緋弾のoutlaw   作:サバ缶みそ味

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 ブラドとの決着、そして次へのエピローグです


26話 ブラドとの戦い、嵐の前の静けさ

 ブラドの傷の回復は思ったより速い。刀剣による切り傷も弾丸による銃創や風穴も見る見るうちに傷が塞がれていく。

 

「ゲババババ!何度やっても無駄だぞガキ共‼」

 

「んなもん知ってるつってんだろ!」

 

 ブラドは傷一つすらつけることができていない俺達を嘲笑う。弱点である魔蔵を潰さない限りこいつは倒れない、そんな事は知ってる。というよりもそれが目的で攻撃をしてるわけではない。

 

「スヴェン!腹の辺りかっ捌けるか?」

「容易い!」

 

 俺の合図にスヴェンがブラドの真正面へと駆けていく。無駄な事をとブラドはほくそ笑んで爪で斬り裂こうと腕を振るう。

 

「ジャエーケンっ‼」

 

 ブラドの爪がスヴェンに当たる寸前、ジークの気を込めた肘打ちの突進により腕を弾き受け流した。スヴェンは勢いを止めずブラドの腹部を狙って十字に切り刻んだ。ブラドは一瞬の苦痛に顔を歪めるがこの程度の傷もすぐに修復される、無駄の事の繰り返しだと嘲笑おうとした。

 しかしスヴェンの後ろからノブツナが続いていた。ノブツナはポーチからM67破片手榴弾のピンを引き抜いて傷が修復されている最中のブラドの傷口めがけてM67手榴弾をぶち込めた。ノブツナとスヴェンは一気に後ろに下がったその直後、ブラドの体の半分が爆発で吹っ飛んだ。

 あちこちに肉片を散らし、右半分の体が消し飛んでいてもブラドは健在でノブツナ達を絶対に殺すと言わんばかりに唸り睨む。

 

「これでも元気ピンピンとか…しばらくゴア表現のあるクソ映画を見ないで済むな」

「なぬぅ!?キノコ人間は別の意味で面白いだろ!ワスカバジだぞ!」

 

「次はどうするんだノブツナ!回復させる暇を与えない方がいいぞ!」

 

 散らばっていた肉片が血の煙を出しながら消えていき、みるみると筋肉と骨が修復され傷と怪我が治っていていた。スヴェンの言う通りだとノブツナはキノコ人間を語りだすジークを無視して無線機を繋げた。

 

「鳰、次の爆発だ」

『ラジャーッス!巻き込まれないように注意してくださいねー!』

 

 鳰が楽し気に応え、再びカチカチとスイッチが押される音が聞こえた。その直後にブラドの背後にあった工事中のビルから爆発が起きた。すぐ下の辺りで連続した爆発が起きていたようでぐらりと工事中だったビルがブラドめがけて倒れていった。こちらめがけて倒れてきたビルに気付いたブラドであったが傷の修復の最中だったため動けず、ビルに叩き付けられ瓦礫に埋もれてしまった。鳰は爆弾を仕掛けていたと事前に言ってはいたがここまで派手にやるとはとスヴェンは呆気にとられ、ジークはガッツポーズをとっていた。

 

「やったか‼」

 

「いややってねーって」

「こんなのでくたばったら本当に落ちぶれたとしか言いようがねえよ」

 

 ジークは喜んでいたがノブツナとスヴェンはいつでも迎撃態勢であった。二人の予想通り、瓦礫が蠢くとブラドが吠えながら勢いよく飛び出して来た。もはや吸血鬼というよりもこれではまるで狼男だ。

 

「いくらやっても無駄だと言っておろうが‼小賢しい真似をしおっry」

「うっさい」

 

 ブラドが言い切る前にノブツナはTH3焼夷手榴弾を3つピンを抜いて投げ込んだ。放り投げだされたTH3焼夷手榴弾はすぐさま爆炎を発し、ブラドの体を業火で焼き包んだ。

 

「グゥオオオオオッ!?」

 

 炎に包まれたブラドは火だるまになって体をよじらせ悶えだす。その間にノブツナはM727を立ち続けに撃ち込んでいく。

 

「いやいやいやいや!?あんた達やり過ぎでしょ!?」

 

