プロローグ
お盆だ。
ギャルゲーでは夏休みと被るので焦点が合う事の少ない地味なイベントである。
内容自体も墓参りとかがメインになるからな。肝試しみたいなイベントが無いわけではないが、別にお盆にやる必要もない。
さて、そんな地味イベント。うちでは父方の実家の墓参りに使われる。
うちの爺ちゃんは元々は舞島市に住んでいたんだが、今は僕達が家を使わせてもらっているので先祖の出身地である奥山県山口村に引っ越したのだ。
この村はド田舎の山奥にあり、うちから車で数時間の距離だ。
で、ようやく辿り着いたわけだが……
「うぷ……よ、酔った……」
「神様ったら、大丈夫ですか?」
落とし神ともあろう者がそう易々とゲーム時間をくれてやるわけにはいかない。
なのでずっとゲームしていたわけだが、見事に酔った。
「お~! 桂馬よー来たよー来た!」
古いけど立派な和風家屋の前ではしゃいでいるのはうちの爺ちゃん、桂木伝馬だ。
陶芸をやっており、その筋の人にとっては結構有名らしい。
今日も僕達が来るまで粘土をいじっていたのか、その両手は汚れていた。
「じーちゃん、こんにち……」
「桂馬ー! じいじい待っとったよ!!」
……汚れてるんだから突然抱きつくのは止めてほしい。
「お義父さんどーも」
「なんじゃい、お前も来とったんか。
暴走族の女に桂木の性は名乗らせんといつも言っとるじゃろうが!」
「自分の家の先祖でもないのに墓参りに来てやってるんだから感謝しなさいよ」
ご覧の通り、爺ちゃんと母さんの折り合いは悪い。元暴走族だからある程度の悪評は仕方ないと言えば仕方ないか。
ただ、それは爺ちゃんだけであって婆ちゃんと母さんは普通に仲が良い。
「あら麻里さん、わざわざどうも。さあ上がって上がって」
「ああ、ありがとうございますお義母さん」
適当な場所に車を置いて、僕達3人は婆ちゃんの家に上がらせてもらった。
……ん? 1人足りなくないかって?
かのんの従妹設定はあくまで外部の人に対してのものだからな。
そもそも、親戚の居る場でそんな設定を話したらかなり面倒な事になる。
それに、かのんが墓参りに来てもやることない上に急な呼び出しに対応できなくなるので本業に差し支える。
だからかのんは1人でお留守番……ではなく、丁度お盆の時期にどっかに何かの収録だかの遠征に行くらしい。ちょうど良かったな。
……え? そっちじゃなくてうちの父さんの事?
父さんは海外出張が多くてお盆の時期すら忙しい。残念ながら今回の墓参りは欠席だ。
爺ちゃんが有名だからか、それとも田舎特有のオープンな雰囲気のせいか、あるいは両方か、近所の人たちもこの家に集まってワイワイ騒いでいる。
「今年は安芸さんも桂一くんも居ないのね~。
桂馬くん、私もう42歳になっちゃったよ~」
「へ~」
全く名前も知らない相手が中身の薄っぺらい次々と話しかけてくるのは非常に面倒だな。メッセージスキップの実装を求む。
「うわ~、このスイカ凄いですね~。皆さんがお作りになられたんですか?」
「お~、自分で食べる分だけだけどね」
「とっても美味しかったです! 真心こめてお作りになられてるんですね~」
「いや~、そう言ってもらえると嬉しいね~。ホントいい子だ。
……ところで、キミ誰?」
エルシィの順応っぷりは凄まじいな。本来は赤の他人のはずなんだが……
いつもバグ魔とかポンコツとか言っているが、そういう面の才能はあるんだよな。一応。
「け、桂馬ー、じいじい、貰ってほしいものがあるんじゃ……」
おい、何だそのバレンタインイベントみたいなセリフは。
くねくねしながら言うのやめい。
「ほれ、これじゃ! おまえの好きなゲームの絵、器にしてみたんじゃ!」
……爺ちゃん、これ、ゲームの絵じゃない。浮世絵だ。
いや、浮世絵ですら無いな。線の感じはそうなんだが、色使いだけはギャルゲー風の派手な彩色なんで落ち着いた色合いの器と激しくミスマッチを起こしている。
せめてどちらかに統一して欲しかった……いや、浮世絵ならマシというだけであまり嬉しくは無いが。
「うわ~、孫想いのお爺さまですね!」
「…………そうだな」
爺ちゃんなりに頑張って考えて作ったんだろうな。
だからと言って何をしても許されるという訳ではないが、無下にするような事はしなかった。
というわけで帰省編です。前回から露骨にフラグは立てておいたので大体の方が察していたと思います。
かのんちゃんは親族の中に突っ込むわけにはいかないのでこんな感じになっています。