を間違えたんでしょう!


 筆者としては桂馬が誰かを呼ぶ時の呼称って結構気を遣います。
 原作では原則として名前呼びなわけですが……本作だと結構例外がありますね。
 まぁ、攻略でもないのに女子と会話する機会が原作と比べて非常に多いから当然と言えば当然ですが。

 なお、女子から桂馬への呼び方は良くも悪くも適当。それっぽいタイミングで苗字呼びから名前呼びに変えたり、『オタメガ』という蔑称から苗字呼びにしたりしています。
 但し1名だけ、徹底的にこだわってる人が居ますけどね。


 さて、次回は灯編です。
 本話を書き終えてから3週間くらい経過してるのでちゃんと用意できています。
 コレが果たして女子の攻略なのかは不明ですが……明日もお楽しみに。

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