もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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05 主役と脇役

 収録は一旦中断になったようだ。

 せめて僕が感じた台本の違和感くらいは修正しないとマズいらしい。

 

「あんた……とんでもない事してくれたわね」

「ん? ああ、すまなかったな」

「いや、文句言ってるわけじゃないのよ。むしろ気付いてくれて感謝したいくらいよ。

 単純に駄作な台本ならまだしも、明らかに手抜き作業な台本に付き合わされるなんて私の沽券に関わるからね」

 

 気にするのはそこなのか。プロ意識みたいなものだろうか?

 偉そうに振る舞うだけの噛ませ犬キャラかと思ったが、その辺はしっかりとしているらしいな。

 

「あ、そうそう。お前のファンにならないかという誘いだが、やっぱり断らせてもらおう」

「うぐっ、やっぱりそうよね……主役じゃなかったし、台本の違和感にも気付かなかったし……」

「いや、そこは決してお前の責任ではないだろう。

 と言うか、演技自体は良かったと思うぞ」

「へっ?」

「普段はあれだけ高飛車だったのに、撮影中は微妙な小物っぽさとか、姉への尊敬っぷりとか、凄く良く表現できていたじゃないか。

 無理に目立とうとして主役を食ってしまったり、プライドを捨てきれずに小物風の演技が鈍るような奴よりよっぽど良い」

 

 ギャルゲーでは声優が声当てをするわけだが、たまにそういう残念な声になってしまうものも存在する。

 それに比べればかなり良かった。

 

「そ、それじゃあ……中川かのんと比べてどうだった?」

「中川と? 演じる役割が違うから単純比較はできないが……

 ……お前の方が違和感は無かった気がする」

「ほ、ホント!? お世辞じゃないでしょうね?」

「本当だが……おそらく、探偵が真犯人っぽい気がしてたにも関わらず普通の探偵として演じていたせいだろう。

 やはり甲乙付けがたいな」

「うぅぅ……ある意味台本に救われたのかしら?

 あ、でもそれだったら何でファンになってくれないのよ!!」

「フッ、そんなの簡単だ」

 

 黒田棗にPFPを突きつけながら宣言する。

 

「僕は2D女子にしか興味が無いからだ!!」

 

 その言葉に衝撃を受けたのか、黒田はキョトンとした顔をした。

 そしてしばらくして、急に笑い出した。

 

「ふっ、ふふふっ、あははははっ!!

 なるほど、そりゃあの中川かのんのファンにもならないわけだ。

 でも、ますます落とし甲斐があるわ。

 いつか絶対に私のファンになってもらうんだから!!」

「ゲームプレイに支障が無い範囲でなら付き合ってやろう。

 今日はもう収録どころじゃなさそうだから帰らせてもらうぞ」

「ええ。また明日会いましょう!」

「いや、明日の朝にはもうここを発つから無理だ」

「えええっ!? それじゃあ……またいつか会いましょう!」

「そうだな。機会があれば」

 

 そんな会話をして、僕達は収録現場を後にした。

 黒田棗……か。あいつが声当てするゲームがあったら注目しておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙な事ってのは続くもので……これ昨日も言ったな。

 また墓地の所で不思議少女とエンカウントした。

 

「……あそんでくれなきゃ……くび切るぞ。

 あそんでくれなきゃ……うで切るぞ。

 あそんでくれなきゃ……たたりがあるぞ」

「ひぃぃぃいい!!!」

「おい落ち着けエルシィ。昨日も会っただろ」

 

 念のためもう一度確認するが、幽霊……ではないな。

 何でまた墓地に居たのかは不明だが、単純に気に入ってるんだろう。

 

 そんな風にのんびりと考えていたのが失敗だったらしい。

 

パシッ!

 

「なっ!?」

「……愛梨とあそんでくれなきゃ、これ割る」

 

 その手には、僕から奪い取ったPFPがあった……

 

「っておいコラ!! 待て!!!」

 

 駆け出した愛梨を追う。

 しばらく追いかけると、大きめの石に向かってPFPを振り下ろそうとしていた。

 

「ま、ままま待て!! 遊ぶから!!!」

 

 ホント妙なのに目を付けられたらしい。

 さっきの所で台本の修正でもしてた方が有意義だったな……

 

 

 

「で、何して遊ぶんだ?」

「ままごと! キャハハハハ!」

 

 ふむ、雰囲気は不気味だが内容自体はまともだな。

 愛梨は近くに置いてあった箱から人形を取り出して僕に渡してきた。

 ……凄くボロボロで所々ワタがはみ出ており、目のボタンは取れかけ、待ち針や安全ピンが大量に刺さっている人形を……

 愛梨の方は釘が大量に刺さった藁人形を持っている。着けているエプロンがシュール……と言いたい所だが、真ん中に穴が開いていてその近くは赤黒い何かで着色されている。

 まともじゃ……無かった……

 

「愛梨がおヨメさんやるから、旦那様やって」

「…………」

「おかえりなさいあなた」

「……ああ、ただいま」

「ご飯にする? お風呂にする?」

「……どっちでもいいよ」

「まあ冷たい! さてはあなた、また後家のイタコと浮気してたのね!!」

(……どういう設定だ?)

「悔しい!!」

 

 ブチリと、旦那様役の人形の首がもがれた。

 

「罰よ! 罰よ!!」

 

 残された胴体はその辺の石ころで滅多打ちにされている。

 

「お、おい……本人も反省してると思うんでその辺で……」

「キャハハハハハハ!!!」

 

 将来が不安になる光景だ。親はちゃんと教育してるんだろうか?

 

「あなた? これから何をしましょうか」

「離婚調停だな」

 

 この夫婦にどんな設定が隠されているのかは不明だが一緒に居ない方が良い事だけは確かだろうな。

 ……離婚するまでにまた一波乱……いや、一つじゃ済まない波乱がありそうだが。

 

「楽しいねー」

「そうか?」

「…………」

「わ、分かったから石をPFPに振り上げるのを止めろ!!」

 

 僕が必死に止めようとするが、その前に愛梨を止めた人物が居た。

 

「愛梨ちゃん、止めなさい! お兄ちゃん嫌がってるよ」

「……ばあちゃん」

 

 昨日も見た愛梨のお婆さんだ。


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