「こいつ?」
「違う」
「じゃあこいつは?」
「それも違う」
「じゃあこいつ……」
「明らかに違うよね!? って言うか金髪ロングの男子高校生なんて実在したの!?」
「そこはウチらも疑問に思ってた。カツラ説がワンチャンあるかと」
仮にカツラだったとしてもそのチョイスは業が深すぎるでしょう。
念のため目の前の写真の人物を黒の短髪にしてみたが、私の記憶とは全く一致しなかった。
「それっぽい人は大体見終わっちゃったぞ? ホントに居たのかそんな男」
「……そう言われると少し自信が無くなってきた」
「おいおい、これまでもウチらの頑張りはどうしてくれるんだ!!」
暇つぶしになったならそれで十分だと思う。私もそういうつもりで言ってみただけだし。
「何かこう、もっと特徴無いのか? 髪とメガネ以外に」
「そう言われても……」
水泳一筋で3年間過ごしてきたこの私に表現力を求められても困る。
「イケメンだったんだよね?」
「多分……ね」
「どんな感じだった? 熱血系? インテリ系? それとも俺様っぽい感じ?」
「顔だけでそんな分かるもんじゃないと思うんだけど?」
「みなみぃ、フインキだよフインキ!」
「……暑苦しい感じではなかったと思う。かなり線が細くて、何て言うか……妖しい感じの雰囲気だったかな」
そう言えば、あの速さで泳いでいた割には体は細かったな。もしや幽霊か何かだったのでは……
いやいや、あのプールでそんな怪しい存在に居座られたら困る。
「アヤシイ? どうなのそれ」
「ん~、よし、先輩に訊いてみよう」
「わざわざそこまでするの!?」
「ここまで来て引き下がれるか! ええい、送信っ!!」
送信したメールは1分くらいで返信が来た。先輩もヒマなんだろうか?
「どれどれ~? 黒髪短髪でメガネで、細くて……一応条件は合ってるか」
「いやいや、コレは無いっしょ、流石に!」
「ど、どうしたの2人とも……」
「まぁ、本人に見せりゃあハッキリするか。
みなみ、コイツか?」
そう言いながら斎藤が見せてきた写真に写っていたのは金髪の……
「って、これってさっきのカツラ疑惑の人じゃん!!」
「アハハ、お約束って奴だ。
ほら、ホントはこっち」
「……あ、この人だ」
「えっ、マジで?」
良かった。どうやら幽霊ではなかったらしい。ただちょっと怪しいだけの人間だったみたいだ。
私としては一安心なんだけど……どうも2人の様子がおかしい。
「2人とも、どうしたの? この人に何か問題でも……」
「問題と言うか問題外というか……」
「このヒト、高等部じゃ悪い意味で有名人なんだよ!」
「わ、悪い意味で有名……? それは、誰かからお金を巻き上げたりとかそういう……?」
「みなみ……お前の中の『悪い人』像は一体どうなってるんだ?
そういう方向での悪さじゃなくて……ほらあっこ、例えば何だっけ?」
「一番聞くのは授業中もゲームばっかりやっててロクに聞いてないってやつだね。
噂だけど」
「そうそう。他にもダブってて妹と同じクラスなんだって。
噂だけど」
「屋上に住んでてUFOを呼んでるって話もあるよ。
噂だけど」
「自分から神様を名乗って宗教を開いてるらしいよ。
噂だけど」
「それ以外にも……」
噂多いな!!
こいつらの噂の正確性なんて1割にも満たないけど、それにしたって多すぎる。
一体全体何をやらかしたんだろうか、この……えっと……あったあった。桂木先輩は。
少なくとも悪い人には見えなかったんだけどなぁ……
「しっかし、こんな最悪キモ男が相手でも、みなみが好きだと言うのであれば仕方ありませんなぁ」
「……はい?」
「応援するしかありませんなぁ。のぅ、斎藤殿」
「ちょ、ちょっと待って!? いつからそんな話になってるの!?」
「だって、
まさかコイツら、この展開を見越してあんな質問を……?
くっ、ハメられた!!
……だけど、ここまで噂されているようなヒトがどんな人物なのかは気になる。
どうせ暇してるんだし、ちょっと探ってみるくらいは面白いかもしれない。
「あっこよ、まずは何から始めるか」
「斎藤よ、まずは無難に電話番号をゲットする所からどうだろうか?」
「ああ、こいつって携帯持ってないらしいよ。噂だけど」
「えっ、マジで?」
……こいつらにはバレないように!!
みなみのモノローグは『○○であります』といった語尾が多いですが、あっこや斎藤と話してる時は全く見られなかったりします。
偶然出てきてなかっただけかもしれませんが、この2人に対しては無遠慮に接しているという事でしょうね。
みなみの心情を追うのが結構キツいです。
閉館時刻後に1人で泳いでた(スポーツ選手にしては)異様に線の細い妖しい雰囲気の男なんて怪しいだけだと思うんですよね。
女子だったら理解できるのか、それとも桂馬の見せ方が非常に上手かったのか……