緋弾のoutlaw   作:サバ缶みそ味

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24話 泥棒大作戦(誤

 紅鳴館に潜入して4日、キンジは紅鳴館の玄関内の掃除の最中であった。掃除とはいってもこの防犯カメラ等のこの館内の防犯設備やこの館の管理人である小夜鳴の行動を観察をしていた。

 事前に理子が調査した通り、あちこちに防犯カメラがしつこいと言っていい程に設置されている。防犯カメラの視界を避けつつ行動パターンを調べるのは骨が折れる気がしてならない。それに加えて泥棒の準備までやらねばらないというのだから少しぐらいアリアも手伝ってほしいとため息をついた。

 

 その刹那、ふと腐った海のような臭いが漂ってきた。何の臭いかと不審に思ったキンジは辺りを見回す。だが周りには今自分一人しかいない、その上腐った海のような臭いはいつの間にか消え失せていた。

 

「キンジ!何ぼさっとしてるのよ!」

 

 先程の臭いは何だったのかと不思議に思っていたが、アリアがプンスカしながら階段から降りてきたので気にするのはやめた。どうやら今日もアリアは何か不機嫌らしい。キンジはやれやれと肩を竦める。

 

「大丈夫だってアリア、怪しまれないようにちゃんとやってる。そっちはどうなんだ?」

 

「問題はないわ。でも事前調査した時よりもセキュリティが厳重になってるのって気持ち悪いわよね‥‥ほら、部屋の掃除で見つけたのだけど、盗聴器があったわ」

 

 アリアは回収した盗聴器を見せ、キンジは「マジか」とため息を漏らす。この館に潜入してその翌日にアリアが掃除した際に地下金庫のセキュリティが事前調査された時よりも強化されていたことに気付いたのだ。物理的なカギを筆頭に、磁気カードキーや声紋キー、指紋キーに網膜キー、更には室内の赤外線に加えて感知床と厳重に守られていたのだ。当初の予定であった地下金庫へ正面から盗みに行くはずが変更にされた。

 

「それでキンジ、そっちは順調なの?期日まで間に合うのかしら?」

 

 ハウスキーパーの仕事の期間が近づいている。だからアリアは不機嫌になって急かしてきたのかと悟ったキンジは少しムスッとなって言い返す。

 

「こっちは只管掘っているっていうのにお気楽だな。理子のプラン通り、最終日に決行できるよう掘り進めているから問題ない」

 

「へぇー‥‥そう」

 

 一瞬、アリアがつまらなさそうに目を細めギザギザの歯を見せて笑った仕草が見えた。見間違いかとキンジは目をこすって確かめるがアリアは背を向けて去ろうとしていた。

 

「邪魔して悪かったわね。キンジ、ちゃんと頑張りなさいよ?」

 

 そう言ってアリアは去っていった。彼女の態度と様子にキンジは不思議に思い首をを傾げた。普段の彼女なら子供の様にプンスカと喚くのだが今日はどこか大人しく、艶めかしかった。まだ昨日のアリアの苦手な雷の事を引きずっているのだろうかと考えたが、アリアの事だからどうせすぐに元気になるだろうとキンジは結論を出し、自分の仕事を取り組むことにした。

 

___

 

「鳰、ずいぶんとお冠だな」

『ノブちゃん‼当ったり前じゃないっスか‼怒るのは当然っスよ‼』

 

 今日も夜の定時報告の電話を行うのだが、今回の鳰は物凄く機嫌が悪い。よほど気に障ることがあったのか、キンジ達が何かやらかしたのだろう。今も尚鳰には幻術や変装を駆使して紅鳴館内に潜入してもらっており、キンジ達から情報を盗んだりして報告をしている。

 

「で、セキュリティが強化された結果、あいつらどう出るって?」

 

『あいつらの考えた計画なんだと思うっスか‼なんと地下金庫の真上、遊戯室から掘って穴開けてそっから釣り上げるっスよ‼』

 

 あぁ、そういう事ね‥‥地下金庫のセキュリティが厳重になったから今度はそのセキュリティが掛かってない場所、地下金庫の真上から攻めると。まあ確かにセキュリティを回避する為にはそれらしい考えではあるが、デメリットが多すぎる。『私達がやりました』という証拠が残ってしまうし、発覚した際内部犯行だと疑われ真っ先に容疑者にリストアップされる。また地下金庫なのだから壁や天井は頑丈にされているはず、どうやって穴をあけるのやら。

