もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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 細かく書きすぎるとやたら長くなりそう。
 しかし、書きたい事もある!
 というわけで、スーパーダイジェストで同掃会、いきます。

 ……ダイジェストと言うより振り返りですけどね。




駆け魂隊の全体報告会 After
室長のつぶやき


  地獄 法治省極東支部にて

 

 

 駆け魂隊の悪魔は年に2度ほど地獄へと戻り大規模な報告会を開く。

 その報告会が先ほど終わって、室長のドクロウ・スカールは自室で1人、溜息を吐く。

 

「ふぅ、今年も問題なく終わったようだな」

 

 10年前のある事件のせいで人間界の駆け魂の数は急激に増加していた。

 それに対抗する為に、駆け魂隊も人員を増やした。

 その結果、比較的小規模だったはずの報告会が凄まじい規模になっている。

 人間界から地獄に帰ってくるというのは、人間に分かるように例えるのであれば外国から自国に帰ってくるようなものだ。

 人間には地獄の存在は知られていないので帰国時の出国手続きだけは無視できるが、地獄への入国手続き、羽衣に蓄積されたデータの回収、妙な細菌やら呪いやらを持ち込んでいないかといった検疫、それらの手間は膨大だ。その上、慣れない人間界で暮らしていたストレスが溜まっているので、故郷に帰ってきた事でそのストレスが一気に爆発して騒ぎになるなんて事も有り得る。

 

 今年は目立った問題は発生しなかったようだ。何よりである。

 

 

 ドクロウは続けて、今回の報告会の成果について考えを巡らせた

 

 今回の報告会では悪魔重勲章を授与された者が居た。

 ノーラ・フロリアン・レオリア。

 旧地獄から続く名家の証である『角』を持つ新悪魔である。

 問題行動も少々……いや、かなり多いが、それも駆け魂隊という仕事に対する誇りと責任から来るものであろう。

 事を急くあまり、逆に駆け魂を成長させてしまった……などという笑えない話もあるが、最終的には何とかしておりこの半期で7匹もの駆け魂を捕獲している。

 もう少し、人間の心に寄り添えるような発想ができれば成功率も上がるのだろうが……良くも悪くも誇り高き新悪魔である彼女では少々難しいだろう。

 

「しかし7匹か。エルシィには少し悪い事をしたか」

 

 ここまでのエルシィの成果は駆け魂10匹に加えてはぐれ魂1匹。ノーラの約1.5倍である。

 本来なら彼女にこそ重勲章が与えられるはずなのだが、それはできなかった。

 彼女は駆け魂を勾留するのではなく全て消滅させている。バレたら大問題である。

 その辺はドクロウが上手く偽装してはいるが、勲章を授与するとなればかなりしっかり調べられてしまうだろう。

 簡単には暴かれないようにしたつもりではあったが、万が一があるので上には少なめの成果を申告してあるのだ。

 

 そういう事情もあって大々的に賞を与える事はできなかったので、ドクロウ室長が勝手に作った『室長賞』を個室で手渡しするだけに留める事となった。

 それだけでも本人は凄く感激していたが。

 

「エルシィ10匹、ノーラ7匹。

 次は……ハクア、ハクアか。5匹と」

 

 言うまでもなく、心のスキマに隠れる駆け魂を追い出すのは非常に難しい。

 だから、5匹であっても凄まじい成果なのだ。エルシィの半分以下だけど、凄まじい成果なのだ。

 

「ハクア……出だしは最悪であったのによくここまで持ち直したものだ。

 始末書も非常に良い出来だったしな」

 

 ハクアに始末書を書くように命令したのはドクロウ室長である。

 しかし、室長自身の個人的な事情のせいで『駆け魂捕獲時の事』を詳細に求めてしまった。

 勿論それも重要だがもっと重要なのは『駆け魂を取り逃した事』であり、それに気付いたのはハクアが始末書を送ってきた後だった。

 気付いた理由は勿論その重要な部分の始末書が送られてきたからである。

 ハクアがやらかした事は結構な大事件だったので評価も崖っぷちだったのだが、その件で室長からの信用はかなり回復していたのだった。

 ……なお、送られてきた始末書はそのまま上にも提出するので、自分のミスに気付いたドクロウはかなり肝を冷やしていた。最悪の場合はハクアはクビになっていたので。

 

 

「さて、後は……おっと、忘れる所だった。

 エルシィから協力者(バディー)達の手紙を預かっていたな」

 

 机の上に置いてあるのは、いつかドクロウが送った封筒にそっくり2つの封筒。

 表面には『ドクロウ室長』と大きく書いてあり、裏面にはそれぞれ小さく『桂木桂馬』と『中川かのん』と記されている。

 

 ドクロウはどちらの封筒から見るか少し迷い、まず『中川かのん』と書かれた封筒を開いた。

 

 

 

『拝啓 暑さが日ごとに加わって参ります。皆様におかれましては益々のご清祥のこととお慶び申し上げます。

 

 

  略儀ながら書中をもちましてお礼とさせていただきます。 敬具』

 

 

 

「……拝啓から書き出しているのは私に対する当てつけなのだろうか? 時候の挨拶も地獄では意味が無いとは思わなかったのだろうか?」

 

 内容を確認してみたが、どうやら新しい道具に関するお願いのようだ。

 『錯覚魔法の状態で見える手鏡』や『同じく虫眼鏡など』を求めているらしい。

 

「そのくらいであれば何とかなるか。後でエルシィに送っておくとしよう」

 

 続けて、『桂木桂馬』と書かれた封筒を開いた。

 

 

 

『拝啓 梅雨明けの暑さひとしおでございます。時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

 

 

  用件のみにて失礼いたします 敬具』

 

 

 

「……恨まれてるなぁ」

 

 その手紙は前文と末文だけはやたら丁寧だが、本文はかなり刺があった。やっぱり当てつけだったらしい。

 内容は……ドクロウに対する文句と『これだけ成果を出してるんだから休暇を設けるとか、便宜を図れないのか?』といった事だった。

 ドクロウも文句を言いたくなる気持ちをよく理解している。こちらの都合で駆け魂狩りに強制的に参加させられているのだから。

 

「便宜……便宜か。ふむ……」

 

 

 考え事をしながら手紙を片付けたドクロウはいつものようにテレビの前に立ち、ビリーズブートキャンプを始めた。

 そうして、いつもの日常へと戻ったのであった。







 ぶっちゃけ手紙を送ってみたかっただけだったり。拝啓から書き出しているのは勿論室長への当てつけです。かのんの手紙も含めて。

 エルシィ以外の人の成績はひとまず原作通りです。ノーラの次点がハクアだったのかは原作からは判断できませんが、ポスターの写真に選ばれるくらいだから普通に成績が良かったのだろうと。


 さて、次回はいよいよ天理編です。
 女神の初登場の回ですね。なるべく早く仕上げられるように、そしてなるべく高いクオリティになるように頑張ります。
 では、また次回お会いしましょう!

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