というわけで翌日放課後!
早速訓練開始だ。どんな事を教えてくれるんだろう?
「では、始めるぞ」
「宜しくお願いします!」
「うむ、良い返事だ。ではまずは着替えだ。昨日連絡した通りの服は持ってきたか?」
「大丈夫です!」
春日さん……いや、教わるんだから春日先生? うーん……春日師匠かな。師匠だ。
ゴホン、師匠は実戦主義らしい。
今回は護身術の訓練という事で、私が護身術を最も良く使うであろう仕事着、すなわちアイドルとしての衣装を着た状態で行うとの事だ。
確かに、道着では簡単な事でも実戦の服装では使えないって事も考えられる。理に適っている……のかも。
但し、動きやすい服装で先に訓練しておくというのも十分理に適っている。どちらが正しいのかは私には分からない。
まあとにかく、そんな感じの理由があるので着替える事にする。
身に纏っていた黒いコートをバサッと脱ぎ、丁寧に畳んで隅っこの方に置く。これで着替え完了だ。
「ほぅ? 既に下に着ていて……って、何だその軟弱な格好は!!」
「えっ、私の仕事着なんですけど……」
「くっ、そうだったな……ぐぬぬぬぬ……」
な、何だろう、何か凄い睨まれているような……
初日なんでこれでも控えめなんだけどね。本当に凄いのはフリルやリボンだらけで動きにくいし転んだら変な所に引っかかったりして怪我しやすそうだから。
「ふんっ、では、お前がどれだけ動けるか試そう。
私は一切反撃しないから、スタンガンを全力で私に当ててこい。勿論電気は流すなよ?」
「えっ、大丈夫なんですか? 金属部分が当たるだけでも結構痛そうですけど……」
「素人の攻撃を躱すくらい造作もない。さぁ、やってみろ」
「そうですか……分かりました。
では、行きます!!」
慣れてる動作でスタンガンを取り出し、全力で当てる。
しかし、当たる直前に腕がほんの少し引っ張られたかと思うと次の瞬間には床で仰向けになっていた。
「えっ、あれ?」
「っ!! すまない、つい手が出てしまった。大丈夫か?」
心配そうな顔をした師匠から手が差し伸べられる。
どうやら投げ飛ばされたようだ。
「……師匠、反撃しないんじゃなかったんですか?」
「それに関しては本当に済まない。お前の攻撃に脅威を感じて反射的にやってしまった」
「えっ、脅威を? またまたそんな。こっちはただの素人ですよ?」
「本当に素人なのか非常に気になるが……そういう事にしておこう」
まるで私が達人か何かみたいな事を言われた気がする。
スタンガンを振るのも数えるくらいしか無いただの一般市民なんだけどなぁ……
「では、次は私も反撃する。後遺症が残るような怪我をさせるつもりは無い。
……が、先ほどのように反射的にやってしまう可能性までは否定できない」
「えっ、大丈夫なんですかそれ……?」
「……死にたくなければ、自力で何とかしろ。
では行くぞ!」
「え、ちょっ、いきなりぃっ!?」
……その後、窮地に追いやられた私はスタンガンを投げつけて作った隙を突いてもう一つのスタンガンで師匠を気絶させる事で難を逃れた。
はぁ……死ぬかと思った。何度うっかり飛行魔法を使いそうになった事か。訓練、やっぱり止めた方が良いんじゃなかろうか……?
※ 達人が気絶する程の威力ですが、安全なスタンガンです!
家に帰って、ゆっくりと休ませてもらう。そこまで長時間の運動はしてないけど緊張感が凄まじかった。ステージの上とは別の意味で。
「ほえ~、姫様そんな事までやってるんですね。スゴイです!」
「師匠が大人げないからスゴく見えてるだけだよ。そうだ、何ならエルシィさんも来てみる?」
「い、いえ、それはちょっと……」
そう言えば、悪魔の身体能力ってどうなってるんだろう? エルシィさんなら案外殴られても平気かもしれない。
……いや、殴られる前に結界を張っちゃいそう。そして凄く面倒な事になりそう。連れていくのは勿論止めておくし、しばらくは入れ替わるのも控えておこう。
「……一つ気になったんだが」
「何? 桂馬くん」
「そいつ、相当強い武道家なんだろう? それなのに素人相手に手加減できないなんて事があるのか?」
「それは私も気になったよ。何か達人か何かだと勘違いされてるみたいでさ」
「最終的に隙を突いて気絶させてるからあながち外れてもいなそうだが……それ以外にも、嫌々ながら教えてるからとかいうのは有り得ないのか?」
「無理に頼み込んだわけじゃなくて帰ろうとした所を呼び止められたからそれは無いと思うけど……
……あ、でも、服装とかに関して『軟弱だ』って睨まれる事はあるよ」
「軟弱? と言うと?」
「猫型スタンガンとかアイドル衣装とかに反応してたから……『かわいい物』に反応してるのかも」
逆に凄くもやっとした表現になってしまった気がする。情報が少ないから仕方ないけどさ。
「かわいい物、ねぇ……
……人がそういう物を嫌悪する場合、主に2つのパターンがある。
1つは、本当に嫌いな場合。これは説明するまでもないか。
もう1つは『嫌いになりたい場合』だ」
「……? どういう意味?」
「例えばだ。お前に恋人が居たとしよう」
「えっ? う、うん……」
「だがお前はアイドルだ。恋愛はご法度だ。そうだろう?」
「そうだね。うん」
「だから、その恋人の事は嫌いにならなくてはならない」
「……だからこそ、あえて敵意を向けて遠ざける。そういう事だね」
「そういう事だ。もっとも、その師匠とやらがどっちなのかは不明だがな」
「うーん……」
別に攻略でもなんでもないから師匠の内面にまで立ち入る必要は無いんだけど……まぁ、もうちょっと続けてみようかな。
不良を拳圧で吹っ飛ばし、瓦を9枚ほど拳で撃ち抜く武道家と、
片手で樹木をへし折り、フリック入力なんて無いガラケーでせいぜい10秒程度で189字を打つアイドル。
どちらがより強いのだろうか……? っていうかかのんの指先は下手すると音速を越えてるんじゃないだろうか?
せっかくだからかのんの指先の速度がどれくらいか試算……したらまた無駄に長くなってしまったので活動報告に投げときます。何か4000字くらいになってるっていう。
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