 漸く準備が済んだようでアリア達がノブツナ達の下へ駆けつけるとアリアはギョッとしてノブツナにツッコミをいれようとした。爆発で倒れたビルを叩き付け、出てきたところを焼夷手榴弾で焼き尽くす、ハチャメチャな戦い方に流石の理子も引いていた。

 

「十分すぎるだろ。相手は吸血鬼、幾十年も人間の血を吸い剰え理子を奴隷にしてたんだ。ツケを払うにはまだまだ少ない方だ」

「そうだぞ!りこりんを痛めつけて‥‥りこりんファンクラブ会長の俺が絶対に許さん!」

 

「いやジーク、あんた白雪ファンクラブの会長じゃなかったのよ」

 

 そんなやり取りをしている間にブラドが喧しい程の咆哮をあげた。身を焦がした炎は方向の勢いで消し飛び、全身の火傷が血の煙をあげながら修復されていった。だが傷の回復はできても受けた痛みまでは消えなかったようで歪んだ顔のままノブツナ達を睨み付けていた。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥図に乗るなよクソガキ共がぁぁ‼」

 

 ブラドは叫ぶと瓦礫の中へと片手を突っ込み何やら手探りで何かを探し出した。そして勢いよく手を戻すと4mほどの長さの鉄骨を握っていた。金棒のように持ち迫って来た。流石にあの鉄骨を馬鹿みたいな怪力で振り回されたらまずい、ようやく本腰を入れてきたかとノブツナはキンジの方へ視線を向ける。

 

「キンジ!俺達でブラドの注意を逸らして弱らす、その隙にお前らは魔蔵を狙い撃て!」

「分かってるさ、だが見る限り3か所しか見えてないが‥‥」

 

 ブラドの弱点である魔蔵は4か所存在し、同時にその魔蔵を潰さない限りブラドは倒せない。一か所でも仕留め損ねたらほんの数秒で3つの魔蔵を修復させ振り出しに戻される。

 今視覚で分かるとすれば右肩、左肩、右の脇腹の目玉の様な模様が付いた箇所。4つ目の魔蔵の箇所が分かっていない。ブラドの何処かの箇所に4つ目の魔蔵が隠されているはずだ。すると理子がぴょこんとキンジとノブツナの間に割って入って来た。

 

「視線でバレないようにするためにあえて言わないけど‥‥理子は4つ目の箇所を知ってる、アイツとずっと暮らしてたから‥‥」

「‥‥分かった、それじゃ頼んだ。チャンスは俺達で作る、弾の無駄使いはすんなよ?特にアリア」

「わ、分かってるわよ!ちゃんと狙い撃ってやるんだから!」

「ノブツナ、無理すんなよ‥‥?」

 

 ノブツナはニッと笑ってブラドと応戦しているスヴェンとジークに加勢しに駆けていった。

 

「まずは汚れた血!貴様から叩きのめしてやる‼」

 

 ブラドは怒り任せに鉄骨をスヴェンめがけて叩き付けていった。スヴェンは刀で受け止めるが相手の怪力による打撃に腕に振動と鈍い痛みが響く。

 

「っ!これだから脳筋はむかつくんだ‼」

 

 スヴェンは力を込めて鉄骨を弾かせる。だがその刹那、正面からブラドの拳が迫った。隙をつかれたスヴェンは目を見開く、直撃するかと思いきやノブツナが刀を抜いて受け止めた。

 

「ノブツナ!助かった、流石は俺のライバル!」

「―――――っ!めっちゃ痛てえ!?受け止めても痛いとかどんだけ怪力なんだよこの脳筋ゴリラは!?」

 

 スヴェンの嬉しい一言を無視してノブツナは痛そうに怒鳴っていた。その隙にブラドは思い切り鉄骨を横へと薙ぐ。二人で防ぎ受け止めるが、それでもブラドの力が強く力任せに吹っ飛ばされた。さらに追い打ちをかけようと二人へと迫っていく。

 

「っってえなあ!」

 

 ノブツナは起き上がってM727を撃っていくが弾丸を両腕で防ぎながら迫っていく。その刹那、ノブツナの背後から火の付いた酒瓶が弧を描くようにブラドめがけて飛んできた。酒瓶はブラドの顔面に当たると轟々と燃えだした。

 

「ふぅ‥‥ちょっと焦った。サンキュー、鳰」

 

