もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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合理的な選択

「……どうする、奴を追い出す為に、どうすれば良い……?」

 

 誰にも邪魔されない風呂の中でゲームをしながら作戦を練る。

 あの妹未満殺人シェフポンコツ悪魔を追い出すには、どうすれば良いのか?

 

 ただ単純に家から締め出すのはダメだ。

 うちの母さんには『可哀想な隠し子』って事で通ってるから何の理由も無く居なくなれば探そうとするだろう。

 じゃあ母さんに事情を説明する?

 ……無理だ。地獄だの悪魔だの駆け魂だのなんて説明してもゲームか何かだと思われるだろう。

 じゃあ別の事情をでっち上げる……って、その前に……

 

「……この『首輪』がある以上はどうやっても縁が切れないんだよなぁ」

 

 ドクロウとかいう奴をワンクリック詐欺で訴えてやりたいが、相手は地獄の悪魔だ、日本の、って言うかこの世界の法律なんて通じない。

 契約の破棄なんて事は難しいだろう。

 さっさと縁を切る為に、ベストな選択肢は……

 

パチン

 

「ん、何だ?」

 

 急に電気が消えた。停電か?

 とりあえず窓のブラインドを操作して月明かりを入れる。

 

「あ、明るくしてはダメです!」

 

 何か、()()()()からエルシィの声が聞こえた。

 そして、すぐ目の前にほぼ全裸のエルシィが……

 

「おわあああああ!!!

 お、おおお前! な、何やってんだ!!」

 

 反射的に飛びのいて風呂桶の蓋で体を隠す。

 

「だ、大丈夫ですよ。羽衣を巻いきてますから」

 

 羽衣を巻く? と疑問に思ったが、どうやら羽衣を水着のように体に巻いているようだ。

 半透明な素材な上に風呂のお湯の中に浸かってるので凄く分かり辛いが。

 

「神様、私のせいでお腹を壊してしまったので、せめてお尻でも流そうかと……」

「いらん!! 僕は犬じゃないぞ!!

 そんな事しても妹だなんて認めないぞ! とってつけたような妹イベントばかり繰り出してきやがって!!」

「……とってつけてなんか無いですよ」

「ん?」

 

 何だ? 雰囲気が変わった? さっきまでの軽い感じではなく真剣な感じだ。

 ……少し黙って話を聞いてやるか。

 

「私、お姉さんが居るんです。

 お姉様は何をしても優秀で、まさに悪魔の中の悪魔でした。

 ……それに比べて、私は来る日も来る日もお掃除。きっと一生掃除係なんだろうって、そう思ってました。

 だから、駆け魂隊に選ばれた時はもう死んでも良いって思うくらい喜びました!

 やっとやっと、悪魔として働けるんですから!!」

 

 ……なるほど。決して僕の妹ではないが、妹ではあったんだな。

 優秀な姉と比べられた落ちこぼれの妹、か。ゲームではよくあるキャラ設定だな。

 確か掃除係を300年もやってたとか言ってたな。

 こいつの口ぶりから察するに、掃除係は落ちこぼれしかなれない役職なんだろう。

 底辺でひたすら頑張って、ついに憧れの姉に追いつけるかもしれない役職を手に入れた……か。

 そして僕の積極的な協力があれば、きっと姉に追いつける。というわけだな。

 つまり、僕の選ぶべき選択肢は……

 

「そんな事、知るか」

 

 その台詞を聞いて、エルシィが一瞬『え?』って顔をする。

 フン、僕がそんなありがちな話の雰囲気に流されるとでも思ってたのか?

 さっさと風呂を出て服を着る。

 

「…………うぅ、うぅぅ……」

 

 風呂の中で体育座りして涙を流しているようだ。

 どうでも良い事だが、窒息しないんだろうか?

