もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 それぞれの道中

「うーん、聞こえへんなぁ……何話しとるんやろ」

「な、七香さん。あんまり身を乗り出すと見つかっちゃうよ?」

 

 デゼニーシーは舞島市の隣の鳴沢市にある。頑張れば歩いていけない距離じゃないけど、電車を使って行く方がずっと楽だ。

 件のデゼニーシーは勿論、桂馬くんの家も何気に駅に近いからね。

 そういうわけで、今日の桂馬くん達も電車に乗っている。当然私たちも一つ隣の車両に乗り込んでいる。

 

「……ところでまろん、一つ訊いてもええ?」

「どうしたの?」

「……桂木たち、今日はどこまで行くつもりなんやろう?」

「知らずに尾行してたの!? って、そりゃ知らないか。

 デゼニーシーに行くって言ってたから次の次くらいの駅で降りると思うよ」

「へーそうなんか。

 ところで、もう一つ疑問があるんやけど」

「何?」

「……デゼニーシーって、何?」

「それも知らないの!?」

「まろん、声抑えて。見つかってまうで」

 

 何だか凄く納得行かないけど……確かに声量は抑えた方が良さそうだ。

 大声で呼び掛ければ伝わるくらいの距離と静かさだからね。

 

「で、話を戻すけど、デゼニーシーが何か分からないの?」

「おう、全く分からん。うち帰国子女やからな」

 

 それだったらまぁ、知らなくてもおかしくはないのだろうか?

 某ネズミがマスコットの世界的に有名なテーマパークではなく、そのパチモン……じゃなくて、オマージュしただけの遊園地だから鳴沢市にしか無いし。

 

「それじゃあ説明しておくよ。一言で言うと遊園地だね」

「おー、遊園地やったんか。デートの事はよう分からんけど、なんか鉄板な気ぃするな」

「桂馬くんらしく言うなら……

 『ベタなチョイスであり使い古されていて安定している場所だ。よって大失敗する確立は低く最低ラインは保証されるが大成功を狙うのも同様に難しい』

 って感じなんじゃないかな」

「……桂木の奴は何をもって成功って言っとるんやろうな?」

「攻略の進み具合にもよるだろうけど、攻略序盤ならとにかく強い印象を与える、中盤なら今まで溜めてきた『印象』を『恋愛フラグ』に変換する。

 終盤なら良い雰囲気で告白してハッピーエンドってところかな。例外も結構あるけど」

「……なんか、まろんが遠い……」

「あっ、ごめんごめん。デゼニーシーについてだったね。

 パチモ……妙な名前の割にはしっかりと遊園地やってるよ。結構広くて……ちょっと伝わりにくい例えだけど、1日で回りきるのは一般人にはまず無理なくらいだよ」

「一般人なら? 一般人じゃなかったら行けるん?」

「……桂馬くんレベルの人が分刻みの予定を組んで全力疾走すればね」

「まず無理やな」

 

 今日のデートで桂馬くんがあからさまな手抜きをするとは思えないけど、100%の全力を出すとも思えない。

 ほどほどに回ってお開きになるだろう。

 

「ところで、もいっこ気になったんやけど……」

「……まだ着かないみたいだね。今度は何?」

「デゼニーシーが凄いんは何となくわかったけど、デゼニーエーとビーはどこにあるんや?」

「アルファベットのCじゃないからね!? 海のシー(sea)だからね!?

 デゼニーシーは一つだけだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……何か聞き覚えのある声が聞こえたような……」

「え? そう? どんな声?」

「あ~、まあ気にするな」

 

 かのんの声が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。

 もっと別の……例えばちひろとかであれば僕を尾行しててもおかしくはないが、かのんの性格を考えるとそんな野次馬みたいな事はしないだろう。

 例外の可能性としては……記憶が戻っている場合か? 僕と恋愛していた記憶を持っていればこのデートが気になるのは当然の心理だ。

 だが、女神に関わる事でかのんが嘘を吐くとも思えない。やはり考えすぎだろう。

 

「どうかしたの? 桂馬君」

「おっとすまん。何でもない。

 ところで、天理はデゼニーシーに行った事はあるのか?」

「ううん、無いよ。ちょっと前に引っ越してきたばかりだからね。

 10年前はそもそも存在してなかった……と思うし」

「そう言えばそうだったかもな」

 

 現実(リアル)の遊園地なんて全く興味が無かったんで記憶が曖昧だが、数年ほど前に『遊園地ができた!』みたいな事を誰かが騒いでた気がする。

 まったく、そんなものゲームの中で行けば疲れもせず時間もかからないというのに。わざわざ騒ぎ立てるなんて理解できんな。

 

「それだったら……デゼニーシーに限らず遊園地に行った事は?」

「それも無いよ。近所に遊園地なんて無かったし、一緒に行く人も居なかったからね」

「そ、そうか……なんかスマン」

「え? あっ、ご、ごめん。気を遣わせるような事言っちゃって」

「……何だ、本人が気にしてないなら構わんさ」

 

 かのんと話してるときにその手の話題に触れるとたまにネガティブになるんでいつもの癖で謝ってしまった。

 天理はその手の話題は気にしないんだな。

 

 

 そんな感じでのんびり話していたら目的の駅まで辿り着いたようだ。

 

「んじゃ、行くか」

「う、うん!」







 次の駅で降りるのに長々と話をしているというのも不自然なので、いくつか駅を挟んでいるという設定にしておきます。
 原作4巻のカバー裏の地図では『新舞島駅』と『鳴沢駅』との間には駅は一切ありませんが……わざわざ電車で遠出してる感を出してるのに隣の駅なんていうのも虚しいのできっと省略されているんでしょう。きっと。
 そもそもあの地図、縮尺が不明なのでどのくらいの距離なのか分からないんですよねぇ。
 余談ですが、あの地図には若木先生の前作の舞台となる街である『木梢町(こずえちょう)』がさり気なく入ってたりします。神のみでラブコメってる裏側では壮絶なバトルが繰り広げられていたのかも……?

 デゼニーシーの設定は適当です。鳴沢市にだけしか無い設定の方が名前負けしてる感が出て面白そうかなと。
 野心溢れる鳴沢市市長が作ったという裏設定をノリでたった今作ってみたけど意味は多分全く無い。

 原作11巻で天理が『こんな風に大勢(3人)で遊ぶ事なんてなかった』と言っているので転校先では特に友達も居なかったもよう。
 一応2人で遊んでた可能性はあるけど、3人を『大勢』と表現する辺りでお察しですね。ディアナも含めれば一応4人ですが……そんな考え方をしても『大勢(マイナス)1名』で遊んだ経験が無さそうなのは結局変わらないという。
 かのんのボッチネタは本作ではちょくちょく出しますけど、天理の場合は過剰反応したりネガティブになるイメージが全く掴めません。流石は天理と言うべきなのか。

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