もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 選択肢

「よし、メンバーは決まったようだな! この後の体育で特訓を行う!

 既に体育の木村先生には話を通してある!

 ……ああそうそう当日の『急病』は一切認めないから。ヨロシク」

 

 急病は無理か。ならやっぱり怪我だな。

 そんな揚げ足取りは置いておいておくとして……どうしたもんかな。

 

「かみさま~」

「ん? どうした?」

 

 考え事をしていたら最近出番が少なくなってきたエルシィが声を掛けてきた。

 念のため言っておくが変装したかのんではない。

 

「1つ気になった事があるんですけど、『二人三脚』って何ですか?」

「何だ、知らないのか?」

「はい、地獄の運動会ではそんな競技は無かったので。

 文字から察するに……2人の脚の本数を4本から3本に減らす競技でしょうか?」

「……間違ってはいないな」

「そうなんですか。でもどうやって減らすんでしょう?

 ハッ! ま、まさか、切り落として……」

「ギャルゲー定番の競技を勝手に猟奇的にするんじゃない」

「じゃあどうやって減らすんですか!」

「2人並んで、それぞれの足を1本ずつ結ぶ。それだけだ」

「1本ずつ結ぶ……う、うぅん……? よく分からないような……分からないような……」

「それ、どう転んでも分かってないな。あ~、そうだな……」

 

「実際に見せた方が早いんじゃないかな」

 

 突然、後ろから声が掛けられた。

 僕とエルシィがそちらの方を向く。そこには、僕の二人三脚のパートナーが。

 そう、吉野麻美がそこに居た。

 

「桂木君、二人三脚よろしくね。そろそろ校庭に行こうよ。

 エリーさんにも見せてあげられるし」

「……それもそうだな。百聞は一見に如かずだ。

 行くか」

 

 

 

 

 

   で!

 

 

 

 

「ほら、こんな感じだ」

 

 エルシィに実物を見せてやる。

 僕の左足首と麻美の右足首の所に先生から渡された布を軽めに縛り付けた状態だ。

 

「えっと……この状態で、走るんでしたっけ? 転びませんか?」

「ああ、失敗すると普通に転ぶぞ」

「うわっ、それって危なくないんですか?」

「……なるべく危なくならないように、白熱させ過ぎないようにこの競技の配点だけかなり下げられているという話を聞いたことがある」

「回りくどい対策ですね……」

「そもそも本当かどうかも分からんしな。

 それより、お前はお前の競技の練習に行かなくて良いのか? 確か何かのリレーだっただろ」

「あ、はい! バケツリレーです! 行ってきます!!」

 

 ザ・エルシィの競技って感じの競技だな。うちの学校、そんな妙な競技やってたのか。

 

「それじゃあ桂木君、練習始めよっか」

「……そうだな。一応やっておくか」

 

 今のところ、当日は休むつもりだが……女神候補を放置するわけにもいかないからな。

 

「桂木君は二人三脚をやった事は……無いよね?」

「フッ、見くびってもらってはこまる。二人三脚如き、毎回ハイスコアを出してるさ」

「……それって、ゲームの話だよね?」

「愚問だな」

「……と、とりあえずあの線の所まで移動しようか。

 右・左・右って号令をかけながら移動を……すると転ぶね」

「ん? ……ああ、確かに」

 

 結ばれているのは僕の左足と麻美の右足なので、『右左』という号令だと上げる足が食い違って転ぶハメになる。

 となると……

 

「内・外なら行けるな」

「そうだね。そうしようか」

 

 内・外・内……とつぶやきながら数メートルの距離を苦労しながらも移動する。

 ゲームではスタートラインから始まるというのに、現実(リアル)はクソゲーだな。

 

「何とか辿り着いたわけだが……お前、走れるか?」

「難しそうだね……もう少し歩いてみようか」

「……そうするか」

 

 ゲームではLボタンとRボタンを交互に押すだけで走れるというのに、これだから現実(リアル)は。

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりとだが確実に進む事によって何とかグラウンドを転ばずに1週する事ができた。

 が、それだけで僕も麻美も疲労困憊だ。少々休ませてもらおう。

 

「い、意外と、キツいな、二人三脚って」

「そ、そうだね……」

 

 足を結んでいる紐を一旦解いてグラウンドの隅の階段に腰かける。

 こんなの現実(リアル)でやるもんじゃないな。今年の体育祭が終わったらもう二度とやらん。

 

 それはさておき、ようやくのんびりと話せる時間が来たようだ。

 女神が居るのかどうか、白黒つけさせてもらおう。

 『女神は居るか』と問えばアッサリと分かる気もするが、隠れられてしまったら面倒だ。やはり、『記憶の有無』を探るのが遠回りに見えて一番堅実な手だろう。

 まずはそうだな……

 

「なぁ、1つ訊いてもいいか?」

「いいよ。何?」

「お前、どうして二人三脚を選んだんだ? 特に得意ってわけでもないみたいだが」

「それは……その……」

 

 おそらくは『僕と話す為』なんだが、実はもう一つ分かりやすい回答がある。

 単純に『他の競技が大体埋まっていたから』という。分かりやすい逃げ道が。

 だからこそ……僕はこういう台詞を選ぶべきなのだろう。

 

「ん? ああ、すまんすまん。よく考えたら訊くまでも無かったな。

 他の競技大体埋まってたもんな」

「えっ? そ、そうだね……」

「ああ、それじゃあしょうがないよな。他に特に理由も無いよな。

 ……それで良いのか?」

 

 その逃げ道を、塞がせてもらおう。

 肯定されてしまうとその逃げ道に逃すハメになるが……お前に女神が居るならそんな勿体ない事はしないだろう?

 踏み込むか、逃げるか、選んでみろよ。







 原作中に何故か存在する設定『二人三脚は点数にあんまり関係ない』に強引に理由を作ってみたり。

 原作を読み返すとグラウンド隅の階段に座ってたはずの桂馬とちひろが2コマ後にはグラウンドのトラックに居ます。
 相性最悪のあの2人が数メートル移動するだけでもかなり困難だと思われますが……一体何があったのだろうか?

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