「教育実習生が僕を見ていた、だと?」
「うん。まあ、だからどうしたっていう話なんだけどね。
一応気をつけておいた方がいいかなって」
昼休み、いつもの屋上でお弁当を食べながら雑談する。
別に毎日屋上じゃなくてもいいんじゃないかとも思うけど、桂馬くんは駆け魂センサーが鳴るのを恐れて自由時間は人気の無い所に居たいらしい。
「気をつけると言ってもな、僕に何をしろと言うんだ?」
「うーん、桂馬くんのいつもの問題行動を実習期間中だけでも改めておけば問題は発生しにくいと思うけど……」
「……? 問題行動? どういう事だ?」
「……え? あの、え?」
まさかの自覚ナシ!?
いつも堂々とゲームしてるな~とは思ってたけど、まさか問題行動だという自覚が無かったとは……
「……桂馬くん、普通の人は授業中にゲームはしないよ」
「ゲームだと? ちゃんとテストは出来てるのに何が問題なんだ」
「それ、教師から見たら余計に厄介な気がするよ。
とにかく、トラブルを避けたいなら授業中のゲームは控えた方が良いかもね」
「中川、それは僕に死ねと言っているのか?」
「言ってないよ!? 言ってないからね!?
って言うかゲーム無いと死んじゃうの!?」
「当たり前だろう! ゲームとは僕にとって栄養であり、酸素であり! とにかく、生きる為に必要不可欠な物だ!!」
「そ、そこまでなの……
と、とにかく、あくまでそういう選択肢もあるってだけだよ。桂馬くんがゲーム止めるとは思わないけど」
「よく分かってるじゃないか」
駆け魂の攻略に関わるとかならともかく、ただの教育実習生相手に態度を改めるわけは無いか。
ま、桂馬くんらしいね。
朝からやたらと教室がザワついていると思っていたが、昼になってようやくその理由が分かった。
人当たりの良さそうな女性の教育実習生相手にクラスの連中が浮ついていただけだったらしいな。
全く、教師ほど手間がかかる上に実入りの少ないジャンルはそうそう無いというのに、たかだか教育実習生相手に騒ぎ立てるなんざどうかしてるな。
「さて、授業も終わったし帰るか。エルシィ、行くぞ」
「あ、先帰っちゃっていいですよ~」
「どうした? 何か用事でも……」
「あ、エリー! バンドの練習やるよ~」
「はーい!
そういうわけなんで、では!」
放課後、かのんと帰ろうとしたがちひろとの先約があったらしい。
お前、バンドとかできるのか? お前の本業って歌だよな?
まぁ、僕が気にする事ではないし、エルシィの演技なら多少下手でも問題ないか。
「それより、ちゃんとバンド続けてたんだな」
「ちょっ、どういう意味さ桂木!」
「お前の事だから三日坊主で終わってもおかしくないとか思ってたが、やればできるじゃないか」
「トーゼンでしょ! 今度機会があったら私たちのバンドの音、聞かせてあげるから!」
「そうか、それは楽しみだ」
「んじゃ、まったね~」
ちひろも順調に頑張ってるみたいだな。
それじゃ、僕は帰ってゲームの続きだ。いや、今日はショップに寄って新作をチェックしておくか。
そんな事を考えながら歩いていたら、声をかけられた。
「桂木君、ちょっといいかな?」
振り向くとそこには見覚えの無い女子が居た。
かのんと同じくらいの身長で、長い黒髪を束ねて左肩から前に出すサイドダウン、服は何故か制服ではないが、だらしないわけでもなくキッチリした服を着ており……
ん? もしかして、生徒じゃなくて教師か? 見覚えが無いが……
「……誰ですか?」
「……えっ? あの、桂木君? 本気で言ってる?」
「? はい」
その言葉を聞いて目の前の女教師(?)は何故かフリーズしてしまった。
まあいいか。さっさとショップ行こう。
「それじゃあ失礼します」
「えっ、あ…………う、うん」
さ~って、今日も良いゲームと巡り会えますように。
ショップの帰り道、ふと気付いた。
さっきの見覚えの無い教師ってもしかして例の教育実習生だったんじゃないか?
……まあ、どうでもいいことだが。
……そして、翌日 1限目……
ドロドロドロドロ……
”おいっ、ふざけるなよ
”いや、私に言われても……”
僕の叫びが、メールボックス内に響き渡った。
ファンブックを確認すると長瀬先生の身長は162cmで、かのんより1cmだけ高く、桂馬より12cmも低いという。
前にも後書きで述べたように、かのんは同年代では最高身長ですが、年上の春日姉妹とか二階堂先生には普通に負けます。
長瀬先生は何となく長身なイメージがあったのですが、意外と小柄な気がします。とりあえず生徒と間違われても不思議ではないくらいに。
まあ実際には先生の年代の日本人の平均身長がだいたい158cmくらいらしいのでそれよりは十分に高いんですけどね。他の比較対象が高すぎるだけで。