もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

161 / 343
03 悪夢

「♪~♪~♪~」

「神様……それだけの荷物をかかえながらよくゲームできますね」

「フッ、ゲームをプレイするのにゲームが障害になるなど有り得ないからな!!」

「そーですか」

 

 駆け魂の事を人任せにして僕は自由にゲームをプレイする。

 やはり素晴らしいな! 最高だ!!

 

「よし、クリア。次だ」

「相変わらず速いですね」

「今日はいつになくテンションが上がっているからな!

 フハハハハハぐはっ!」

「……え? どうしました!?」

 

 高笑いしていたら後ろからの衝撃を感じた。

 転びそうになるが、ゲームだけは死守する。

 体勢を立てなおした所で後ろを確認すると……天理が居た。

 

「またしてもお前かよ! お前は現れる度に僕を突き飛ばすルールでも設けてるのか!?」

「あ……あの、桂馬くん。その……」

「ん?」

「その……さっき、2人組の変な人が、桂馬くんが危なくて……」

「何? どういう意味だ」

「あの、えっと……」

 

 焦っているのだろう。天理は何かを伝えようとしているがそれが言葉になっていない。

 そして、すぐにその必要もなくなった。

 

「よし、見つけたわ!」

 

 上の方からそんな声が聞こえた直後、首に何かが巻き付き引っ張り上げられた。

 

「ゴホゴホッ、何だ!?」

 

 何かに引っ張り上げられているが、確認する術は無い。

 今重要なのは、宙吊りになっているという事、そして、折角買ったゲームを落としてしまった事だ!

 

「エルシィ!! ゲームを回収してくれ! 傷一つ付けるなよ!!」

「それ今言う事ですか神様ぁあああ!!!」

 

 何を当然の事を。一番大事な事じゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく引っ張られた後、学校近くの海浜公園にあるあかね丸の船首に縛り付けられた。

 焦った所で状況は変わらない。一つ一つ情報を整理していこう。

 

「今回も手早く終わりそうね。私って優秀!」

「さっすがノーラさんだね~」

 

 僕を縛り付けたのはこの2人か。男の方は……何かアホっぽい気がするな。エルシィと類似するポンコツ臭を感じる。

 女の方は……羽衣らしき布を身につけ、センサーらしきドクロの髪飾りが頭にあり、宙に浮いている。間違いなく駆け魂隊の悪魔だな。

 恐らく、これが例のノーラとかいう奴なんだろう。

 

「け、桂馬君!!」

 

 少し待つと天理が走ってきた。

 エルシィの姿は見あたらない。ゲームを回収する分遅れているんだろうな。安心だ。

 

「ようやく来たねお嬢ちゃん。

 見てなさい、お前の憎い男をヒドい目に遭わせてあげるから」

「止めてください! 私、桂馬君を憎んでなんか……」

「センサーはそうは言ってないわよ。

 この男のせいでお前の心にスキマができているのさ!!」

 

 どうもノーラは僕が原因で天理に心のスキマができていると思い込んでいるみたいだな。

 どうやってそんな事を断定したのかも気になるが……まあいい。

 問題はノーラがそう信じ込んでいる事だな。どうしたもんかな。

 

「ノーラさん! 止めてください!!」

 

 天理に遅れてエルシィもやってきた。僕が落とした紙袋もきちんと持っている。

 

「エルシィ? 何よ、邪魔する気?」

「その人、私の協力者(バディー)です! だから解放して下さい!!」

「この男が? そりゃあますます痛めつけがいがあるわね」

 

 オイコラ。

 

「止めてください!! それに、悪魔が率先して駆け魂攻略するのは禁止されてるはずですよ!!」

「『原則禁止』でしょ? 絶対禁止ってわけじゃないわ。

 私の協力者(バディー)は頼りないから()()()()私がやってんのよ」

 

 絶対に仕方ないなんて思ってなさそうな声だな。

 こういうのの暴走を防ぐ為のバディーなんじゃないか? 存在意義が問われそうだ。

 

「ん~、まあ殺すのは勘弁してあげるわ。

 その代わり……死ぬより辛い目に遭ってもらう!

 エルシィは知ってるわよね? 私の能力、人の心を覗ける力!!

