もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 幽霊部長と幽霊会計

 昨日は夏休み最終日だったので全力でゲームをやっていた。

 え? 理想を求めて戦争とかしてなかったのかって? フン、そんな愚かしい真似をするわけが無いだろう。

 よっきゅんこそが理想にして極致。以上、Q.E.D.(証明終了)だ。

 

 今日の学校は始業式のみで午前中に終了したため、前日に消化しきれなかった積みゲーの続きをやっている。

 本当なら学校もサボってしまいたいんだが、それやると母さんが殴り込んで来るからなぁ……

 ま、仕方ない。与えられている時間を可能な限り有効活用せねば。

 

コンコン

 

「ん? 母さんか? 夕食の時間にはまだ早いようだが……」

 

 となると、エルシィか? 一体何の用だ?

 エルシィなら羽衣さんの力で鍵の複製くらい余裕でできるので、勝手に入られないうちにキリの良い所でゲームを中断して扉を開ける。

 

「何か用か? 手短に話せ」

「はいっ! ハンコ貸してください!」

「断る!」

 

バタン

 

『えっ、ちょっ、神様ぁ!?』

 

 ……いかんいかん。『判子→契約』と連想してしまったため少々過剰反応してしまったようだ。

 そもそも地獄の契約に判子はもちろんサインすら不要だったので別の事に使うんだろう。

 

ガチャッ

 

「あ、神様!」

「一体何に使う気だ。それが分からないとおいそれと貸す事はできないしそもそも貸す気も無い。

 必要なら自分で押す」

「分かりました! それなら見た方が早いと思うので下に降りてきてください!」

 

 全く何なんだ一体。

 仕方ないのでドタドタと去って行ったエルシィの後に続いて階段を降り、リビングの扉を開ける。

 

「おっす桂木。お邪魔させてもらってるよ」

 

 そして、映像を逆再生するかの如くそっと扉を閉める。

 

『ちょっ!? その反応は無いんじゃないの桂木ぃ!!』

 

 うぅむ、白昼夢なんてものはここ最近は見ていなかったはずなんだがなぁ。

 しかも軽音部メンバー5人が勢ぞろいしているなんて珍しい夢を見るとは……

 

『桂木ぃ! 何か変な事考えてるんじゃないでしょうね!!』

『お、落ち着いてくださいちひろさん。彼は少々驚いているだけでしょう』

『ええい放せ結っ! って言うかあいつムチャクチャ冷静な表情だったよ!!』

 

 ……恐らく夢ではないんだろうな。きっと。

 仕方ない。話を聞いてやるか。

 

ガチャリ

 

「あ、出てきた」

「……おいお前ら、一体何の用だ? また贈り物とかだったらはっ倒すぞ」

「どういう事それ! 私が選んだ靴が不満だったとでも言うの!?」

「いや、アレはかなり重宝させてもらっている。だが、贈り物なんて頻繁にするもんじゃないだろう。

 『物さえ送っておけば言いなりになる』などと侮られてるような気分になるからな」

「むぐっ、確かにそうかも……ゴメン桂木」

「それに、しょーもない贈り物だったら時間の無駄だ。ゲームしてる方が遥かに有意義だ」

「結局ゲームなの!? 台無しだよ!!」

 

 話が脱線しているが、どうやら贈り物ではないようだ。

 では一体何の用なのか。誰に訊くべきか。

 

「……おい、寺田。用件を簡潔に話してくれ」

「えっ、私? いや、良いけど……」

 

 一番分かりやすく話してくれそうなやつを指名しておく。

 結と迷ったが……ちひろを抑えているようなので除外した。

 

「話すって言うか……現物見せた方が早いね。これ」

 

 京がテーブルの上にある一枚のプリントを指し示した。

 何々? 『部活動予算申請書』?

 

「で、ここ」

 

 指し示されたのは右上の方にある2つの四角い枠。

 それぞれ『部長』『会計』と記されている。

 

「……ああ、そう言えば僕は書類上は部長なのか。

 面倒だな。これって誰かに移せないのか?」

「その下りはもう部室でやったよ。

 今年度中は部長が入院したり退学するレベルの緊急事態以外はムリ」

「……まぁ、判子押すだけならいいか。

 少し待っていろ」

 

 僕の印鑑等は自分の部屋に隠してある。

 前に母さんが『離婚してやるー!』って暴走してた時に家にある全ての印鑑を隠した時の名残りだな。

 

 

 印鑑を回収して、指定された枠に押して、ティッシュを押しつけて拭き取る。

 妙なかすれや欠けも無し。大丈夫だな。

 

「これで僕の仕事は終了だな。じゃあな」

「あ、待って待って! まだ一つ残ってる!」

「ん?」

「この部活の『会計』って誰?」

「誰ってそりゃあ……」

 

 言われて考える。

 そして思い出す。

 部活作成の申請書を書く時にちひろ達に名前を隠しやすいように一番下にあいつの名前を書いた事を。

 上から部長、副部長、会計だったので、書類上の会計役はあいつだ。

 ……そう、中川かのんだ。

 

「っっ!!」

「か、桂木? 大丈夫? 何か百面相してるけど」

 

 ……どう説明すべきだろうか?


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