Aクラスから戻ってきた私たちは皆に事情を説明した。
「というわけだから、一週間だけで良いんで皆の時間を私に下さい!!」
「下さい!」
「お~、中々に熱い展開だね。今の時期はそんなに忙しくないから大丈夫だよ」
「流石歩美! 我が心の友よ!!」
「目指せ! 打倒結さんです!!」
「……どこの少年漫画?」
京から冷静なツッコミが入ったけど、その後ちゃんと了承してくれた。
「それじゃあ、今日の放課後からいつものスタジオに行くぞ!」
「「「おー!!」」」
そうして……私たちは特訓を始めた。
「わ~、お財布落としちゃいました! お金が足りないです!」
「チィッ、ならば仕方ない。T資金を出そう!」
「何ですかそれ?」
「私の貯金だ! 受けとれいっ!」
「あ、後で必ずお返しします」
時にはトラブルに見まわれ……
「よし、しーるど、こんどこそ繋ぎましたよ!!」
「今度こそ録音できるな。やってくれ京っ!」
「そんな派手な動作でも無いんだけどな……」
「よっし、演奏終了!」
「録音できたよ~」
「は~い。じゃあこのしーるどを片付けちゃいますね~」
「あ、ちょっと待ったエリー!」
ギィィィン!
「あわわ~!!」
「あ、アンプから抜く時は、アンプの音量下げてからね……」
時にはトラブルに見まわれ……
♪録音の再生中♪
「ん~、大分マシにはなってきた?」
「そうだけど……何か違和感があるような……?」
「……ベースの音、ちょっと変じゃない?」
「あれ? ホントだ。エリー、ちょっとベース見せて」
「はい、どうぞ!」
「……弦がダルンダルンになっとるやん!!
何やってんの!?」
「え? えっと、指が切れちゃいそうで怖かったので緩く……」
「そんな物騒な弦なんて使ってないから!! あと、緩くすると音が変わっちゃうの!!
今すぐ戻しなさい!!」
「す、すいません~!」
時には、トラブルに見舞われた。
「って! トラブル続きだしその原因大体エリーじゃん!!」
「ご、ごめんなさい!!」
「私たちもミスしてないわけじゃないし、エリーが先にミスしてるから私たちが直せるっていう面も無くもないけど、目立つミスをしてるのが主にエリーなんだよね……」
「……ま、エリーだししゃーないか。私たちでできるだけフォローしよう」
「うぅぅ……ありがとうございます、ちひろさん!!」
「君たち青春してるなぁ……」
そんなこんなで、一週間後。
「へぇお嬢様、こちらでございます」
「あの、そんなに身構えなくてもいいですよ?」
放課後、五位堂さんを私たちのスタジオにご招待した。
いや、私たちのって言っても単にレンタルしてるだけなんだけどさ。
「こっ、これがお嬢様のオーラ! 私たち庶民とは格が違うっ!」
「お、おおおお落ち着きましょう歩美さささん!! の、ののの飲まれてはだだめですす!!」
「お前が落ち着け、エリー」
「今はアホっぽいけど、真面目にやるときはちゃんとやるはずなんで、まあよろしく」
「ふふふ、個性的で良いではありませんか」
今のは褒められたのか、それともバカにされたのか……
「とにかく、演奏を始めます!
皆、位置について!」
「準備オッケーです!」
「とっくにできてるよ」
「同じく」
「よし、行くぞ! ワン、トゥ、スリー、フォウッ!!」
私たちの、初めての『人に聞かせる演奏』がスタートした。
……………………
「っと! これで演奏終わり。どうでしたか!?」
「……一つだけ、質問させて下さい。
貴女達は、どこを目指していますか?
内輪で適当に楽しむのか、それとも誰かに聞かせる音楽を奏でたいのか」
「それはもちろん、聞かせる音楽です!
認めてほしい人が居る。だから私は音楽をやるんです!」
「……分かりました。それではコメントさせて頂きます。
と言っても私の専門は打楽器であり、弦楽器は専門外なのであまり細かい事は言えませんのでできる範囲で、です。
まず、あなたたちの演奏は、下手です」
バッサリと言われた。
そりゃ専門家と比べたら下手な自覚はあったけど、そこまでハッキリと言われると少し……いや、かなりショックだ。
「一番目立つのはベースが遅れ気味な事ですが、ギターの方々も細かい技法が使いこなせてないように思えます。キーボードは安定していますがそれだけです。もう少し自由に演奏するようにした方が広々とした曲になります」
一週間、頑張ったんだけどなぁ。やっぱりちゃんとした人から見るとまだまだだったって事だね。
ドラム担当は、修行し直してからまた新しく探そうか……
「そういう訳なので、きっちりと指導させて頂きますね」
「…………え?」
「? どうかしましたか?」
「え、あの……入って、くれるんですか?」
「もちろんです。参加するつもりが、改善させるつもりが無かったらわざわざこんな辛辣な事は言いませんよ」
よく考えてみれば確かにどうでもいいバンドに対してわざわざ辛辣な批評をする必要なんて無い。
でも、それだったら……
「あの、どうして参加してくれようと思ったんですか?」
「簡単な事です。
皆さん、演奏中はとても楽しそうでしたから」
「えっ、たったそれだけで?」
「『たったそれだけ』ではありませんよ。
演奏する人が楽しんでいなければ良い演奏はできません。
自分の意志で楽しんでやること。それこそが一番大切な事です。
誰かに押しつけられたり、義務感のみで流されるままの行動に価値など無いのですから」
五位堂さんの実体験でも混ざっているのだろうか? その言葉は何だか凄く深みのある言葉に思えた。
「それでは改めて、宜しくお願いしますね」
「う、うん、こっちこそ! 宜しく!!」
こうして、我らが2B PENCILSのメンバーが揃ったのだった。
さぁ、見てなさいよ桂木。ここから私たちの快進撃がスタートするから!!
口調や外見はお嬢様でも原作以上に芯の強い結さんをイメージしてみましたが、いかがだったでしょうか?
なお、ちひろの返答が『内輪で』であればやんわりと指摘していた模様。
以上で外伝『小阪ちひろの野望』は終了です。
前回の閑話と同じく前後編の2話に分けようと思ったのに3話になっていました……
さて、次回は期末テスト編です。アレもバンドメンバー達が主役なのでこの話の続きみたいな扱いになるかな。
時系列的にはちひろ攻略の後にハクア編、七香編、スミレ編、月夜編、長瀬編が入っているので、ある程度時間は飛びそうです。
次回分は……流石に書けてません。連続更新記録はストップです。
そんな分量も無いはずだし、一ヶ月以内には仕上げたいです。