 ノブツナが後ろを振り向くとモロトフカクテル片手に可愛げにウィンクする鳰の姿があった。鳰はもう一本モロトフカクテルをブラドに投げ込んでノブツナに歩み寄った。

 

「ノブちゃん、ちょっと時間が押してきてるッス」

 

 気づけば遠くで雷が鳴っており、雲行きが怪しい。いつすぐ近くで雷が響いてもおかしくはない、鳰の言う通り時間が徐々に押してきている。

 

「キンジ達もいつでも撃てるようだし‥‥一気に短期決戦で終わらす」

 

 十分に痛めつけれた、後はもう仕留めるだけ。ノブツナはS&WM500をホルスターから引き抜きリロードする。

 

「ジーク、強い一撃をぶち込め。俺とスヴェンであいつを足を止める、鳰は援護を」

「OKっす!」

「ふっ、俺の足を引っ張んなよライバル!」

「任せておけ!」

 

「‥‥せめて返事を統一してくれ」

 

 ノブツナの呟きは虚しくスルーされ、ジークがいの一番にブラドへと迫った。顔に焼き付く炎ををかき消し修復をし終えたブラドは正面から迫るジークを嘲笑う。

 

「わざわざ潰されに来たか、虫めが‼」

 

「白雪ちゃんファンクラブ会長兼りこりんファンクラブ会長の怒りの鉄拳を舐めるなよ‼」

 

 思い切り叩き付けようと振り下ろされた鉄骨を躱し、ジークはブラドの懐まで一気に迫った。

 

「フドォォォォケンッ‼」

 

 ブラドの鳩尾にめがけて愛と怒りと力と気を込めた両手の掌底を叩き込んだ。強力な一撃を撃ち込まれたブラドはカハッと乾いた悲鳴を上げてよろめいた。回復させる暇を与えさせまいとノブツナとスヴェンが駆ける。ブラドは態勢を建て直そうとするが顔面にカラーボールが当たり、視界を遮られ鼻に悪臭がまとわりついた。

 

「うちの特性カラーボールッス、獣のお前にとってはちょー臭いだろうなぁ!」

 

 カラーボールを投げつけた鳰はギザギザの歯を見せてゲスな笑みを浮かべる。獣の姿となっているブラドは視覚も嗅覚も人よりも優れている、だがそれが仇となり人よりも倍の悪臭はブラドを苦しめた。

 ブラドが悶えいる隙にスヴェンはブラドの左脚の脛に峰打ちで思い切り叩き込み、ノブツナは右脚を狙ってS&WM500で撃ち込んだ。両足を損傷したブラドはガクリと膝をついた。

 

「今だ!ぶちかませ‼」

 

 ノブツナの合図でキンジ達はブラドの魔蔵に狙め、引き金を引いた。だが最悪のタイミングかいたずらか、引き金を引いたと同時に稲光が起き、雷が轟いた。アリアは雷が苦手だったようでその刹那彼女は驚いて銃口が逸れた。2丁のガバメントのうち1丁はブラドの右肩に当たる、しかしもう一発の弾丸は逸れてしまう。

 アリアは雷が苦手だったことを既に知っており、彼女の撃った弾丸が逸れてしまう事に気づいたキンジはすかさずその弾丸を狙って撃った。キンジの撃った銃弾はアリアの撃った弾を掠め、彼女の弾丸の軌道を修正させた。

 修正はできたが焦りを募らせた。同時に4つ魔蔵を狙い撃たなければならない。今の一発で4つ目は当たらない、このままでは仕留めることができない。

 

「――――今だ、奴の舌を狙え」

 

 キンジ達を見ていたノブツナは無線機を繋げていた。理子とアリアが撃った銃弾はブラドの左肩、右肩、右脇腹の目玉の模様へと撃ち込まれたその直後、何処からか飛んできた銃弾がブラドの分厚い目玉の模様がついた舌を射抜いた。

 

「ウグゥ!?ウヴゥゥォォォッ!?」

 

 射抜かれたその直後にブラドは苦悶の表情を浮かんで叫び、体中から血を噴かせ悶えたのちに大きな音をたてて倒れた。

 一体何が起きたのかとキンジ達はポカンとしていたがノブツナは満足そうに4つ目の弾丸が飛んできた方向に顔を向けて満足げな笑みを見せて無線機を繋いだ。

 

