もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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04 演出

 同じ場所に留まっていたらノーラが帰ってくると危ないのでひとまず場所を移動する。

 舞島学園は夏休みでも普通に開放されていたので、適当な教室で腰を下ろした。

 天理の中の存在は鏡などを通じても喋れるらしいので、手鏡を机の上に置いてもらう。

 

「まずは……エルシィ、結界を張れるか? この教室全体に」

「お任せ下さい!!」

 

 これでノーラが乱入してくる事は無いだろう。

 ゆっくりと会話する事ができる。

 

「さて、あのよっきゅんを酷い目に遭わせたあの悪魔を追っ払うのは賛成だが……協力できるかどうかはまだ分からんぞ」

『そうですね。あなたに私たちを守れる力があると認めた場合の話です』

「そういう問題じゃねぇよ! って言うか何で上から目線なんだよ!!」

『少々遠回りしましたが、私と天理はその為に桂木家を訪問しました。

 あなたなら助けてくれる。天理がそう言っていたので』

「いや、話聞けよ」

 

 本当に何なんだコイツは?

 ……そこ、ハッキリさせてから動いた方が良さそうだ。

 

「おい、質問だ。

 『駆け魂』という言葉を知っているか?」

『かけたま、ですか? そう言えばあの人たちも言っていましたね。

 何なのですか一体?』

「……次、『旧地獄』『新地獄』。

 これについてどれだけ知っている?」

『……あなた、何者ですか?』

「質問しているのはこっちだ。時間が無いからサッサと答えてくれ」

『……仕方ありませんね。いいでしょう。

 旧、新といった区別については知りませんが、地獄についてなら知っていますよ』

「……次だ。お前は悪魔なのか?」

『いいえ、違います。

 私は……そうですね、人間に分かる一番近い概念で言うのであれば『神』に当たります』

「神、ねぇ……」

 

 旧悪魔でないなら天使だと予想していたが、意外な大物が出てきたな。

 妙な回りくどい言い方から察するに全知全能の神みたいなのとは違うんだろうけどな。

 

「じゃ、最後だ。

 旧悪魔の……悪魔の魂、持ってるか?」

『……天理、少し体を借ります』

 

 目の前の自称神は天理の体に移動してから、ぐるぐるに縛られた駆け魂を取り出した。

 

「これの事ですか?」

「……良かった、お前を差し出すような展開にならなくて。

 そうだ。それが旧地獄の悪魔の魂、『駆け魂』だ」

 

 センサーに反応があったから駆け魂の存在だけは確信していたが、この自称神自身が駆け魂だったら非常に面倒な展開になっていた。

 おそらく、こうやって雁字搦めに縛られていたから駆け魂の反応が遮られてたんだろう。たまに漏れ出ていたが。

 

「駆け魂……そういう事でしたか。

 封印から脱走した魂が旧悪魔、それを追う者を新悪魔と、そう呼んでいたのですね」

「そういう事だ。その駆け魂を差し出せばあの悪魔も帰ってくれると思うが……」

「何か問題でも?」

「……駆け魂ってのは人の心のスキマに入り込み、そう簡単には出てこない。

 ただ単にハイっと渡しただけじゃあ納得しないだろう。何か弱ってるし」

 

 逆に言えば、上手いこと演出すれば大丈夫だ。

 いつもみたいに心のスキマを埋める必要も無く、相手に事情を説明できるのでそれだけ楽だとも言える。

 命の危機さえ無ければな!!

 

「あ、あの~」

「ん? どうした?」

「えっと……攻撃されてるみたいです、この部屋」

「……はい?」

「だから、この部屋に張っておいた結界が攻撃されてるんです。多分ノーラさんです」

「……もう来たのか。どのくらい保つ?」

「数時間は余裕で持ちますけど……それやるとノーラさんに目を付けられそうで怖いです」

「適当な所で負けておかないとお前がつけ回されるのか……

 まあ、ずっとこもっててもしょうがないからな。結界を上手く破らせてから……全員で屋上に行くぞ!」

「は、はいっ!」

 

 ここで『演出』をやることも可能だが、万が一駆け魂が逃げ出した時の為に見晴らしの良い場所でやった方が良いだろう。

 

「私は……一旦隠れておきますね。話の続きはまた今度にしましょう。

 天理をお願いします」

 

 それだけ言って自称神は消えたようだ。

 こっちも訊きたい事はまだ山ほどあるんだ。さっさと解決させてもらおう。

 

「神様! あと5秒ほどで破られます!」

「よし、準備は良いな?」

「う、うん……」

 

 そして、パリィィンというガラスが砕け散るような音と同時にドアが吹き飛んだ。

 突入してきたのは当然、ノーラとそのバディー。

 

「はぁ、はぁ。ようやく追い詰めたわよ!!

