もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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04 記憶操作

「あ、もう一つ質問なんだけどさ」

協力者(バディー)に関する事以外で頼むわよ?」

「そこは大丈夫。

 私が知りたいのはノーラさんの事について」

「ノーラ? あんなのの事なんて知ってどうするの?」

「どうって、一応私たちの上司になったんでしょ? どんな人か知っておきたいと思って」

「まあ確かに上司と言えば上司になるけど……家でも言ったようにほぼ権力なんて無いわよ?

 ……あ、いや、あいつの場合はあるか」

 

 権力が無い事は把握してるって言おうとしたけど、私が発言する前に付け足された。

 

「どういう意味?」

「『駆け魂隊の地区長』っていう権力は殆ど飾りみたいな物だけど、あいつの場合は別の権力を持ってるの。

 より正確には、あいつの家がね」

「家? 実は名家のお嬢様とかだったり?」

「権力を持ってる家の娘って意味ではその表現も間違いでは無いわね。

 ノーラの頭の角、気付いてた?」

「角? そう言えば確かに何か妙な角があったね」

 

 髪留めになっている駆け魂センサーの反対側に少し捻じ曲がった角が生えていた。

 左右に1本ずつあった方がバランスが良さそうな気がするけど……片角なのは何か理由があるんだろうか?

 

「そう、角。アレは古くからの地獄の名家の証なのよ。

 角付きの悪魔は角の無い悪魔を見下す事が多いわね。個人差はあるけど」

「ノーラさんは……訊くまでもなくかなり見下してるね」

「そうね。ただ、あれよりも酷い連中も存在するからマシな方とも言えるわ。

 本当に過激な連中は『角の無い悪魔は悪魔じゃない』なんて平気で言い張るから」

 

 ちょっとニュアンスが伝わりにくいけど、『肌が白くない人なんて人じゃない』みたいな感じだろうか?

 なるほど、それは確かに過激だ。現代の地球でそんな事を言ってたら大問題だよ。

 そういうのに比べたら見下してはいてもきちんと会話してくれるノーラさんはマシな方って事か。

 

「こんな所かしらね。

 ノーラの機嫌を損ねたらクビ……なんて事は流石に無いけど、上に提出される評価は悪くなるかもしれないわ。

 本気で怒らせたら分からないけど」

「辞職って意味でクビになるなら桂馬くんが嬉々として怒らせそうだね……辞職って意味なら」

「勿論、契約達成できなくなるから物理的に首が飛ぶわね」

「うわ~……」

 

 本気で怒らせるなんて事はそうそう無いと信じたい。

 桂馬くん、妙な事してないと良いけど……

 

 

 

 

 

 

「結局の所、お前は地区長になった事を自慢しに来ただけなのか?」

「自慢って……間違っちゃいないけど」

「そうか……んじゃあ、地区長が必要な案件が見つかったら遠慮なく頼らせてもらうとしようか。そうそう無いだろうけどな」

 

 その『案件』は当然の事ながら女神の件が当てはまるんで僕の言った事は完全な嘘だが、そういう態度を取っておこう。

 テキトーに持ち上げとけば満足して帰るだろう。

 

「へぇ、殊勝な態度ね。まあ私の手柄の為にせいぜい頑張りなさい」

「ああ」

「……しっかしあんた達、本気で愛し合ってたのね。あの時は出まかせだと思ってたわ」

「ん? 何の話だ?」

「何って、あんたとそこの娘よ」

 

 かのんとハクアは家の外に行ったのでこの場に残っているのは4人しか居ない。

 僕とノーラ、エルシィ、そして……天理。

 僕と天理が愛し合っている? どういう意味だ?

 

「駆け魂を出した後、ちゃんと記憶操作を受けてるハズなのにあんたの家に居るって事は、私が見つける前からその関係だったって事でしょ?」

「っ!?」

 

 ちょっと待て、今こいつは何と言った!?

 いや待て、考えるのは後だ。今はこいつを追い出す事が先決。

 努めて冷静に、表情に動揺を見せないように。

 そんな僕の演技が通じたのかノーラは特に気にする風も無く話を続けた。

 

「愛がスキマを埋めるだなんて実際に見ても正直信じらんないけど、あんたらみたいな妙な人間も居るのねぇ」

「……スキマが逆に広がるような恋愛がある事は否定しないが、そんなのと一緒にされてもな」

「人間って面倒ね。もっと何も考えずに生きてて欲しいものだわ」

「全くだな」

 

 これまで10名の女子を攻略してきたが、あいつらももっと呑気に生きていたら駆け魂に付け入られる事は無かっただろう。

 まぁ、それが出来ないってのが人間らしいって事なんだろうけどな。

 

「いや、あんたも人間だからね? そこ理解してる?」

「……そうだな」

 

 僕にだって欲はある。だが、それ以上に僕は満足できる生活を送っている。

 僕に心のスキマができる事はきっと無いだろう。まぁ、そもそも駆け魂は女子にしか取り憑かないからスキマができてもあまり意味は無いが。

 

「ホントに理解してんのかしらねぇ……

 まあいいわ。他の連中にも顔見せしとかないといけないから今日は帰らせてもらうわ」

「ああ。じゃあな」

 

 前回の初遭遇時と違い特にトラブルも無くノーラは去って行った。

 ちゃんと話せば分かる奴ではあるんだな。駆け魂狩りが最優先なだけで。

 

 そんな風にホッと一息吐いていると、ディアナが話しかけてきた。

 

「桂木さん、少々宜しいでしょうか?」

「ああ。丁度僕もお前に訊きたい事があったんだ」

 

 ノーラがこぼしていた『記憶操作を受けてるハズ』という発言。

 一体どういう事なんだろうか?







 角付き悪魔にそこまで過激な発言をする人は表舞台にはそうそう居ないでしょうけど、内心で思ってるだけなら結構居そうな気がします。

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