 

『痕跡や疑われる証拠を残さないようにするのが怪盗でしょ!?ナニコレ!?学芸会じゃねえんだぞ!?』

「鳰ちゃーん、鳰ちゃーん?素が出ちゃってる」

 

 鳰がこんなにもブチギレてるのは珍しい。彼女から見て稚拙な作戦だったのだろう。鳰は深呼吸して少し沈黙する。

 

『‥‥ノブちゃん、取り乱してごめんっす。リュパン4世にものすごーーーーく失望しちゃったっスよ。きっとブラドも分かってて見逃してるっスねこれ』

「気にすんなって、報酬のメロンパン増してやっから」

 

 今キンジ達はブラドの手のひらで怪盗ごっこを演じている。これだけ強化されたセキュリティをどう掻い潜るか見ものだったのだろう。

 

「で、話は変わるがどうだ?盗れそうか?」

『赤外線と鍵だけだったらうちの変装でもバレないし、指紋や磁気カード、声紋だったら余裕っスけど網膜は厳しいっスね。目玉を抉るのはダメだしレプリカの作成は期日に間に合わないッス』

 

 網膜は流石に厳しいか。後は感知床も設置されているから管理人の小夜鳴の足、靴のサイズ、体重等々、それらに合わせて足のレプリカも作成しなければならない。それらを作っている間にキンジ達がロザリオを盗んでいくから間に合わない。

 

 

 

 

 まあ予想の範疇なんだけど

 

 

「そんじゃ鳰、でっちあげるとするか」

『了解っス!』

 

 携帯の通話を切り定時報告を終えて、俺のコーヒーをセロリのジュースにすり替えようとしているスヴェンに拳骨を入れ、ハイマキと戯れているジークにテーブルに置かれいるセロリを投げつけ、うたた寝をしているレキを起こす。

 

「スヴェン、ジーク、予定通り進めていく。大使館と警察の方にはちゃんと知らせているよな?」

 

「モチの論だぞ!何時でもオッケーだと渋川さんが言ってた」

「事前に伝えておいた。あちらは是非ともやってくれと大層喜んでいたぞ」

 

「よし‥‥後は任せとけ」

 

___

 

 

「ほぉー…キンジがこんな所におるとは思いもしなかったなー」

 

 インターホンが鳴って客人化と確かめに向かうと紅鳴館の門前にノブツナとレキがいた。レキはまだしもよりにもよって今会いたくない奴に出会ってしまうとは‥‥ノブツナは俺を見ながらニヤニヤしながら笑って小突いてくる。

 

「ノブツナ、お前何しに来たんだよ」

「あぁ、小夜鳴先生に課題のレポートを提出しに来たんだ。この館の管理人だと聞いてたのだけど、小夜鳴先生はいらっしゃるのかな?」

 

 ノブツナは「お前執事の方が似合ってるじゃん?」と茶化してくる。皮肉にしか聞こえていないのだけど?

 

 果たしてこのまま通していいのかと悩む。こいつのことだから何かしでかしてくるに違いない。そんな事を考えてたら小夜鳴先生がやってきた。なんとタイミングが良いのか悪いのか‥‥小夜鳴先生はニコニコと二人を迎え入れた。

 

「いらっしゃい犬塚くん、レキさん。ご用件は何かな?」

「溜まりに溜まった課題が漸く終わったので提出しに来たんですよー」

 

 ノブツナがそう言うと鞄から分厚すぎるファイルを3つ程取り出した。一体何をしたらそんな分厚いレポートが出来上がるんだよ。小夜鳴先生も流石にこれは苦笑いのようだ。

 

「それなら学校で提出してくれれば助かるのだけどね‥‥」

「何言ってんすかー、俺とレキはサボり魔なんですから学校で出せるわけないじゃないすか」

 

 ノブツナは笑いながら答え、レキはうんうんと何度も静かに頷く。いやお前らそもそもサボるんじゃないよ。

 

「こ、ここでお話するのもあれですし、二人とも折角来てくださったのですから中で紅茶でも飲みませんか?」

 

「え!いいんですか!いやー一度でもいいからこんな立派なお屋敷で寛いでみたかったんだぜー!」

「‥‥いただきます」

 

