僕達が安全な所で着地して発信源に辿り着くとかのんは物陰に隠れてある店の様子を伺っていた。
「悪い、待たせたな」
「あ、桂馬くん。直接来たんだ」
「ん? 連絡くらい入れるべきだったか?」
「う~ん……考えてみれば特に問題は無いね。攻略対象を観察してる時に連絡入るとちょっと鬱陶しいし」
「なら良かった。まずは、そうだな……
エルシィ、攻略対象の情報を羽衣で探っておいてくれ」
「了解です!」
「あ、センサー返しておくね」
「はい! 行ってきます!!」
センサーを受け取ったエルシィが意気揚々と店に入る。
……何をトチ狂ったのか、透明化もせずに。
いや、あれがデフォルトか。バグ魔だからな。
『いらっしゃいませ~!』
『わひゃっ! あ、えっと……』
『お客様1名様ですか?』
『えっと、その……』
バグ魔がこちらに視線を送ってくるが、他人の振りをしてやり過ごす。
『……い、1名、です』
『はいではお好きな席にお座り下さい』
……あいつ金持ってんのかな? 確認してみるか。
メールメール……ふむ。
「中川、あいつにメール送って金持ってるか確認してやってくれ」
「え? 良いけど、自分でやった方が早いんじゃない?」
「よく考えたらあいつのアドレス登録してないわ。必要ないからな」
「……こういう事もあるんだから後で交換しとこうね」
実際必要無かったからな。僕がメールを使うのは迷える子羊達とかのんだけで十分だ。
「はい、送ったよ。
今は時間があるから、私が集めた情報を共有しておこうか?」
「そうだな。頼む」
「うん。名前はスミレさん。店の名前から察するに『上本スミレ』さんかな?
どうやら親子の仲が悪いみたい。
後は大体メールで送った通りだよ」
「ん?」
そう言われてPFPを確認してみる。
すると確かにかのんからのメールが2件ほど来ていた。
急いでいたせいかメールの受信を見逃していたようだ。
「『ラーメン屋の店員』と、
『店主の娘』か。なるほどな」
「割とありがちな設定だと思うけど、テンプレな攻略法とかあるの?」
「当然だ。栞のように場所固定キャラは何も考えずに通うだけでイベントが期待できる。
非常にやりやすい相手と言えるな」
「そっか。じゃあ私が手伝える事はあんまり無いかな?」
「そうなるな」
最初は攻略は僕の仕事だったはずなのに、ずっと手伝ってもらってたからな。
純粋にギャルゲー的恋愛による攻略って久しぶりじゃないか?
…………栞以来な気がする。
「この後はどうするの? 通うって事は毎日あの店でラーメンを食べるの?」
「それは実に堅実な手だが……もっと効率良くする良い手がある」
「?」
「一つ質問だ。あの店のラーメンは美味かったか?」
「私の個人的な意見だけど、美味しかったよ」
「なら問題ない。エルシィが戻ってきたら動くぞ」
「うん。あっ」
「どうした?」
「……エルシィさん、お金持ってないって」
「……仕方あるまい。行ってくる」
できれば万全の状態で攻略を始めたかったんだが、まあ何とかなるだろう。
僕は物陰から出て真っ直ぐ店に向かい、その扉を開けた。
「いらっしゃいませ! 1名様でよろしいですか?」
「…………」
こちらを見て声を掛けようとしてきたエルシィを一睨みして黙らせ、
「ではお好きな席へお座り下さい」
エルシィとは近すぎず遠すぎない席に座り、こっそりとお金を渡しておく。
後から合流してきたっていう体で接触しても良かったんだが、余計な事をしてあまり変な印象を持たれるのも面倒だ。
「ご注文はお決まりですか?」
「……ラーメンを一つ」
「はい、ラーメン一丁!」
注文してしばらく待つと地味なラーメンが運ばれてきた。
ゲームだとこういう場合、見た目とは裏腹に凄く美味いパターンだが、
かのんが、そこそこ良い物を食べてそうな現役のアイドルが美味いと言っているのだから大丈夫だとは思うが。
…………
凄く、美味いな。
シェフを呼んだり妙なリアクションを取るレベルではないが、普通に美味い。
これなら遠慮なく進められそうだ。
「すいません大将」
攻略対象ではなく、その親の店長に言い放つ。
「僕をこの店で働かせてください!」
攻略を大きく進める為の一言を。