 エルシィの協力者(バディー)の分際でよくも手間かけさせてくれたわね!!」

「見事な逆ギレだな。エルシィ、適当に妨害してくれ」

「りょーかいです! えいっ!」

 

 どうやらノーラの足を結界で固定したようだ。まさに足止めだな。

 

「な、何よこれっ! 外しなさいっ!!」

「いや、外す訳が無いだろ。じゃあな」

 

 そうして僕達は予定通りに屋上へと向かった。

 

 

 

「……ところでエルシィ、あの結界の強度どうした?」

「ご安心下さい! 2分ほどで勝手に割れるようにしておきました!」

「……結界だけは凄いよな、お前」

 

 

 

 

 

 

 屋上に着いたら演出の打ち合わせをする。

 幸いな事に今は誰も居ないようだ。良かった良かった。

 

「手順を説明するぞ。

 僕がそこのベンチの所で天理の駆け魂を出すフリをするから、エルシィはその影から良いタイミングで駆け魂を投げ上げてくれ。

 できるな?」

「大丈夫です! お任せ下さい!!」

「あ、あの……私は何をすれば……」

「お前は適当に合わせてくれ」

「う、うん……」

 

 少し待つと、屋上の扉が吹っ飛んだ。

 まったく、普通に開けられなかったのか?

 

「こ、今度こそ観念するのね!!

 いい加減に駆け魂を出させてもらうわ!!」

「その為に僕を痛めつけるのか?

 ハッキリ言って無駄だぞ。何故なら……僕達は愛し合っているからな!!」

「…………え?」

(おい天理! そこは合わせて恋人のフリをしてくれ!)

「ど、どどどどうしてそんな事しなきゃいけないの!?」

(たのむたのむ!!)

「おーい、愛し合ってるようには見えないけど?」

 

 ええい! この程度の演技くらいしてくれ! ただのフリだぞ!?

 

「しっかしお前、流石はあのエルシィの協力者(バディー)ね。

 『恋愛』なんかで心のスキマを埋めようだなんて、バカみたい。

 そんなの人間の中でも一番黒い感情じゃない。心のスキマが埋まるわけが無いわ」

「……フッ、なら貴様が知っている恋愛がその程度だったというだけの話だろう?」

「言うわね。だったらお前はその駆け魂を出せるって言うの?

 無理に決まってるわ! その娘はお前の事を憎んでるんだから!!」

 

 う~む、恋愛という言葉はこいつの中ではそういうものなのか。

 何か……可哀想な奴だな。

 

「天理、あいつはあんな勝手な事を言ってるが、どう思う?」

「わ、私は……私は、桂馬君を憎んでなんか無い!

 ずっと、大好きだったよ。桂馬君の事が……」

 

 いい演技ができるじゃないか。少々侮っていたようだ。

 

(よくやった。良いセリフだ)

「えっ?」

 

 やや強引だが、所詮はただの演出だ。これで問題ないだろう。

 流れるような動作で、僕は天理にキスをした。

 

(っっっっ! っっっっっ!!)

 

 天理がもがくが、ここは耐えてもらうしかない。

 後はエルシィが駆け魂を打ち上げてくれれば……

 

(えいっ!)

「あっ、駆け魂!? こ、こらー待ちなさいっ!!」

 

 これで、完了だ。







 まさかの追憶編カットのスピード解決でした。
 『駆け魂センサーに一定条件下でしか反応しない』という事を桂馬が真剣に考察すればこのくらいはできると思います。
 まぁ、原作では最初のセンサー音を聞き逃してきたので無理な話ですが。

 追憶編カットのもう一つの理由として、逃げるのが凄く難しかったんです。エルシィが強すぎて逃げる必要が全くないので。


 流石にこのまま放置は天理さんが可哀想なので後日談で追憶編を設けます。

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