 小夜鳴先生のご厚意でノブツナとレキは紅鳴館の中へと入っていった。途中、メイド服を着ているアリアを見てノブツナが大爆笑をしだし、アリアに蹴られた。

 

「やべえ、アリアのやつぺったんこ。それ着るとぺったんこが分かりやすいなおい」

「あんた‥‥もう一度風穴地獄を味わいたいの?」

 

 アリアの逆鱗に触れたノブツナはアリアのチョークスリーパーの餌食に。ノブツナが悲鳴を上げている間にレキは黙々と紅茶を飲みながらケーキを平らげていく。本当にこいつら何しに来たんだよ。何とか解放できたノブツナがほっと安堵しながら辺りを見回す。

 

「それにしても小夜鳴先生、お一人で住むには広すぎなんじゃないです?」

「あははは‥‥私は研究に没頭してますから確かに私一人では広すぎですね」

 

「それと、中も随分と古そうですし‥‥年代物もありそうですよね?持ち主の方は結構年配の方じゃありません?」

「お恥ずかしながら‥‥彼とは直接話したことが無くて。ですが君の思った以上の方と思いますよ」

 

 気のせいだろうか、ほんの一瞬だったのだが小夜鳴先生がピクリと眉間にしわを寄せたような。ノブツナの事だから教員に容赦なく気を逆撫でる事を言うからな‥‥

 

「ところで‥‥もしかしてメイド服とか沢山あります?」

 

 ノブツナが物凄く真剣な眼差しで尋ねる。たぶん、碌な事を考えてないな此奴。ノブツナの謎の威圧感に小夜鳴先生は押されて引きつった笑みで頷く。

 

「え、ええ、ありますが‥‥」

 

「‥‥レキに着せちゃってもいいっすか?」

 

 うん、やっぱりか。

 

「ま、まあ‥‥か、構いませんが、て、テイクアウトはできませんよ?」

 

「っしゃあ‼ありがとう小夜鳴先生!本当にありがとう‼レキ、メイド服に着替えてくれ、いや着替えてくださいっ‼」

 

 ノブツナが黙々とノブツナの分のケーキを食べているレキに向けて土下座をしだした。おい、どんだけレキに着せたいんだお前は。というかレキ、お前は平然としすぎだ。

 

「‥‥ノブツナさんが望むのなら」

 

「おぉ…メシア…!」

 

「レキ?一度でもいいから断ってもいいんだぞ?」

 

「じゃ、じゃあ私は研究の続きをしますので‥‥犬塚くん、レキさん、ご自由に館を楽しんでください。遠山くん、神崎さん、後はお願いしますね?」

 

 あ、小夜鳴先生の奴、ノブツナの暴走に巻き込まれる前に逃げた。ノブツナはレキがメイド服に着替えてくれるからと言って喜びの舞いをしだしてどっか走り出して行きやがった。

 

「ほんとあいつ自由すぎるわよ…キンジ、私はレキの着替えを手伝うからあんたはノブツナを捕まえておきなさいよ?」

 

 げっ、アリアの奴も面倒事を俺に押し付けてレキを連れてメイド服のある自室へと向かっていった。仕方がない、あいつが何かしでかす前に探さないと。

 

 螺旋階段を上がって二階へ、一階のフロアへ、廊下や各部屋を覗くがノブツナの姿が一向に見つからない。本当に何処へ行った。確かにあいつの言う通り、改めて見ると本当に広すぎる屋敷だ。いたずらで隠れているんじゃないかとあちこち見渡しながら進んでいると、どこかで写真を撮る音が聞こえた。

 音がしたのはいつも小夜鳴先生が食事をとる広い食堂だ。駆けつけてみると、ノブツナが食堂の奥に置かれている真鍮でできた如何にも年代物と思えるような燭台を持っているカメラで写真を撮っていた。

 

「ノブツナ、ここで何をしてたんだ?」

「おうキンジか、写真を撮る準備だ。メイド服のレキの写真は永久保存しておかねえと」

 

 お前どれだけレキのメイド服姿を見たいんだ。欲望丸出しのノブツナを呆れて見ているとそこへアリアがやってきた。

 

「あんた達探したわよ。ほらノブツナ、お望み通りレキを着替えさせてあげたわよ?」

 