「ビューティフォー、上出来だぜレキ」

『私は一発の銃弾、貴方の銃弾。必ず仕留めます‥‥』

 

 4つ目の銃弾を撃ったのはレキだった。最初から離れた場所で待機しており、4つ目の魔蔵の場所が分かるまでずっと狙いを定めていたのだった。ノブツナが撃っていた銃弾をブラドは頑なに顔だけは撃たれまいとガードをし、焼夷手榴弾や火炎瓶を顔に受けた時は只管顔を優先的に炎を消そうとしたため、4つ目の魔蔵が顔の何処か、或いは内にあると気付いた。

 

 武器を収めた頃には遠くからパトカーのサイレンとヘリの音が聞こえこちらに近づいているようだ。ようやく吸血鬼を倒せたとノブツナは安堵した。

 

___

 

 やっとひと段落ついたと学園島の公園のベンチでリーフパイを食べながらため息を漏らす。吸血鬼、ブラドの逮捕の手柄はアリアに譲った。スヴェンがバチカンへと連行しようとしていたところをアリアが『こいつはママの裁判の為の重要参考人‼』と怒鳴り散らして譲ろうとしなかったので面倒なので其方を優先させた。お前の母ちゃん、イ・ウーと何か関係あんのかよと思ったが変に突っかかるのはやめた。面倒事はもうこりごりだ。

 

「また授業をサボってるのか、お前は?」

 

 そこへスヴェンが呆れながらやってきた。よし、セロリは持ってないな‥‥?スヴェンはそのまま俺の隣にどかりと腰をかける。

 

「良かったのか?あのツインテピンクロリにブラドを譲っちまって?」

「いいさ、バチカンに連れてこられるよりかは大分マシだ。俺の先輩のシスター・メーヤさん、容赦なく首ちょんぱするだろうし」

 

 首ちょんぱって‥‥バチカンのシスターは怖いなおい。そうだとすれば日本に収容されるのは大分マシだと思えてきた。

 

「久々にお前と組めて楽しかったぜ、ライバル」

「次来るときはセロリ持ってくんじゃねえぞ」

 

 正直言って久々にスヴェンと組んでドンパチやったのは楽しかった。セロリを持ち込んでなければの話だし》レキの方がもっと楽しいがな!だがもうバチカンに帰るのは少し寂しいな、せめてもっとゆっくりしていけばいいのに。

 

「‥‥まだ帰らんぞ?」

「む?何かやる事があんのか?」

「ああ、大使館に行って報告した後、公安0課に言伝をしに行く」

 

 公安0課?確か警視庁公安部にある職務上殺人を容認している『殺しのライセンス』を唯一持つ公務員達のことだ。全員化け物と言わんばかりの強さを持ってるし、一度無理矢理と言わんばかりのヘッドハンティングをくらったことがある。チュドって逃げたけど。そんな公安0課に何か用事でもあるのだろうか‥‥

 

「言伝って何を言うんだ?」

「ああ‥‥『アーカムが動いた。奴等は日本に来る』ってな」

「アーカム‥‥?」

 

 アーカム?聞いたことがないな‥‥まさかそいつもイ・ウー関連じゃないだろうな?

 

「スヴェン、そのアーカムってなんだ?」

「‥‥ノブツナ、悪い事は言わん。もし武偵を続けたいのなら、アーカムには関わるな」

 

 いつもふざけているスヴェンがここまで真剣な表情で言ってくるとは思いもしなかった。スヴェンの形相に俺はたじろいでしまった。

 

「そ、そんなにヤバい奴なのか‥‥?」

「ハッキリ言ってイ・ウーがごっこ遊びなら、アーカムはガチだ。アーカムは中東、アフリカの裏社会を牛耳り、各地でテロや破壊活動をして暗躍している」

 

 テロや破壊活動て‥‥そんな派手なことをして何故公に明かされない?俺の疑問にスヴェンはポンと肩を叩いて立ち上がる。

 

「ノブツナ、世の中には()()()()()()()()()()()()()()()()()が起きている。アーカムはそういった戦いをする、『N』と並ぶヤバい連中だ」

 

 今度は『N』とか知らんワードまで出てきた‥‥そんなヤバい連中が日本に来るって‥‥

 

「何でそいつらは何で日本に来るんだ」

「考えるとすれば恐らく、緋緋色かウルス‥‥いや、これ以上話すとお前が首突っ込む」

 

 緋緋色?そしてスヴェンも『ウルス』と口にした。もしかしてスヴェンなら『ウルス』の何か知っているんじゃないのか?

