緋弾のoutlaw   作:サバ缶みそ味

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22話 くっころ系姫騎士

 漸く署から出たジャンヌ・ダルク30世は大きくため息をつく。弁護士を通して政府と司法取引を行い、パリ武偵校から留学してきた生徒ジャンヌ・ダルクとして釈放された。

 表向きは一般の武偵として活動することにはなったが、それでもイ・ウーのリーダーの気質を継ぎ純粋に己の鍛錬を目的とするイ・ウー研鑽派として裏では活動するつもりだ。だが司法取引したことでイ・ウーの中でも過激派で世界に対して侵略行為を行うイ・ウー主戦派からは裏切り者のレッテルを張られ目の敵にされるだろう。

 

 しかしそんな事を今気にしている場合ではない。ジャンヌはどうしたらいいか考え込んでいた。弁護士との面会時、面会に来たのは弁護士に変装していた理子だった。武帝殺し事件を起こしたがアリアとキンジとの戦いで失敗に終わった理子はイ・ウーから脱退し、警察に出頭して司法取引し武偵校に戻って来たという。

 

 理子はジャンヌにこれから行う事を話した。理子はアリアの母親の裁判に有利な情報と証拠の提供、自らが出て証言する代わりに、ブラドの日本での活動拠点の一つである横浜の『紅鳴館』の宝物庫に隠されたブラドから奪われた母親の形見を取り返すのに協力するようキンジとアリアに頼むと。

 

 イ・ウーから脱退し、一時的ではあるがブラドからの監視は逃れた。だからブラドが自分を拉致監禁していた証拠を手に入れ仕返しする。そしてもう一度アリアと戦い、ホームズの末裔を倒し初代リュパンを超えようと理子は計画していた。だが理子の計画を聞いたジャンヌは心配でならなかった。

 

(理子は焦っている‥‥)

 

 表は余裕綽々、計画にウキウキしながら話してはいたが彼女には時間がなかった。ブラドが理子がイ・ウーを脱退し逃れていることに気付いていないはずがない、いつまた攫いに来るか分からない。

 

 本当はアリアとキンジに助けを求めているのではないのか?だが彼女のプライドがそれを許していないのだろう、例え正直に言おうとしても嘘で偽って誤魔化すだろう。

 

(理子を助けなくては‥‥!)

 

 ジャンヌは理子を助けようと考えた。だが自分には何ができる、先代もそして当代である自分や理子の力でもブラドには勝てなかった。だからと言って理子の計画に自分が介入することを理子は断るだろう。

 どうしたらいいかジャンヌは悩んだがふとアドシアードでの戦いを思い出した。異能の力には勝てないだろう、不可能だったことを覆した男、遠山キンジ、そして彼の相棒であるアリアがいる。

 

(やはり遠山キンジに託すべきなのか‥‥)

 

 キンジ達が理子に協力するのならばブラドとの戦いは避けられない。彼らはブラドの力も弱点も知らない、ならば彼らに吸血鬼、そしてブラドの事を伝えなくては。決意したジャンヌは武偵校に向かうべく署の前に停まっていた黒いメルセデス・ベンツ、迎えの車へと乗り込んだ。

 

(‥‥?)

 

 車の前で迎えていた黒服の男、恐らく監視員であろう男に誘導されて乗り込んだのその瞬間変わった香りがしているのに気付いた。車内で香を焚いたのかそれとも香水の匂いなのか、気にはなったが両サイドには黒服の男が座ってる為動く事はできなかった。何か香水でも吹きかけたのかと尋ねても彼らは無言のまま何も答えなかった。

 

 ジャンヌは違和感を感じていたがその間に車は動き、進んでいく。このまま武偵校へと向かえればそれで構わないと考えていた。

 進むこと数十分、道路の標識で右折をすれば目的地である武偵校のある学園島へと向えるところを車は左へと左折して進んでいった。

 

「‥‥?学園島へと向かう道を間違えているのだが?」

 

 不審に思ったジャンヌは再び両隣の黒服の男と運転手に尋ねたが彼らは何も答えなかった。これはおかしい、何かが変だとジャンヌは気付いた。彼らは本当に監視官の人間か?今ここで氷の能力を使っておくべきかと考えていたら車は3階建てのパーキングエリアの屋上で駐車した。ここから降りて歩いていけというつもりなのか、それとも‥‥とジャンヌは警戒しようとした。

 

 

 

「‥‥こんなチョロイのがジャンヌ・ダルクの末裔とか、ジル・ド・レェが草葉の陰で泣いてるっスよこれ」

 

 検察官ではない、少女の声が聞こえた。ハッと気づいて振り向こうとした瞬間、自分の首にジャックナイフの刃がが当てられていた。

 

「無暗に動いたら危ないっスよー。あ、でもウチは今すぐにでもキルしたいから斬っちゃうかもしれないっス」

 