 アリアがやれやれとため息をついて、レキを連れてきた。レキは赤いリボンのついた襟元にレース素材を組み合わせた長袖のワンピース、白いフリルの付いた丈の短いスカート、小さなお帽子のようなヘッドドレスと理子のいうクラシカル調なメイド服を着ていた。そんなメイド服のレキを目の当たりにしたノブツナは案の定喜び発狂した。

 

「FOOOOOOOOOOOOOっ‼」

 

 ノブツナはアリアがその場でドン引きするくらい、あらゆる角度からレキを激写していく。

 

「ノブツナさん、どうですか‥‥?」

「いいっ…めっちゃいいっ!すっげえ似合ってるぜ!」

 

 国宝級だとか言ってノブツナは大喜びしてレキを撫でる。もうこれ以上つっこまんぞ‥‥

 

 この後ノブツナはメイド服のレキを館内へとあちこち連れ回したり、遊戯室でビリヤードしたり、メイド服を持ち帰ろうとするノブツナを全力で食い止めたり、二人が帰るまで俺とアリアは振り回された。夕方になって二人がやっと帰る気になって門前まで送る。

 

「ねえメイド服、こっそり持って帰っちゃダメ?」

「ダメに決まってんだろうが」

 

 どこまで執念深いんだ、お前は。諦めてないノブツナは無理にでも持ち帰るかもしれないので俺とアリアで足蹴して追い出した。

 

「や、やっと帰ったわね‥‥本当に何しに来たのよあいつ」

 

 アリアも今回ばかりはかなりくたびれた模様。ノブツナの奴、自由すぎるやつだからな‥‥願わくばまたやってきて欲しくないのだが。

 

「というか、今日の分掘り進めれなかったのだけどどうするの?」

 

 そうだった‥‥ちくしょう、ノブツナ達のせいで明日は倍に掘り進めなきゃならなくなった。あれ結構力仕事なんだよなぁ‥‥

 

___

 

 何日か過ぎて、遊戯室の下を掘り進んで何とか地下金庫の天井に孔を開けることができた。そして理子がお待ちかねと泥棒作戦を決行しようとした。

 

 そのはずだった。その泥棒作戦当日、またしてもノブツナがやってきた。

 

 だが、今日はレキを連れてきていない。その代り、幾人かの警察や黒いスーツを着た外国人達を連れてやってきたのだ。ノブツナの後ろにいる警察とスーツを着た外国人達が異様な圧を放っていて俺とアリアは圧される。

 

「の、ノブツナ‥‥そいつらは何だよ」

 

「‥‥キンジ、アリア、騙して悪いが仕事なんでな。黙って通してくれねえか?」

 

「どういうつもりよ!?ちゃんと説明しなさい!」

 

 異様な事態に小夜鳴先生が慌てて駆けつけてきた。まさか生徒が警察を連れてくるとは思いもしなかったであろう。

 

「い、犬塚くん‼これは一体どういうことなんです‥‥!?」

 

「小夜鳴先生、説明をする前に先に紹介しておきますね。こっちが警視庁の方々と渋川剛気先生、そんでこちらがルーマニア大使館とバチカン大使館ローマ法王庁大使館の方々です」

 

 和服姿の分厚いべっ甲の眼鏡かけた男性が軽い笑みで頭を下げ、後ろのいかつい警察官達もそれに続く。大使館の人間たちはじっと館の方を見ていた。渋川と名乗った男性が前へ出て口を開いた。

 

「詳しい内容はわしが説明しましょう。小夜鳴さん、この館の主であるブラドさんをご存知ですかね?」

「え、ええ…ですがお会いしたことがないので詳しい事は分かりません‥‥その彼が一体何を?」

 

 渋川がちらりとノブツナの方を横目で見つめ、ノブツナは静かに首を横に振る。

 

「実はですな、そのブラドという男はルーマニアを始めあらゆる国から宝を奪い盗んでいるのですよ。その宝は各地の拠点にコレクションとして置いている‥‥この紅鳴館もその一つだと。そしてそんブラドが日本におるとバチカン教会からバチカン大使館を通して知らされ、ルーマニア大使館の方々が被害届を出してわしらと犬塚に依頼してきたわけですよ」

 

 話を聞いてまさかとアリアがノブツナを睨んだ。あの時紅鳴館へ訪れたのはその捜査が本当の目的だったのか。

 