 

「なんだよ、ブラドを手伝えって言ったくせにそいつは手伝えって言わねえのか。俺でも力になるぞ」

 

「‥‥願わくばそんな事がねえといいがな。じゃあな」

 

 俺に関わってほしくないようで、スヴェンは軽くあしらって去ろうとした。が、ピタリと止まってジロリと俺の方へ顔を向けた。

 

「‥‥もし、アーカムやN‥‥世界に喧嘩売れる覚悟があんのなら、力を貸してくれ」

 

 そのままそっぽを向いてスヴェンは手を振って去っていった。世界に喧嘩を売る‥‥あいつはそんなにヤバい連中と戦うつもりなのか。あいつ一人だけ戦わせるわけにはいかない、俺も何かできないのか。

 悩んでいると携帯が鳴った。こんな時に電話を掛けてきたのは誰かと確認したら、電話の主は鳰だった。

 

____

 

 場所を移動して今度は人工浮島の南端の廃ビルの屋上へと向かった。ドアを開けると風が少し強く吹いており、屋上には鳰がメロンパンを食べながら待っていた。

 

「ノブちゃーん、遅いっすよ。待ちきれなくてノブちゃんの分も食べちゃったっすよ」

「いらねえよメロンパン‥‥」

 

 こんな事の為に呼んだわけじゃないだろうに。肩を竦めて呆れていると、鳰は察したのかいそいそとメロンパンを食べて完食させた。

 

「‥‥さて、ノブちゃん。うちとの約束覚えてる?」

「忘れた」

「ひどすっ!?」

 

 ジョークだジョーク、そのしょげたアホ毛をどうにかしろ。鳰との約束は覚えている。ブラドの一件を手伝ったら鳰が俺の知りたい事を教えてくれる、という約束だ。

 

「つっても知りたい事ねえ…思いつかないがなー」

 

「またまたー、とぼけちゃってー‥‥‥‥ノブちゃんはレキレキの秘密とウルスの事を知りたいんでしょ?」

 

 鳰はふざけた表情から一変して企みを込めた笑みを見せた。図星はできない、本当はレキの事やウルスの事を知りたい。だがもしレキの秘密を知ってしまったら俺はレキにどう表情を見せたらいいのだろうか、今だに迷いがあった。

 

「ノブちゃん‥‥避ける事はできないっすよ、もう片足突っ込んじゃってるんだから。レキレキをずっと傍にいさせたいのなら、知っておくべきっす」

 

「‥‥鳰、教えてくれ。ウルスってなんだ、ウルスの姫ってなんだ?」

 

 もう引き返すことはできない。スヴェンもウルスの事を知っていて、鳰もウルスの事を知っている。俺だけ知らないという訳にはもうできないのだ。

 

「そうっすね‥‥まずはウルスから。ウルスってのはロシアとモンゴルの間の場所に隠れ住んでいる少数民族。ウルスは弓や長銃に長けた部族であり、レキレキはその出身っす」

 

 本当に存在していたとは。レキが時々言っていたので中二病的なものかと思っていたが彼女が本当にウルスの民とかの存在だとは思いもしなかった。

 

「レキはウルスの姫と言っていたが‥‥」

 

「どっかにいるとは思ってたけどうちもレキレキがウルスの姫だったとは知らなかったス。これはびっくりしたけど‥‥ウルスの姫の役目は知ってるっすよ」

 

 役目‥‥?レキに何か役目か何かあったのか?