 この男の一番大切なモノを、壊してあげる!!」

 

 羽衣が僕の顔に巻きつく。

 そして、頭の中に映像が浮かんできた。

 

「さぁ、曝け出せ。お前の心の『一番』を!!」

 

 一番? そんなものは決まっている!!

 まず浮かんできたのは……ロード画面だ。

 

「…………ん?」

 

 続けて、本製品の無断での複製などを禁じる定型文。

 そして……綺麗な背景が浮かび上がってきた。

 

「……あれ? 羽衣壊れてないわよね?」

 

 ああ、聞こえる。彼女の声が。

 僕を呼ぶ、彼女の声が!!

 

『けいまくーん!』

 

 そう、僕の運命の相手、そう、その名は……

 

「よっきゅぅぅんんん!!」

『会いたかったよ、桂馬君!』

「よっきゅん、ついに僕達は辿り着いたんだ。エンディングの向こう側へ!!

 あははは、あははははははははは!!!」

 

 

「……いや、これどういう願いよ」

「か、神様……」

「……ふふっ、変わってないなぁ、桂馬君」

「えっと……ノーラさん、きっとこれってコイツが好きな女の子なんじゃないかな?

 何かちょっと絵が変だけど」

「こいつにこそ心のスキマがあるんじゃないでしょうね……

 まあいいわ。それじゃあお前の大切なモノを、壊してあげる!!」

 

 

『ねぇ、桂馬君。桂馬君は私の事、どう思ってるの?』

「そ、そんなの……言えないよ」

『もし、桂馬君が言ってくたら、私も言っていいよ』

「よっきゅん……」

『桂馬君……ザザッ

 け……け……』

 

 彼女の様子がおかしくなったのを感じて、僕は彼女の方を向いた。

 そして見えたのは……

 

『け〝い〝ま〝く〝ん〝……』

 

 夕日をバックにドロドロに溶けていく彼女の姿だった……

 

「うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

「ふふっ、どう? 大切なモノを失った気分は!!」

「…………だ」

「?」

「ロードだぁぁああああ!!!!」

「!?」

「ロードロードロードロードロードロードロードロードロードロードロードロードロード!!!

 ロォォォォオドォォォォォオオオ!!!!」

「ひぃっ!?」

 

 僕はその体を拘束していた邪魔な何かを引きちぎり目の前の女に飛びかかった。

 そのまま重力に従って海面に落ちるが、そんな事はどうでもいい。

 

「ちょっ、ノーラさん!?」

「な、何なのコイツ!? 離して!!」

「……ダレだ。

 よっきゅんをコロしたのはダレだぁぁああ!!!」

「痛っ! 力強っ!?」

「お前たちはいつもそうだ。思いつきの盛り上げや浅薄な話題作りの為に簡単にヒロインを殺す。

 殺されるヒロインの気持ちになった事があるのかぁああああ!!!!」

「え、ご、ごめんなさい……?」

「よっきゅんを返せ返せ返せぇぇえええ!!!」

「いやー!!!」

 

 

 

 

 その追いかけっこは僕が力尽きてエルシィに引っ張り上げられるまで続いた。

 

「何なのよこの男! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!」

「あ、待ってよノーラさん!!」

 

 チッ、逃したか。まあいい。ロードすればいつでもまたよっきゅんに会えるからな!

 

「あ、あの……ごめんなさい。私のせいで桂馬君に迷惑かけちゃって……

 も、もう帰りますね。これ以上迷惑かけないように」

 

 天理は走り去ろうとするが、途中でその動きが止まった。

 

「いえ、天理。この者は見事にあの2人を追い払ってくれました。

 この者に、私たちを守ってもらいましょう」

 

 ……どうやら、中に居る存在が顔を出したようだな。







 亮の学力評価は1で、エルシィの0より何気に優秀だったりします。
 まぁ、評価が1以下なのってこの2人だけなんでどんぐりの背比べですけど。

 しかし、本当に亮の方が学習能力高いんですかね? こんな左右の区別も付かないような奴の方が。
 エルシィでもそのくらい……

エル「勿論分かりますよ! お箸を持つ手が右でお茶椀が左ですよね!」
桂馬「……お前、左利きじゃなかったか?」

 ……わ、分かると良いなぁ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。