もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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03 新米魔術師の苦労

 前回までのあらすじ。

 魔法が使えるようになりました!

 

 ……こんな解決策を提示されるなんて夢にも思ってなかったよ。

 

「ところでこれ、どうやって使うの?」

「えっと……身につけて適当に念じれば何とかなります!!」

「アバウト過ぎるだろ!!」

「と、とにかく、習うより慣れろですよ!」

 

 大丈夫なのかなぁ……?

 手紙には使いすぎるとちょっと危ないって書いてあったような気がするんだけど?

 使える魔法は錯覚、響音、拘束、飛行の4つだよね。

 それじゃあまずは……効果が分かりやすそうな拘束魔法から行ってみようか。

 

「えっと……えいっ!!」

 

 エルシィさんに言われたように適当に念じるとペンダントから何かが飛び出し、桂馬くんを拘束した。

 

「ってオイ! 何で僕にやるんだ!!」

「ああっ、ごめん!」

 

 急いで解除を……あれ?

 

「……ねぇ、これってどう解除するの?」

「き、気合で……」

「ホントに大丈夫なのこれ!?」

 

 と、とにかく……解けろ! 外れろ! 戻れ!!

 適当に念じたどれが効いたのかは分からないけど、何とか拘束は取れた。

 

「ったく、お前らなぁ……」

「ご、ごめん」

「まあいい。他のはどうなんだ?」

「それじゃあ、飛行魔法を試してみようか」

「空に浮かぶイメージでやれば何とかなります!」

「また適当な……それじゃあ……」

「待った!!」

 

 ここで桂馬くんが待ったをかける。

 

「エルシィ、念のため、本当に念のため訊いておくんだが、

 ……制御に失敗して天井に叩きつけられるとかいうオチにならないだろな?」

「そ、そそそそんな事はありませんデスよ?」

「……中川。そこのテーブルを握っておけ」

「なるほどね。分かった」

 

 重りを持っておけば天井にぶつかる事は無いね。

 テーブルの端をしっかりと握ってから『空を飛べ』と念じる。

 すると……

 

ギュオン ドシャッ

 

「ごふぁっ!!」

 

 腕が強く引っ張られるような感覚がした後に体に強い衝撃が走った。

 

「お、おい!? 大丈夫か!?」

「あ、あれ……? 私……」

 

 気がついたらテーブルの上で横になっていた。

 え? 何がどうなってるの?

 

「おい、エルシィ」

「あ、アハハハハ……」

 

 どうやら腕を支点に回転してテーブルにぶつかったらしい。

 安全対策が仇になった? いや、テーブルを握ってなかったら天井にぶつかった後に床に落とされてただろう。

 1回で済んで助かった……のかな?

 

「無駄機能、って言うかもはや邪魔機能だな」

「き、きっと広い所で練習すれば上手くなりますよ!!」

「その広い所はキミん所の室長に禁止されているんですがねぇ」

「うぅぅ……」

「中川、大丈夫か?

 大丈夫ならまずテーブルから降りろ」

「そ、そうだね」

 

 うぅぅ……まだ少し痛い……

 アイドルらしからぬ声を上げちゃったよ。桂馬くんに変な目で見られてないよね?

 

「あとは響音魔法と錯覚魔法か。錯覚魔法は僕達だけでは確認できないから後で母さんにでも仕掛けてみるか。

 エルシィは結界を張ってくれ。先に響音魔法の確認だ」

「了解です! はい、できました!」

「じゃ、歌ってみてくれ」

「うん」

 

 思いついた曲を適当に歌ってみる。

 効果は……ちゃんとあるかな? 結界の壁で反響してるだけかもしれないけど。

 

「だいじょぶそうです。これくらいなら駆け魂も倒せます!」

「本当に大丈夫なんだろうな……?」

「大丈夫ですって! 何でそう疑うんですか!!」

「自分の胸に訊いてみろ!!」

 

 エルシィさん、私も桂馬くん同意見だよ。

 この5分間くらいで信用がかなり落ちたよ?

 

 

「さて、一番重要な錯覚魔法だが……

 エルシィ、念のため言っておくが、錯覚魔法を使ったままその辺をうろつくなよ?

 特に、店の中とかな」

 

 桂馬くんの家は喫茶店と繋がっており、麻里さんがオーナーをやってるらしい。

 確かにそんな場所を私(の姿をした人)が頻繁にうろついてたら面倒な事になりそうだ。

 

「? どうしてですか?」

「人前で『中川かのん』の姿を晒すんだぞ? どうなると思う」

「……? どうなるんですか?」

「はぁ……中川、説明してやってくれ」

「あ、うん。

 自分で言うのもどうかと思うけど、私は人気アイドルだからこの店と何か関わりがあるって思われるとファンの人がこの店に押しかけてきたりとかしちゃうから」

「? お店に人が沢山来るのは良い事なのでは?」

「うちは趣味でやってる店だから、そこまでして利益を追求する気も無い。

 それに来るのがまともなファンだけならまだ良いが、ストーカーやパパラッチが来ると面倒だ。

 そういうトラブルはお断りだな」

「ストーカーやパパラッチ? そんなのが居るんですか?」

「ああ。アイドルには付き物なんだよ。ゲームでは」

「ゲームの話ですかっ!!」

「げ、ゲームじゃなくても普通に居るからね?」

 

 桂馬くんの知識は正しいんだか間違ってるんだか時々分からなくなる。

 

「……とりあえず、動作確認するか。

 夕食の時にでも仕掛けるぞ。

 お前らは様子を伺いながらお互いに演技してくれ」

「分かった。やってみるよ」

「りょ~かいです!」

 

 

  ……そして夕食……

 

 

「うわ~、美味しいですお母様!」

「んもうエルちゃんったら♪ どんどん食べてね」

「はい!」

 

「うわ~、美味しいですおかあアイタッ!」

「? どうしたのかのんちゃん?」

「な、なんでもない……です」

 

 ど、どうやら錯覚魔法はしっかりと働いてるらしい。

 私が全力でエルシィさんの演技をしてみてるので麻里さんは私をエルシィさんだと完全に誤認しているようだ。

 ……そして、エルシィさんは完全にいつも通りに話そうとしたので隣に座る桂馬くんからエルボーを喰らったようだ。

 

(にーさま、何するんですか!)

(お前はバカか! 少しは自分で考えろ!!)

「? どうしたの二人とも」

「あーいや、気にしないでくれ」

 

 ともかく、これで替え玉作戦は使えることが実証できたけど……

 本当にエルシィさんで大丈夫なんだろうか……?


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