チンピラに絡まれるといった妙なイベントは特に起こらずデゼニーシーに辿り着いた。
休日だから結構混んでるな。
「んじゃ、何から乗りたい?」
「え? 桂馬君の好きなのでいいよ。私、よく分からないし」
「それはそうだが……パッと見で興味を持ったものとか無いのか?」
「えっと……ぜ、全部?」
全部……そう来たか。
前に挑戦してしっかりと全部回れた事があったので物理的に不可能という事は無い。
しかし、体力的にかなり厳しい事になるので勘弁してほしい。
「……全部は厳しくないか?」
「そ、そうだよね。ごめん……」
「謝るな。今日はお前の為に来てるんだからいちいち謝る必要は無い」
「あぅ……ご、ごめん……」
「言った側から謝ってるな……」
「あっ、ごめ……じゃなくて、えっと……」
「まあいいや。とりあえず目についたものを適当に回るとしようか。それで良いか?」
「う、うん! えっと……ありがとう!」
「礼を言う必要もあまり無いが……まあいいか。行くぞ」
「うーん、何か普通やな。桂木の事だから何か凄い事やらかすんやないかと思っとったけど」
「普通じゃない遊園地巡りって一体何?」
「そんなん分からんよ。普通やないんやから」
「そりゃそうだけどさ……」
桂馬くん達を追って私たちもデゼニーシーの中まで入って来た。
急にこちらを振り返ったり、あるいは全力疾走でどこかに行ったりしていないので私たちの存在は今のところはバレてなさそうだ。
どういう風に回るのか見てたけど、普通のペースで歩いて近くのアトラクションに入ったようだ。
「至って普通だね……」
「せやな……ん?」
「どうかしたの?」
「そう言えば、桂木の奴ずっとゲーム持ちっぱなしやない?」
「? それがどうかしたの?」
「いや、デート中やで!? 何でずっとゲームしとるん!?」
「……何言ってるの七香さん。だって桂馬くんだよ?」
「そ、そうやけど……」
「むしろゲームしてない方がおかしいよ!!」
「そ、そうなん? そ、そう言われてみればそんな気も……せえへんわ!! おかしいやろ!!」
あれ? おっかしいな。大抵の人はこれで納得すると思ったのに。
そう言えば、七香さんとの対戦中はあの桂馬くんもゲームは中断してたっけ。七香さんはゲームしてない姿の方が見慣れているのかも。
……っていう事は、桂馬くんにとってデートよりも将棋の方が優先度が高いんだね。ディアナさんにバレたら凄く怒られそうだ。
「私たちの基準から見たら確かにおかしいけどさ。あれでも結構我慢してる方だと思うよ」
「そうなん……?」
「うん、だってあの自称神様、その気になれば6台同時にプレイしたりするから」
「あ り え ん や ろ !!!!」
「そんな事言われたって、事実だからね。
そうだ、今度桂馬くんと将棋やるときはお互いに6面同時にやってみない? いつもとほぼ遜色ない指し筋が見れると思うよ」
「ホンマかいな……あ、でももしホントにやるんやったら3面か5面やな。3ー3とかなったら勝敗がつかななるから」
「確かに」
「最近師匠からもプロになったら多面指しする事もあるから練習しといてって言われたんで丁度ええな。来週が楽しみや。
ハッ! 桂木の奴と指すだけやなくて鮎川ともいっぺんに指せば完璧に……?」
「それは流石に無理なんじゃないかなぁ……七香さんの容量的な意味で」
「うっ、せやな……せめて鮎川相手にいい線まで行くようになってからにしよか……」
「……むしろ桂馬くんと2人がかりで天理さんに挑むくらいでちょうど良かったりして」
「そ、それは流石にどうなん……?」
「……流石に過剰戦力か。それだったらもっと程々に弱そうな人と一緒に挑むとか?」
「せやな……かのんちゃんとか?」
「えっ?」
「ん? ああ、そう言えば一般にはまだ知られとらんかったな。
有名なアイドルのかのんちゃん、実は将棋も指せるんやで」
うん、知ってるけどさ。
「何か今度大々的に『顔良し歌良し性格良しの上に将棋まで指せるアイドル』として売り出すらしいで。
『歌良し』って入っとる時点で本業は歌のはずなのに何やっとるんやろうな。ハハハッ」
そんなの私が訊きたいよ。
でも、七香さんは一応私の本業が歌だって把握してくれてるんだね。良かった……って言って良いのだろうか?
「そ、そうなんだ……でも、それって一般人の私に話して良かったの?」
「えっ? あ……」
「……聞かなかった事にしておくよ」
「す、スマン」
そんな感じで、何故か将棋の話になっていたけど、アトラクションを終えた桂馬くんと天理さんが出てきたので一旦お開きになった。
七香との将棋>ゲーム>>>(超えられない壁)>>>デート。
ディアナさんに知られたらエラい事になりそうですね♪
本来はプロ等がアマチュア相手に1対多でやる多面指しを1対1でやってどれくらい負荷が増えるのかは不明です。
桂馬は落とし神モードで6面同時に攻略しつつエンディングのタイミングを合わせる余裕すらあるので1つの物事に集中するより並列思考させた方が効率は良さそうな気はします。
今回のデートを書くにあたってデゼニーシーが出てきた11巻や15巻を読み返して、ちょっと遡って14巻を読んだりしていましたが、そこでウルカヌス様の驚愕の台詞を発見しました。
『かのんトかいう歌手に浮気して!! (後略)』
どうやら女神様にはちゃんとかのんが歌手だと判断できていたみたいです! いや~良かった良かった。
台詞の揚げ足取りはともかく、原作者の若木先生もアニメ一期を見た後でもかのんの本業が歌手だという認識はしっかりあったみたいですね。