 自分の左隣に座っているのは黒服の男ではなかった、黒服を着た少し小柄の金髪の少女だった。少女はギザギザの歯を見せてゲスな笑みを浮かべる。何時からいたのか、そして何故気づかなかったのかジャンヌは驚きを隠せなかった。その時右からゴリッと右側の頭に金属の塊が当てられる。横目で見ると少女と同じように黒服を来た目つきの悪いツンツン頭の青年がFP-45を当てつけていた。

 

「能力を使って暴れようとすれば撃つ。バチカンから殺しのライセンスを貰っている、武偵と違って俺は容赦ねえぞ?」

 

「‥‥何時からいた?」

 

「もー最初からっス。ウチの焚いた香を嗅いでちょーっと惑わらせてもらったスよ。警戒心0で呆れてビックリっす」

 

「幻術か‥‥お前、何者だ?」

 

「おい鳰。そのお香、腐った海みたいな臭いで鼻が曲がりそうだったぞ」

「むー、いい香りだと思うっスけどねー!スヴェンは鼻がおかしいじゃないっスか?」

「ジャパーンのお香はようわからねえな」

 

 ジャンヌの問いを無視して鳰とスヴェンがプンスカと言い争いだす。彼らが一体何が目的なのか、何がしたいのか分からなくなってきた。

 

「‥‥お前達の目的は何だ?」

 

「それはウチらのリーダーがご教授いたすっス」

 

 鳰がジャンヌにウィンクして答えると、運転席からノブツナが助手席からジークが顔を覗かせてきた。

 

「ジャンヌ、ちょーっと俺達に協力してもらおうか」

「よっ!久しぶりだな!これからデートしにいかない?」

 

「っ!?貴様はあの時の‥‥‼」

 

 ジャンヌは目を丸くして驚愕する。ジークの事ははっきりと覚えていた。あの無茶苦茶でこちらの調子を崩してきた男の事を忘れるわけが無い。

 

「貴様‥‥っ‼何のつもりだ‼」

「まーまーそう怒らずにさぁ。それでどこ行く?あっ皆でこれからネズミーランドにでも行こうぜっ!」

「バカ」

 

 大はしゃぎするジークにノブツナはげんこつを入れる。話が進まないのでノブツナは率直にジャンヌに話した。

 

「峰理子が何処にいるのか、これから何をしやがるのか、知ってるだろ。教えてくれねえかな?」

 

「‥‥教えろと乞うならばこの待遇はないのではないか?」

 

 ジャンヌはジロリと睨み返す。彼らの狙いは理子なのか、ジャンヌは警戒して答えようとしなかった。

 

「理子はもう司法取引している、お前は武偵のようだが理子をつけ回す必要がないはずだ」

「これがあるんだな。俺達はその上、ブラドを狙っている。ブラドを捕えるのに彼女の存在が必要なんだよ」

 

 ノブツナの答えにジャンヌはノブツナを鋭く睨み付けた。要はブラドをおびき寄せるため理子を餌として利用するつもりだ。

 

「お前達武偵は仲間を売るのか!?」

「んー‥‥俺は理子がイ・ウーだったとかブラドの奴隷だったとか、正直どうでもいいし気にはしてない。けど鳰とスヴェンが許してねえみたいでさー」

 

 怒って声を荒げるジャンヌにノブツナは宥めるように笑った。

 

「イ・ウーがうちら『葛葉』にやった所業はもう絶許っス。こちとらファッキンイ・ウー精神なので」

「それに峰理子がやった武偵殺し事件‥‥最後の航空機ジャックの件だが、日本政府は許しても外の連中は許してねえみたいだがな」

 

 スヴェンの言葉にジャンヌはどういう事かと視線を向けた。するとジークがジャンヌにファイリングされた書類を渡した。

 

「あの時600便に乗っていた乗客者のリストだ。その中に中東のお偉いさんを始め各国のお偉いさんも乗ってたみたいだねー」

 

 ノブツナは他人事かのようにわざとらしく話してきた。

 

「中にはイ・ウーをぶっ潰したい諜報機関とかの知り合いとかいるお偉いさんもいるみたいでさー‥‥スヴェンはその知り合いだという上司がいるみたいだし、理子のことちくるかもしれないねー」

 

「貴様‥‥‼それでも武偵か‼」

 

「だから言ってるだろ、俺は知ったこっちゃねえって。事を荒げずに穏便に済ましたいから頼んでるじゃねえか」

 

 怒るジャンヌにノブツナは呆れるように肩を竦めて答えた。ジャンヌは目の前にいるこの男は本当に武偵なのか、疑えて思えてきた。もし話せばこいつらは理子に何かしでかすだろう。ジャンヌは首を横に振った。

 

「‥‥断る。貴様らの要求は飲まない」

 

「‥‥あーうん、そうだろうと思った。『シュート』」

 

 ジャンヌの答えにノブツナはやっぱりと苦笑いし、無線機を持って誰かにつなげた。その瞬間、ジャンヌの横顔に何が掠めた。一瞬事でジャンヌは見開くが掠めた先を見ると弾痕があり、車のフロントガラスにも同じように弾痕があった。

