もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 お婆様の為に

「神様~、ちゃんと手を合わせるんですよ~」

「……悪魔が手を合わせてて良いのか?」

 

 今回ここに来た目的でもある墓参り。

 特に先延ばしにする意味も無いのでサッサと済ませる。

 人間が死んだら幽霊になるとかいう迷信は全く信じちゃいないが、黙祷を捧げておこう。

 ……いや、幽霊は居なくても地獄や天界はあるんだよな。人は死んだらそこに行くのだろうか?

 後でエルシィに……いや、ハクアかディアナにでも訊いてみよう。

 

「……? あれ?」

「どうかしたのか?」

「いえ、さっき何か声が聞こえたような……」

「エルちゃんったら、お化けの声でも聞いた?」

「えっ!? ちょ、止めてくださいよ~!」

 

 お化けなんてそんな漠然としたものが居るわけ無いだろうに。

 って言うか悪魔がそんなのに怯えるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 家でゲームしてると爺ちゃんや近所の人が鬱陶しいのでのんびりと田舎道を散歩しながらゲームする。

 何故かエルシィが付いてきて色々言ってる。人間界の田舎町ってのはエルシィにとっては珍しいのかもな。

 

「あ、チョウですよ神様!」

「そりゃ田舎だからな。虫くらい居るだろ」

「人間界のチョウは大人しいですね。地獄のチョウは近くの動植物を食べ尽くしちゃうんで最優先の駆除対象でしたよ~」

「……それ、本当にチョウなのか?」

 

 地獄の生態系は謎に包まれてるな……

 

「しかしホントのどかですね~。静かで空気が綺麗で静かです~」

「……昔はもっと人が居たんだがな。

 静かではあるけど、やっぱり人が居てこその田舎だ。人が居なければ風習は廃れる。

 訛りのキツい駐在さんとかアヤしげな神官と巫女やら

 ふらりとやってきた流れ者をきっかけに本家と分家争いにまつわる連続殺人事件のラストで燃え落ちる屋敷の後片付けとか

 誰がやるんだよ」

「……それ、風習ですか?」

 

 所詮は現実(リアル)だからな。

 ゲームならこんな田舎村でイベントが起こらないわけが無いんだが。

 

「……あれ? あの辺、人が沢山居ますよ?」

「ん? 何だ……?」

 

 エルシィが指し示す方を見てみると確かに人が沢山居るようだ。

 この田舎に似合わないマイクロバスが駐まっており、すぐ側の民家に人が出入りしている。

 

「神様、行ってみましょうよ!」

「あ、おいっ! たく……」

 

 何でわざわざ首を突っ込みに行くのやら。

 だが確かに気にはなるな。散歩しながらゲームするか野次馬しながらゲームするかは大して変わらんか。

 

 

 

 

 

 

 

 近寄ってみると分かった。どうやらドラマか何かの収録をしているらしい。

 カメラマンらしき人が出てきたり、セリフの一部が聞こえてくる。

 

『本家と分家争いにまつわる連続殺人事件……

 この事件の真相は必ず私が解き明かします! お婆様の名にかけて!!』

 

「か、神様!! 本当に連続殺人事件をやってますよ!!

 この後はここらで一番大きいお屋敷が焼け落ちるんでしょうか!?」

「お、おい、それよりこの声……」

 

 何か、非常に聞き覚えのある声だった気がするんだが?

 そう、大きなリボンがトレードマークの某アイドルみたいな……

 

『カット! 良い出来だね。次の場所に移動するよ!』

『はい! 分かりました!!』

 

 この場所での収録が終わったらしい主演が建物から出てきて、そして僕達と目が合った。

 

「……えっ!? あれ、桂馬くん!? どうしてここに!?」

「それはこっちのセリフだ!!」

 

 僕達の帰省と同時にどこかへと遠征に行っていたはずのかのんがそこに居た。

 そう言えば、その遠征先は聞いてなかったな。

 どんな偶然だよ!!







 いつからかのんちゃんが登場しないと錯覚していた……?

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