もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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06 求道者の怠慢

 いくら考えても解決策なんて思い浮かばない。だから、私よりもっと頭の良い人に相談してみる事にした。

 

「……って感じなんだけど、どう思う? 桂馬くん」

「お前、駆け魂攻略でもないのに妙な事に首を突っ込んでるな……

 と言うか、何を悩んでいるんだ? そんなの簡単だろう」

「えっ、そう?」

「ああ。おそらくは非常に簡単な事だ。

 確認の為にいくつか質問させてもらうぞ」

「うん」

「その師匠はうちの学校の先輩で、スラッとした背の高い黒髪ロングの美人だと言っていたな?」

「うん」

「……その時点で100%の完全な武道家と言えないだろ」

「えっ? どういう事?」

「お前もアイドルやってるなら、見た目に気を遣ってるなら分かるだろ? 髪の手入れってのはそんな簡単なもんじゃないし時間もかかる。それなのに髪を切らずに伸ばしてる時点で武道家としては怠慢だろう」

「た、確かにそうだね……」

 

 私も前は長髪だったからお手入れにかかる手間は理解している。

 師匠が私ほど気を遣ってるとは思えないけど、完全放置だったらああはならないだろう。

 ……あれ? 桂馬くんは何でその手間を知ってたんだろう? ゲームからの知識かな?

 

「それにだ、武道一直線なら学校に通う必要すら無いだろう?

 姉とやらが出奔したのはその師匠が中1から中2になる頃だったらしいな。1年くらい経っても姉が帰ってこなかったらそいつが道場を継ぐとかいう話になるはずだ。

 跡継ぎになる事が決まった頃にはもう高校生だったとかならまだしも、その時期なら受験せずに道場に籠もる選択もできたはずだ」

「……確かに、そう考えてみると師匠の行動って無駄だらけだね」

 

 無意識のうちに『人としての最低限』を決めつけてたみたいだ。

 確かに学校に通う必要なんて無いね。私みたいに仕事してるわけだし。あれ、春日流当主って仕事だよね?

 普通の人から見たら修行に打ち込んでいるように見えるけど、徹底して時間を切り詰めているわけではないみたいだ。

 ……って事は、問題は『かわいいものと戯れる時間がないこと』ではない?

 

「……そういう事か分かった気がするよ」

「掴めたようだな。応援くらいはしてやる。頑張ってこい」

「うん。やってみるよ」

 

 これは駆け魂攻略なんかじゃないから失敗を恐れる必要は無い。

 とりあえず、やってみようか。

 

 

「あ。もしもし、岡田さんですか。ちょっと頼みたい事が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

   ……翌日 放課後……

 

 

「師匠! 質問があります」

「どうした改まって。言ってみろ」

「はい。師匠はどうして学校に通っているんですか?」

「……なに?」

「武道家として強さを求めるなら、授業なんて出ずに鍛えているべきですよね?

 どうなんですか?」

 

 師匠からの答えは無かった。黙り込んで、ひたすら考えているようだった。

 特に何か意図があって学校に通っていたわけではなさそうだ。

 

「昨日の話では、かわいいものと関われないのは『時間がもったいないから』って事でしたけど、実は違うんじゃないですか?

 時間なんて関係ない。ただ単純に『かわいいものと関わってたら自分が弱くなる』とか、そんな感じの事を考えてたんじゃないですか?」

「っ、あ、ああ。その通りだ。軟弱なものと関わっていて、強くなれるわけが無い!」

 

 神様じゃああるまいし、『時間が無い』なんて問題は私には解決できない。

 けど、それが問題の全てじゃないなら、こういう問題なら、私でも対処可能だ。

 

「……師匠、バカですか?」

「な、何だと!? どういう意味だ!!」

「だって、バカでしょう。『かわいい』という事の何たるかを知らない師匠がどうして『関わると弱くなる』なんて断言できるんですか。

 むしろ強くなれるかもしれませんよ?」

「そ、そんな事あるわけが無いだろう! バカバカしい」

「どうしてそんな事が断言できるかと言っているんですけど……このまま行くと議論は平行線になりそうですね。

 というわけで、準備して来ました」

「準備だと?」

「はい。校門の前で待ってもらってるんで行きましょう」

「ちょっと待て、一体何を……」

「行ってからのお楽しみです♪」

 

 

 

 

 

  で!

 

 

 

 

「……おい中川」

「何ですかぁ?」

「……このヒラヒラした軟弱な服は何だ! と言うかここはどこだ!!!」

 

 新品のアイドル衣装を身に纏った師匠の叫び声が、私が普段使ってるレッスン場にこだました。







 軟弱なものを忌避する武道一直線の主将ですが、意外と勉強もしっかりとやっているもよう。
 例のファンブックによれば、勉強の評価値は3、ちひろと同程度ですが……
 彼女の1日のスケジュールではしっかりと授業を受けており、就寝前に1時間の勉強時間が設けられていたりします。

 ちなみに、学生にも関わらず授業に参加しないスケジュールなのはかのん。あと、月夜さんは天体観測の為に時々サボるらしいです。
 また、学校の勉強に関する自習時間が設けられているのは主将以外では かのん・栞・結 だけだったり。
 かのんちゃんは事情が事情だから勉強しないとマズいとして、それ以外は見事に優等生キャラのみ。主将のキャラって武道家と言うよりは文武両道な優等生なのかもしれませんね。

 ……まぁ、このスケジュール表もあんまり信用できないんですけどね。昼食時間があったり無かったり、入浴時間があったり無かったりと。迅速に終わらせてるから書くのを省略しただけかもしれませんが、単純に雑な可能性が……

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