 

「狙撃‥‥!?」

 

「俺の相棒に狙撃のプロがいてさー‥‥だからお話の場所を屋上にしたんだよ。お前ら元イ・ウーさんは司法取引されても死ななきゃ問題はねえよな?肩を射抜いて、膝を射抜いて二度と剣を持たせないよう車いすか病院のベッドでの生活になっちまうけどいいか?」

 

「司法取引されても()()()()()()()()かもしれないっスよ?世の中には法律に守られても()()()()()()()()()()人とかいるしね!」

 

 ノブツナに続いて鳰もゲスな笑みを浮かべた。彼らの言葉に、彼らは本気でやるつもりだと確信した。きっと黙秘を続けて殺されてもこいつらは力尽くで理子を見つけ、売るに違いない。ジャンヌは悔しくノブツナを睨み付ける。

 

 

「‥‥わかった、話す。その代り、理子には手を出すな」

 

「いいだろう。ま、協力してブラドを捕えるつもりでいたし?鳰、スヴェン、文句は無いな?」

 

 ノブツナの問いに鳰は物足りなさそうに、スヴェンは無言のまま頷き武器をしまった。ノブツナはにこやかにジャンヌに手を差し伸べる。

 

「じゃ、取引成立ってことで」

「‥‥理子を傷つけてみろ、私が貴様を殺しに行くぞ」

 

 ジャンヌは殺気を込めて睨み付け力強くノブツナと握手をした。

 

____

 

「おー‥‥こわかったー」

 

 ノブツナ達は屋上に車とジャンヌを置いて去った。漸く一仕事終えたとノブツナは背伸びをし、無線機を繋げる。

 

「手伝わせてすまなかったな、レキ。先に集合場所の『ラーメン屋百太郎』で待っててくれ」

『ノブツナさんの頼みですから‥‥私は従ったまでです。あと、先に食べてていいですか?』

「お願い、大量に注文しないでね?諭吉消費する程の量を頼まないでね?」

 

 ノブツナはひやひやしながらレキに懇願する。レキの事だからこうでも言っておかないと幾人の諭吉が犠牲となる事か。一方でジークはとてもうれしそうに語っていた。

 

「女騎士独特の睨み付けだったよな!あのくっころの表情‥‥そそるっ!」

 

「もっといたぶってやりたかったスけど‥‥まさかあそこまで騎士(笑)だとは思わなかったっスよ」

 

 鳰は呆れながらため息をついて肩を竦め、ノブツナの方を見て苦笑いをした。

 

「まさかノブちゃんのでっち上げた情報をまるまる信じるなんて、チョロすぎじゃないっスか?」

 

 ジークがジャンヌに渡した情報はまったくの嘘であり、別に理子を売るつもりもなかった。ノブツナはニッと笑ってうなずく。

 

「相手を信じ込ませるには雰囲気づくりが大事だ。スヴェンや鳰もいたし、上手く信じてくれてよかったぜ」

 

 鳰はイ・ウーの事を知っていたし、スヴェンには諜報機関に知り合いがいる上司は本当にいる。だがどちらにしろ理子のことはちくるつもりも仲間を売るつもりも全くなかった。

 

「司法取引しているとはいえ奴は元イ・ウー‥‥あっち側の連中に突き出す気はないのか?」

 

 スヴェンの問いにノブツナはニヤニヤしながら笑う。

 

「おまえ、貴重なロリ巨乳を売り飛ばすようなことするわけねえだろ!あいつのブロマイド写真は高く売れるからな!」

 

 ノブツナは過去に写真部と協力してブロマイド写真を武偵校の生徒達に高く売り飛ばしていた。特に白雪、理子、他特殊捜査科通称CVRの学生は売れている。真実を知ったジークと鳰はプンスカと怒りノブツナに飛び掛かる。

 

「なぬぅ!?バイヤーは誰かと調べていたがお前だったのか‼もっとよこせ!」

「むー!ノブちゃん!うちというバストサイズDの隠れロリ巨乳をほっとくとかありえないっスよ‼」

 

 ノブツナはゲラゲラと笑いながら躱していく。そんな彼らを見てスヴェンは肩を竦めてため息を漏らす。ふとノブツナの携帯からメールが届いた。内容を見たノブツナは顔面蒼白しだした。

 

「ノブツナどうした、作戦がもうジャンヌにばれたのか?」

 

「違う‥‥レキから『まだまだ足りないのでラーメン15人前頼んでいいか』ってメールが‥‥急がねえと俺の諭吉がとぶぅぅぅっ!?」

 

 ノブツナは必死な形相で走り出した。初めて見るノブツナの焦りようにスヴェンは嘲笑いながら追いかけ、写真ヨコセと、隠れロリ巨乳なめんなとジークと鳰が追いかけていった。

 

 尚、ノブツナの財布から幾人かの諭吉が天に召されたという




 
 ダイジョーブ、理子もジャンヌもそこまでひどい目には合わないからダイジョーブ(オイ

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