もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 優等生と女神様

 玄関を開けた途端、凄い音が奥の方から響いてきた。

 泥棒……ではないね。こんな真っ昼間に凄い物音を立てるお茶目な泥棒は存在しないだろう。

 桂馬くんが何かやらかすとも思えないし、麻里さんは出かけていたはずだ。誰か他にお客さんが来てるのかな?

 

「何事でしょうか?」

「とにかく行ってみよう」

 

 危険人物が侵入してる可能性も0ではないので慎重に……行こうとしたら廊下に桂馬くんが飛び出してきた。

 

「ま、待て! まずは落ち着いて……」

「問答無用! このクズ! アホ! バカ!!」

 

 桂馬くんと、そして何故かハクアさんが飛び出してきた。

 いつの間に家に居たんだろう? エルシィさんが招き入れたんだろうか?

 って、それよりも何か事件っぽい。ハクアさんが鬼気迫る表情で桂馬くんを追い回しているようだ。その両手には大きな鎌が握られているが……流石にある程度自制しているようで刃を立ててはいない。

 

「……西原さん、あの方は実は従妹とか、あるいは姉とか、そういう類の方では無いですよね?」

「う、うん。少なくとも親戚の類ではないよ」

「では遠慮なく。この浮気者が!!」

「えっ? ちょっ!?」

 

 ディアナさん的にはこれすらもアウトなのだろうか? 桂馬くんが好き好んでハクアさんと一緒に居るようには決して見えないんだけどなぁ……

 

「桂木さん! 何をしているのですか!!

 家族や親戚なら許容しますが、それ以外の女性との接触は禁止です!!」

「なっ、ディアナか!? イタタタタ! 耳を引っ張るな!!」

「えっ、え? だ、誰なのお前?」

「わ、私は……この人の許嫁です!!」

「「はぁ!?」」

 

 ディアナさん、嘘は良くないよ。

 色々と言いたい事はあるけど、収拾をつけないとダメっぽい。一旦黙らせた方が良さそうだ。

 えっと、確かこの辺に……あったあった。これって悪魔や女神に効くのかな。まあ死にはしないだろう。非殺傷用の筈だし。

 えいっ!

 

ズバヂィィッ!!

 

「熱っ!?」「痛っ!?」

 

 人間用のスタンガンじゃあ気絶はしないようだ。好都合だ。

 バチバチと音を立てながら、私は語りかけた。

 

「2人とも、ちょっと静かにね?」

 

 放電が効いたのか、異様な雰囲気の笑顔が効いたのか、2人はひとまず落ち着いてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 ひとまず全員リビングに通してソファに座ってもらう。桂馬くんも一緒だ。流石にこの空気で桂馬くんを送り出したら他2名が黙ってないだろうからね。

 お茶は……用意しておこう。手早く済ませたいけど、簡単に終わりそうにないから。

 

「どこから始めるべきかなぁ……

 まずハクアさん、うちに用事でもあったの?」

「用事って言うほどの事でもないけど……エルシィに呼ばれたのよ。『一緒にあそびましょ~』って」

「……そんな事で担当地区を抜け出して大丈夫なの?」

「幸い、出てきそうな駆け魂は居なかったから問題ないわ」

「そういう事なら大丈夫なのかな……? また駆け魂が逃げ出したとか勘弁してよ?」

「うぐっ、あ、あんなミスはそうそう無いわ! 大丈夫よ!!」

 

 本人がそう言うなら信じるしかないか。ハクアさんとその協力者の攻略方針は私たちが口出しすべき事じゃないし。

 桂馬くんに対して発狂してた理由も気になるけど……今は落ち着いてるみたいだから放っておこう。藪蛇になりかねない。

 

「私の事はこんなもんで良いでしょ?

 それより、コイツは一体何なの?」

 

 ハクアさんが痺れを切らしたようだ。今度はディアナさんについてこちらに質問してきた。

 そのディアナさんは逆に静かに話を聞いているようだ。さっきまでの会話で『ハクアさんが新悪魔である』くらいは把握してるかな?

 さて、どこまで話すべきだろうか……?

 そんな私の悩みを察したのか今まで黙っていた桂馬くんが口を開いた。

 

「……ハクアまでなら全て公開してもギリギリセーフだろう。それより上はブラックボックスだ。反応の想像が付かん」

「そうかな? 室長とかはギリギリ信用できる気がしないでもないけど?」

「最悪の結果にはならない気はするが、やはり影響が想像できん。止めといた方が無難だろう」

「それもそうか。じゃあその辺で」

「アンタたち……自分たちだけが分かる会話は止めなさい」

「おっと失礼。

 じゃあ話す前に約束。ここでの話は絶対に外に漏らさない事。ドクロウ室長にも。

 約束できる?」

「え、何? 地獄絡みなの? 私、地区長だからそういう事は報告義務があるんだけど……」

「でもハクアさん、ここの地区の担当じゃないよね」

「そりゃそうだけど……」

 

 流石に『担当地区外だから』だけじゃ厳しいか。エルシィさんの上司がドクロウ室長なんだからこの辺一帯は多分ドクロウ室長が管理してて、どの地区だろうと報告先は変わらないし。

 だったら、今の屁理屈以上に詭弁だけど……

 

「これから話す事は地獄関係じゃない。それならどう?」

「う~ん……話を聞いてから判断するっていうのは……?」

「勿論ダメ」

「はぁ、分かった。分かったわ。他言無用ね。約束するわ」

「OK。じゃあ……私から話そうか?」

 

 目を瞑って考え事をしているディアナさんに問いかけてみる。

 

「……そうですね。お願いします」

「うん。おかしな所があったら訂正してね」

 

 共有している情報の再確認も兼ねて、ディアナさん……女神の説明を始めた。







 登場時にハクアが発狂してた理由は原作通りに『トイレで用足ししている時に桂馬が入って来た』ですが、そこに深く突っ込むと話が脱線していきそうだったので誤魔化させてもらいました。
 もしそこも真面目に書くのであれば『無警戒に乱入してきた桂馬くんも悪いけど、鍵すらかけてなかったハクアさんも十分悪いよ』みたいな話になって更に脱線して……
 ……うん。カットでいいですね。

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