「で、ですが‥‥その物品があるとは思いもしませんが‥‥」

「小夜鳴先生、それがあるんですよ。ここへ訪れた日、捜査して見つけました」

 

 ノブツナは懐から真鍮の燭台の写真を見せた。その写真は間違いなくノブツナが食堂で撮ったあの燭台が写っていた。

 

「ルーマニア大使館の方に確かめてもらったところ、60年前にブラドが奪っていったという教会の燭台と一致しました」

 

「他にもこの紅鳴館にブラドが奪ったと思われる物品がある可能性がある。悪いですが家宅捜査させていただき、物的証拠として押収させてもらいますよ?ああ勿論令状もありますがね」

 

 警察の一人が令状を取り出して俺達に見せてきた。令状がある限り門前払いにするわけにはいかない。小夜鳴先生は苦虫を嚙み潰したような顔をして彼らを中へと入れていく。何だろうか、嫌な予感がしてきた。アリアも同じ予感をしているようで額に冷や汗を流している。ノブツナはずかずかと進んでいき、ちらりと小夜鳴先生の方へと視線を向けた。

 

「それじゃみなさん‥‥まずは地下金庫から行きましょう。小夜鳴先生、案内をお願いしてもよろしいですか?」

 

「「「 !? 」」」

 

 俺とアリア、小夜鳴先生は目を見張って驚愕する。何故ノブツナが地下金庫の事を知っているんだ!?いや、それよりも非常にマズイ、地下金庫にある理子のロザリオまでもが押収されてしまう。

 

「な、何故犬塚くんが地下金庫の事を‥‥?」

 

「バチカンにブラドを追ってる腐れ縁と優秀な潜入捜査官がいましてね。彼らの情報で地下金庫にブラドが奪った宝を保管していると聞きまして‥‥開錠をお願いしてもいいですか?あ、できなかったら俺らで爆弾とかで爆破してこじ開けますから、鳰ちゃーん!」

 

 ノブツナが呼びかけるとノブツナの背後から金髪の少女がひょこりと出てきた。いつの間にいたのか、気配すらしなかったぞ…!?

 

「鳰、用意できた?」

「モチの論っス!ドリルと火薬‥‥あ、C4はダメっスよね?」

「んー‥‥いいんじゃない?小夜鳴先生?」

 

「‥‥今すぐ開けますので待ってくださいね‥‥」

 

 屋敷内が爆破されて大惨事にはなりたくないだろう、小夜鳴先生は静かに警察官と大使館の人間を地下金庫へと案内していった。ノブツナと鳰も向かおうとする前にアリアがノブツナの腕を掴んで睨み付けた。

 

「あんた‥‥最初っからわかっててやってたの?」

 

 今すぐにでも殴り掛かる勢いだったので慌ててアリアを止める。アリアがここで手を出し怒りに任せてしゃべってしまうと自分達が地下金庫のロザリオを盗もうとしたことがバレてしまう。

 

「何の事かわらんな‥‥まあお前らのおかげでルーマニアの奪われた宝が戻ってくるんだ、協力感謝するぜ」

 

 明らかに皮肉だ。これには俺もムッときて睨み付ける。ノブツナは苦笑いして首を横に振った。

 

「あー…悪い、これはヒドイ言い方だったな。だがこれも武偵として仕事をしたまでだ」

 

 ノブツナと鳰はそのまま地下金庫へと向かっていった。理子にどう伝えるべきか‥‥今、理子にこの状況を伝えるべきじゃない。すると立ち尽している俺にアリアが思い切り蹴ってきた。

 

「いでっ!?ちょ、何すんだよ!?」

「突っ立ってる暇はないでしょ‼私達も行くわよ。隙をついてロザリオを盗るしかないわ‥‥!」

 

 もう泥棒作戦は失敗して滅茶苦茶になっている。意地でもなんでもロザリオを取り返すしかない。急ぎ俺達も地下金庫へと向かった。

 

 セキュリティがすべて解除された地下金庫では警察官や大使館の人達があれやこれやと写真や資料を見比べながらブラドが奪ったであろう品々を段ボールへと入れて押収していた。言っては悪いと思うがまるで魚市のようだ。

 