 

「僕はゲームの世界の人間だ。雰囲気には流されない。

 もっと論理的に正当でなければならない」

 

 エルシィの事情なんて、僕には関係ない事だ。

 そう、全く関係無い。

 ……だからこそ……

 

「論理的に考えて……

 

 ……お前を、僕の妹として認める」

 

「……え? ほ、ホントですか!?」

「残念ながら、これが最善だ。

 僕はお前とサッサと縁を切りたい。

 だが、この物騒な首輪がある限り、お前と縁を切るのは不可能だ」

 

 死んでしまえば可能かもしれないが……いや、悪魔なら霊魂相手でも逃さないのかもしれない。

 とにかく、まともな方法で逃げるのは無理だ。

 

「だったら、駆け魂を追い出しまくって契約を終わらせる。

 その為には、なるべくお前と一緒に居た方が良い。

 だから、妹として一緒に居るんだ」

「か、神様……ありがとうございます!!」

 

 エルシィが抱きつこうとしてきたのでサッと避ける。

 ……そう言えば中川も僕に抱きついた事があったな、何か流行ってんのか?

 ちなみに今のエルシィの姿は羽衣水着ではなく元の服装だ。いつの間に着替えたんだ?

 

「勘違いするな。僕にとって最善な選択肢なだけだ。

 まあ、ついでにお前も良い成績取って、姉ちゃんに褒められたらいいさ」

「神様……私、頑張りますね!」

「ああ。そうしてくれ」

 

 鬱陶しいくらいニコニコしてるなコイツ。

 まあいい。早いうちに次の駆け魂を見つけて……

 

「……ん? そう言えばエルシィ」

「はい? 何でしょうか?」

「次の駆け魂ってどうやって見つけるんだ?」

「……あああ!! 忘れてました!!」

「……おい、また何かやらかしたのか?」

「ああ、いえ、そこまでの影響はありません。……多分」

「……前途多難だな。

 まあいい。何をやらかしたのかキッチリ吐いてもらおうか?」

「え、えっとですね……私が身につけてるこのドクロの髪留めなんですけど……」

 

 ドクロの髪留め……特に気に留めた事は無かったが、確かにいつもついてたな。

 流石に風呂場ではつけてなかったが。

 

「これ、実は駆け魂センサーなんですよ」

「そんなのがあるのか。この街の駆け魂の居場所とかが分かったりするのか?」

「いえ、すれ違うくらいの距離じゃないと反応しないんです」

「また面倒なセンサーだな……で、それがどうしたんだ?」

「地獄から人間界に来るまで、エネルギーの節約の為にスイッチを切ってたんですけど……」

「……今に至るまで切りっぱなしだったって事か?」

「は、はい……」

 

 理解できなくは無いな。ちょっと間抜けだが。

 

「どうせ歩美の攻略中に別の駆け魂が出ても2人同時にやるのは避けたかったし、攻略が終わってからもそんなに時間が経ってないから確かに影響は少ないか」

 

 歩美の攻略が終わったのが土曜の夕方頃で、今は月曜の夜だ。

 まる2日ほどスイッチを入れるべき期間に入れてなかった事になる。

 それくらいなら問題は無い。

 

「で、ですよね!」

「失敗そのものを咎めるかどうかは話が別だが」

「お、お手柔らかに……」

「で、スイッチは入れたのか?」

「ちょ、ちょっと待ってください? ここをこうして……よし!」

 

パチン!

ドロドロドロドロドロドロドロドロ……

 

「……おい、壊れた目覚まし時計みたいになってるんだが?」

「こ、これは、センサーが反応してます! すぐ近くに駆け魂が居ますよ!!」

「すぐ近く……?

 ……お、おい、まさか……」

 

 そこまで僕が言った辺りで、2階へと続く階段から中川が降りてきた。

 

「桂馬くん、何かあったの? キッチンタイマーか何か壊れたの?」

「……エルシィ、頼むから違うと言ってくれ」

「え、えっと……姫様に駆け魂が潜んでます。次の攻略対象は姫様です」

「…………ふ」

「ふ?」

「ふざけるなーー!! 無理に決まってんだろうがーーーー!!!」

 

 僕のエルシィと縁を切る為の戦いは、早くも大きな壁にぶつかったのだった……




ちなみに、神のみ世界では休みは週1のようです。
女神編で休日が1日しか無かったので。

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