 

「まあ簡単な役目ッス。ウルスの姫は『ある物』の為に共にあらなければならなかった。それは心を無にする必要があったっス。いわば無感情、無表情ってこと、そうじゃないと『声』を聴くことができないと」

 

 声‥‥?まさかレキが言っていた『風』というやつなのか?そんな物の為にレキは無表情になっていたというのか‥‥なんだろうか、考えるだけでなぜかムカッときた

 

「鳰、その『ある物』ってのは知ってるのか?」

「モチの論!でもノブちゃん、それを知ったらノブちゃんは世界に喧嘩を売る事になるけど、覚悟はできてるっす?」

 

 世界に喧嘩を売る‥‥スヴェンも言っていた。それはそんなにヤバイのか?もし知ったらレキはどうなる‥‥何故かどこかで心の迷いが生じた。迷いに気づいたのか鳰はヤレヤレと肩を竦めた。

 

「ま、腐れ縁のよしみで特別サービスで教えるっす。レキ、これは漢字で『蕾』と『姫』と書いてモンゴルじゃ超有名な人の直系の姫の名前で、そしてウルスの民は彼女を奉り『ある物』と姫の為守り戦ってるっす。そんでそのある物ってのが‥‥璃ry」

 

 鳰が告げようとしたその時、俺の背後からハイマキが鳰めがけて牙を剥いて飛び掛かって来た。鳰は慌てて避けて距離をとる。ハイマキは唸り声をあげ、牙を剥いて殺意を込めて鳰を睨んでいた。いきなりのことで俺は驚いていたが鳰はヤレヤレと肩竦めて苦笑いをした。

 

「ノブちゃんごめん‥‥これ以上話すとうちがレキレキに殺されるっす。てなわけで後は自分でググってくださいねーっ!」

 

 鳰はウィンクして懐から煙玉を取り出して俺とハイマキの足下に投げつけた。バフンと白い煙が噴き上がり視界を遮った。風が吹いてやっと視界が鮮明になった頃には鳰の姿は無かった。

 レキが鳰を殺す勢いとか‥‥よっぽど知られたくないことでもあるのだろうか。ある程度の事は知れたが、まだまだ知らない事が多い。どうやって調べるか‥‥立ち尽して考えていたらハイマキがワン!と吠えてきた。分かったって、今は調べないから吠えるなって

 

 

「ノブツナさん、大丈夫ですか…?」

 

 気が付けば俺の後ろにレキがいた。ハイマキがいたという事はレキもいるだろうと考えていたがこんな近くにいたとは‥‥レキはドラグノフのスコープを覗きながら辺りを見回す。

 

「鳰さんはもうこの辺りにはいませんね‥‥次、ノブツナさんに近づこうとするのなら今度こそ仕留めます」

 

 ちょ、レキ、怖いよ!?本当に殺す気満々じゃねえか!?ギョッとしている俺にレキは歩み寄って来た。

 

「けがはないですか?」

「あ、ああ‥‥大丈夫、です」

「私は貴方のモノ、貴方の武器であり銃弾。私は貴方に害するものには守る為に容赦なく戦います」

 

 レキさん?それを世の中ではヤンデレっていうんですよ?お願いだから物騒な事は言わないで‥‥と言おうとしたら、レキがポンと俺の胸へと寄りかかって来た。

 

「‥‥ノブツナさん、私の事を知ろうとしていましたか?」

「っ!あー‥‥ナンノコトカナー」

 

 今はレキに本当の事を話してもらおうとは思えなかった。もし知ってしっまたら‥‥俺はどうなるんだ。俺にそんな覚悟があるのか‥‥心の中では迷いがぐるぐると渦巻く

 

「ノブツナさん、約束してください‥‥私を、本当の私を知ろうとしないでください」

 

 レキは俺の顔を見上げて告げた。無表情で無感情と言われた彼女の琥珀色の瞳が揺らいでいた。これは不安だ、不安と何か怯えているような表情をしていた。心がないなんて嘘だ‥‥彼女には今、感情があった。

 

「今‥‥今の私は貴方を失いたくありません」

 

 レキが静かに懇願してきた。だが今後、俺は本当の彼女の事を知らなければいけないはずだ。知るべきなのか、知らない方がいいのか‥‥迷いは止まることがなかった。

 

「‥‥もし知ろうとしたらどうなる」

 

「『風』が告げてきました‥‥貴方が本当の私を知ろうとするのなら‥‥貴方は死ぬと」

 

 

 また死ぬて‥‥風さん、相当俺を殺したいらしいな




 
 無理矢理繋げてしまいましたが‥‥シカタナイネ

 パチスロでレキによるブラド討伐の演出、超感動した(オイ
 レキにもっと活躍を‥‥

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