ふと目を覚ますと、知らない天井が見えた。
あれ? 何があったんだっけ?
確か……ああそうだ、
身体を起こして辺りを見回す。
「あ、起きたんだね、桂馬君」
「ここは……保健室か?」
「うん、そうだよ。エリーさんと私でここまで運んできたの」
「そうか……わざわざスマンな」
「これくらいなら大丈夫だよ」
会話しながらも懐からPFPを取り出そうとして……気付いた。そう言えば、全部預けていたなと。
「吉野、預けておいたPFPってどこにある?」
「起きたばっかりなのに真っ先に気にするのはそこなんだね……
外に置いてきちゃったから今は無いよ。取ってこようか?」
「……いや、どういうわけか身体が痛まない。グラウンドまで戻るとしよう」
「そ、そっか……じゃあ一緒に行こうか」
グラウンドに着いた僕達に真っ先に声を掛けてきたのはちひろだった。
「お~、あさみんに桂木! やっと戻ってきたね!」
「どうした? 二人三脚はまだまだ先のはずだが?」
「うん。お2人さんの出番はまだ先だけど、そろそろスゴいのが始まるみたいだよ」
「スゴいの?」
「うん。運動部の部活動紹介だよ!」
部活動単位での出席になる競技なんでホームルームでは触れられなかったが、確かにそういう競技(?)も存在している。なお、当然ながら得点には加算されない。
運動部と言うと……こいつと仲が良い連中では歩美と京が該当するか。
だが、陸上部の紹介で『スゴいの』なんて言葉が出てくるだろうか? いや、他の大抵の部活にも言えそうだが。
「もー、反応鈍いね。なんたって今回は『あの人』が出てくるんだよ!!」
「誰だ」
「ふっふ~ん、その様子じゃ知らないみたいね~。
そゆことなら、見てからのお楽しみね」
そうやって言いたいことだけを言ってちひろは自分の席へと帰って行った。
「……吉野、お前何か聞いてるか?」
「ううん。一体誰の事だろう……?」
「……考えても仕方ないか。のんびり待つとしよう」
とりあえず……ゲームしよう。
ゲームを始めてから数分、部活動紹介が始まった。
それぞれの部活に与えられた時間を使ってその部ならではのパフォーマンスを行っている。
何というか……普通だな。特にスゴい感じはしない。
所詮はちひろか。そう思ってPFPに視線を落とす。
『続いて、女子空手部の紹介です!』
そんなアナウンスが聞こえてから数秒、グラウンドが歓声に包まれた。
何だ何だと思って視線を上げる。
グラウンド中央に居るのは黒い長髪が目立つ背の高い女子。そしてもう1人、道着を身につけたピンクの短髪の……
……僕の相棒こと中川かのんだった。
「って、ちょっと待て!! どういう事だ!!」
「桂木ったら知らなかったの~? かのんちゃん、数日前から女子空手部でお世話になってるらしいよ」
「いや、それくらい……ゲフンゲフン、へーそーなんだー」
それくらい当然知ってたが、とりあえず知らなかった事にしておこう。
そう言えば、今朝話した時に『師匠のお手伝い』とか言ってた気がするが……お手伝いってこういう事かよ!
「正式には部員じゃないらしいけど、今の女子空手部って部長1人しか居ないらしいからそのお手伝いだってさ」
「へー」
お手伝いねぇ……
瓦割りの為の瓦を運ぶとかの雑用とかだろうと思っていたが、どうもそんな雰囲気では無さそうだ。
そんな事を考えていたら、部長らしき人物の方が動いた。
「フンッ!!」
かのんの顔面目がけて正拳突きを放つ。
アイドルへの容赦ない攻撃に会場から悲鳴が上がる。
……が、かのんはその拳を軽くいなした。
部長の方も当然想定済みだったのだろう。流れるような連続攻撃をくり出す。
しかし、そのどれもがクリーンヒットせず華麗にいなされる。
そんなやりとりが続いた後、終わりを迎える。
部長のやや大ぶりな攻撃を受けたかのんは逆に相手の腕を掴んで地面に投げ倒し、間接を極めたのだ。
かのん……1週間にも満たない間にこんなに強くなってたのかよ。
かのんが拘束を解いた後、部長は立ち上がりお互いに礼をした。
その後、部長は係の人からマイクを受け取った。
『彼女のようになりたい者は女子空手部へと来るが良い。
本気で強くなりたい意志があるならば誰であろうと成長を約束しよう!
以上だ』
最後に、会場からの割れんばかりの歓声でその紹介は締めくくられた。
「ね? スゴいっしょ?」
「……まぁ、そうだな」
ちひろの言うことに素直に同意するのも癪だが……確かに凄かったよ。
言うまでもない事ですが、部活動紹介は原作では確認できる範囲では存在しない競技(?)です。
前章との繋がりとかもあるので折角だから入れてみました。
なお、流石に主将は手加減していた模様。