もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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05 神と悪魔と

「よし、ノーラは行ったな。エルシィ、よくやった」

「いえいえ、神様のご指示に従っただけです!」

「じゅーぶんだよ。天理も無理言って悪かったな。なかなかの演技……天理?」

 

 気がついたら、僕の腕の中でグッタリしていた。

 って言うか、気絶してる……?

 

「て、天理!? おーい!!」

 

 

 

 結局、しばらく待っても復活しなかったので天理の中の自称神が出てきた。

 

「上手くやってくれたようですね。助かりました」

「天理は大丈夫なのか? 起きたら謝っといてくれ」

「謝る? 天理は幸せ過ぎて気を失ったんですよ。謝る事などありません」

 

 ん? どういう意味だ?

 いや、そんな事よりだ。

 

「話の続き、聞かせてもらおうか?」

「構いませんが……少々疲れました。また後日にしませんか?」

 

 確かに、今日は色々あったせいで結構疲れた。

 ゲームをして体調を回復せねば。

 

「……分かった、いつにする?」

「明日にでも伺いますよ。それでは」

 

 それだけ言い残して、自称神は去って行った。

 

「天理さん、家近いんですかね?」

「さあな。それより、ゲームはちゃんと持ってきてるか?」

「勿論ですよ! では帰りましょう!」

 

 

 

 

  で、翌日!

 

 

「こ、こんにちは……今日隣に引っ越してきた鮎川です……

 どうぞ宜しくお願いします……」

 

 そんな事を言いながら、天理がソバを持ってきた。

 

「って、隣!? 何で!?」

「いやねぇ桂馬、何でもなにも一昨日奥さんが挨拶に来られたじゃないの」

「アレって引越しの挨拶だったのかよ!!」

「ええそうよ。あ、折角だから引越しのお手伝いしてあげなさい」

「ゲーム溜まってるからヤダ」

 

ガシッ、 ドスッドスッドゴォッ!

 

「お手伝いしてあげなさい」

「は、はひ、いきまず……」

 

 無限ループにするならせめて殴るイベントを消してほしい。

 

 

 

 

 

「あ、ありがと、桂馬君。手伝ってもらっちゃって」

「いや、いいんだよ。どうせお前の中の奴と話さなきゃならんしな。

 ……そう言えば、あいつ名前とかあるのか?」

「うん、ディアナって言うんだって」

「ふ~ん……」

 

 ディアナ……確か月の女神だったか? 狩猟と貞節も司っていたはずだ。

 尤も、人間に伝わる神話がどれだけ正しいかは疑問だが。

 

「これで大体終わりか。じゃあどこで話すか。

 お前の部屋で良いか?」

「ふえっ!? えっと、その……」

「ん? ダメか? じゃあ僕の部屋で……」

「い、いや、あ、あの……

 わ、私の部屋で……」

「分かった。エルシィ居るかー?」

 

『はーい! 今行きまーす!』

 

「よし、向こうも大丈夫みたいだな。

 ん? どうした天理?」

「そ、そうだよね、妹さんもだよね。何でもないよ。うん……」

 

 良く分からんが……僕達は天理の部屋へと移動した。

 

「さて、何から話せば良いのやら。

 まず改めて、お前が何者なのかじっくりと聞かせてくれ」

『……確かに、昨日よりは気の利いた解答ができそうです。

 私は……あなたたちが追っている存在、悪魔(ヴァイス)を封印していた存在です』

「ヴァイス?」

『駆け魂の事です。当時、私たちが封印した陣営の悪魔はそう呼ばれていました』

「ああ、そういう事か、当時は脱走なんてしてないもんな」

 

 旧悪魔の封印か。ハクアもそんな事を言っていた気がするな。

 

「封印は新悪魔が行ったと聞いたんだが?」

「そうですよね。私も授業でそう習った記憶があります」

『ふむ……その封印、いつ頃の話ですか?』

「え? 確か……300年くらい前だった気がします」

『300年ですか……人間ならまだしも悪魔の記憶や記録が風化するには早すぎますね。

 何者かが隠蔽しているのでしょうか?』

「そんな陰謀論は今はどうでもいい。封印について……新悪魔と旧悪魔の戦争について話してくれないか?」

『アルマゲマキナの事ですね。いいでしょう。

 

 ご存知の通り、悪しき悪魔たちとそれを覆そうとした悪魔たちとの戦争でした。

 その戦いは熾烈を極め、地獄だけでなく三界、人間界と天界までもを危機に晒しました。

 だから天界が、私たちが新悪魔たちと協力し、悪しき悪魔を封じたのです』

 

「天界……そうか、お前天界の出身だったんだな」

『ええ。その通りです。

 

 天界の中でも秀でた霊力を持っていた我々が封印の人柱となったのです。

 しかし、気がついたら封印は解かれ、私は駆け魂と共に人間界に居たのです』

 

「……封印、解かれてるのか」

『ええ。私がここに居るという事はそういう事でしょう』

「陰謀の匂いしかしないなぁ……」

 

 これ以上面倒になるなんて勘弁してほしい。

 

「……あ、そうだ。お前どうやって天理と出会ったんだ?」

『……その前に私から質問ですが、あなたは10年前の事は覚えていないのですか?』

「10年前? 何の事だ?」

『本当に、覚えていないのですか? あなたという人は……』

「い、いいんだよディアナ。もう10年も前の事なんだもん。

 桂馬君が覚えてなくても無理はないよ……」

『ハァ……仕方ないですね。

 桂木桂馬、せめてヒントを出すので自力で思い出してください。

 10年前、夏休み、舞島海浜公園、校内キャンプ、あかね丸、洞窟、地震』

「うん? ん~…………」

 

 10年前の夏休み、かなり時期が限定されたな。

 校内キャンプ……そう言えばそんなのがあったな。

 僕の、僕達の通っていた小学校では夏休みの登校日、近くの公園の人口浜で校内キャンプになるのが恒例だった。

 その時、何かあったのか……?


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