「こんなにも奪われた宝があるとはのう‥‥犬塚、ブラドって何もんじゃ?」

「あー‥‥渋川さん、気にしない方がいいです。絶対に徳川さんとか愚地さんとか喰いかかてくるから、面倒になるから」

 

 その中にノブツナも混じって物品を調べるながら押収していっていた。ノブツナがあんな苦笑いして誤魔化そうとしているのは珍しい。

 

「ノブちゃーん!これはどうするっスかー?」

 

 ふとそこへ鳰がノブツナに駆け寄って奪われた物品を見せた。それは青い十字架のロザリオだった。ふとそこへ携帯が鳴ってた。おそらく理子からだろう、本当は聞くべきじゃないのだが‥‥俺はインカムをつけた。

 

『キーくん‥‥状況は最悪だよね‥‥滅茶苦茶だよね‥‥?』

 

 理子の声に力がない。いつもなら茶化してくるが、理子も外から状況を察しているのだろう。

 

『どうして‥‥どうして!?理子の計画にミスはないはずなのに‼なんで、なんであいつがいるんだよ‼」

「理子、落ち着いてくれ‥‥!」

『キーくん…お願い‥‥理子の大事なロザリオをあいつらに押収される前に奪って‥‥‼』

 

 無茶な頼みだ。だが、もうこれしかチャンスがない。確か理子の大事なロザリオは‥‥青い‥‥十字架のロザリオ‥‥最悪だ、最悪の状況だ。今そのロザリオはノブツナが持っている。

 

「どうすっかなーこれ」

 

 ノブツナはまじまじと青いロザリオを見つめている。どうする‥‥どうやってあいつから奪う‥‥警察や大使館の人達に渡ってしまったらおしまいだ。するとノブツナは懐から小さな小箱を取り出してその青いロザリオをしまった。嫌な事に俺達を見ながら、だ。

 

「渋川さん、ちょっとバチカン協会から来た腐れ縁に確かめてもらわないと分からないものがあったんでこれだけ押収して先帰りますね」

「おーう、でも調べたらちゃーんと返すんじゃぞー」

 

 ノブツナは鳰を連れて先に帰ろうとしだした。

 

「待ってくれノブツナ!そのロザリオは‥‥!」

 

 帰ろうとするノブツナを止めようとしたがアリアが腕を掴んで止められる。アリアは悔しそうに首を横に振る。俺達は表向きではハウスキーパーとして来ただけでロザリオの事なんて知らない。この場には小夜鳴先生もいる、もしロザリオの話でもしたら怪しまれてしまう。

 ノブツナはピタリと止まって俺達の方へとちらりと顔を向ける。

 

「ロザリオ…?これにどれだけの価値があるのかは俺は知ったこっちゃねえがな」

 

 これ絶対理子が聞いたら怒り狂うだろうな‥‥インカムからは理子の涙の慟哭の声しか響いてないから聞こえてはないだろう。悔しいが今は何も言い返せない。

 

「‥‥だが、誰かの大事な家族の大切な物だったのなら、謝って返すさ」

 

「それはどういう‥‥」

 

 ノブツナがどういう意味で言ったのか、分からなっかったがノブツナは俺の耳元でささやいた。

 

「――――深夜、人工浮島の南、道路工事現場に来い。持ち主連れて来いよ?」

 

 それだけ告げるとノブツナは手を振って帰っていった。ノブツナが何て言ったのかアリアは不審そうに首を傾げて尋ねてきた。

 

「キンジ、あいつなんて言ったのよ‥‥?」

 

「――――くそっ‥‥あいつ、全部知ってやがった」

 

 

 

 

 

 

「ノブちゃんも甘すぎっスよー。」

 

 鳰は相変わらずギザギザの歯を見せてゲスな笑みを浮かべる。鳰の嫌いなイ・ウーの奴等に一杯食わせたのだから上機嫌のようだ。

 

「別に蹴落とすつもりもないし、助けたまでだ。それにこれでブラドが釣れるんならいいじゃねえか」

 

「まあそうっスね。でも今夜が山場っスよ?」

 

 たぶんブラドの野郎は怒り狂ってるだろうな。間違いなく今夜あいつは殺しにやってくるだろう。

 

「後は餌に誘き出されてくれればいいさ‥‥準備は怠らねえよ」

 




 
 理子ファンの方々、本当にすみませんでした(焼き土下座

 次はいよいよブラド戦‥‥

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