「まずはそうだな、あいつの家は分かるか?」
「ええ。最近会いに行ったので。
と言っても、会ってはくれませんでしたが……」
「まぁ、だろうなぁ」
ちゃんと会えてちゃんと話せてるならこんな事態にはなっていない……というのは流石に言いすぎかもしれないが、もうちょいマシな事態になってただろう。
「んじゃあ次、青山の家族構成を教えてくれ」
「美生さん本人と母親ですね。屋敷に住んでいた使用人達は全員解雇されているでしょうから」
「兄弟姉妹も居ないんだな?」
「ええ。その通りです」
朗報だな。余計な要素が少ない方が進行を管理しやすい。
ただ、そうなると1つ疑問が出てくる。
「あいつが外パンに来た時、使用人っぽい男が一緒に居たんだが、あいつは何者だ?」
「えっ? それは妙ですね。
しかし、美生さんに兄弟は勿論姉妹すら居ません。親戚筋まで辿れば居るかもしれませんが、没落した青山家の使用人をやるほど仲の良い方は居なかったはずです」
「……まさか未だに使用人を雇ってるんじゃないだろうな?
もしそうだった場合、一番該当しそうなのは誰だ?」
「そうですね……仮にそうだった場合は運転手の森田さんが第一候補です。
彼は男性の中では最も美生さんの信頼を得ていたと思います。
それに、彼自身も青山家に恩があると仰っていました。その恩を返す為に薄給でこき使われていてもおかしくはありません」
「そう言えば確かに『森田』とか呼ばれてた気がするな。エルシィ、覚えてるか?」
「え? えっと……確か……『森なんとか』って呼ばれてた気がします!」
「それほぼ森田だな」
「いやいや、もしかすると『森谷さん』とか『森山さん』だったかもしれませんよ!」
かのん、エルシィの演技上手いなぁ。『森なんとか』しか覚えてないのは本当かもしれんが。
さて、あと何か訊いておくべき事があるだろうか? いや、あるにはあるんだが……
「……とりあえずこんなもんでいいか」
「宜しいのですか? もっと色々と質問しても大丈夫ですよ?」
「今は良い。先入観とか無しであいつを見てこよう。
あいつの家までの地図を書いてくれるか?」
「……承知しました。くれぐれも悪用なさらないで下さいね?」
「愚問だな」
その後、教室に居たちひろがやってきたのでお開きになった。
3人だけでも練習はするとの事なのでかのんは軽音部に置いていき、僕は1人で美生の家へと向かう事になった。
ゲームだとこういう時は行き先を選択するだけでワープしたりするものだが、
そんな事を思いながら歩く事数分。大きな屋敷が見えてきた。
そこが美生の屋敷……なんて事は勿論無く、屋敷の立派な門をスルーして角を曲がる。
すると見えてきたのはちょっとした台風や地震で倒壊するんじゃないかと不安になるくらいのボロアパートだ。
こここそが現在美生が住んでいる家だ。オンボロだと聞いていたがことまでとはなぁ……
さてと、部屋番号までは聞いてないが表札を見れば分かるだろう。片っ端から調べて……
……と思ったら一つ目の部屋で『青山』という表札をあっさりと見つけた。あまりにあっさり過ぎるので同性の別人を一瞬疑ったが、部屋の中から聞こえてきた声でそんな疑問は簡単に払拭された。
『お嬢様! もう私はついていけません!
どうか金持ちのフリなんてお止め下さい!』
聞き覚えのある男の声だ美生の隣に居た森田(仮)の声だな。内容からしても間違い無いだろう。
お嬢様に盲目的に従うイエスマンというわけではなかったんだな。
『私は! 青山中央産業社長の娘よ! この生き方は変えられないわ!!』
こちらは美生の声。しっかしこのアパート壁うっすいな。ドアからそこそこ距離があるのにしっかりと聞こえてくるぞ。
『パパはいつも言っていたわ。青山家の誇りを忘れちゃいけないって!』
『そのお父様がお亡くなりになってもう1年も経っているんですよ!? 青山中央産業も他人の手に渡りました!
お母様が頑張って働いて何とか暮らせている現状なのですよ!?』
ふむ、心のスキマの原因は『金への執着』とか普通に有り得ると思っていたが、『父親の死』も普通に有り得るな。
序盤は選択肢は多くて構わない。じっくりと取りかかろう。
『と言うか、どうするんですかこの大量のオムそばパン!
とてもじゃないけど食べきれませんよ!?』
『仕方ないじゃないの。1万円しか持ってなかったんだから』
『いい加減に小銭の存在を認めてください! せめてお釣りくらい受け取ってください!!
あの1万円は4ヶ月分のお小遣いでしょう! 2~3日はこのパンも腐らずに保つでしょうけど、その後はどうするおつもりなんですか!!』
『フン、パンが無ければスイーツを食べれば良いじゃない』
どこかで聞いたようなセリフだな。
贅沢しすぎたせいで民衆に革命を起こされてギロチンで斬首されたような人のセリフを引用してくるのは金持ちとしてどうなんだ? あのセリフは実際には某王妃のものではないらしいし、個人の問題ではなく社会制度の問題ではあったが……無知で傲慢な金持ちを象徴するセリフとして知られているのは確かだ。むしろ教訓にすべきセリフだと思うんだが。
『も、もう限界だ! しばらくお暇を頂きます!!』
『なっ!? あ、あなた運転手でしょう!? 勝手に居なくなるなんて許さないわよ!』
『私は有里様の運転手であってあなたの運転手ではない!!」
「こ、こら森田! 待ちなさ……」
ようやく森田(仮)から(仮)が取れた所で、勢いよく飛び出してきた美生と目が合った。
原作1巻で出てくる大きな屋敷ですが、アレは何なんでしょうね?
美生が現在住んでいるアパートの隣にある事以外は詳細な設定は全く無いと思われます。
あんなバカでかい屋敷を建てられるような富豪がそうそう居るとも思えないし、五位堂家や白鳥家は和風の邸宅を所有しているようなので、本作においては『元・青山家の屋敷(現在は売り払われて人の手に渡っている)』としておきます。先に挙げた2家の別荘説、他の金持ちのもの説も十分有り得ますけどね。
ただ、アレが元・美生の家だと考えると家賃最低のボロアパートが建ってるような地価が安い土地の隣に邸宅を建てた事になりますね。アパートの家賃は地価よりも築年数の影響を強く受けるでしょうし、後から地価が高くなった可能性もありますが……邸宅を建てた当時から金欠気味で、他の有力者との付き合いの為に割と無理して建ててた可能性も……?
流石に邪推し過ぎですかね。
1万円が4ヶ月分のお小遣いとの事ですが、単純計算で1ヶ月に2500円。小銭の存在どころか千円札の存在も多分認めてない美生さんがどうやってお小遣いを受け取っていたのかは謎。
まぁ、4ヶ月に1回だけ1万円を渡していただけなら謎でもなんでもないですけどね。
書き終えた後に思ったけど、攻略に関わる事で桂馬が単独で動くのは本作では何気に初めてかも。大抵はエルシィかかのんが居るので。
強いて挙げるなら結と入れ替わってた時くらい?