緋弾のoutlaw   作:サバ缶みそ味

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 セロリは苦手です。

 独特な臭いと苦みが


6月ヴァンパイア
20話 セロリ


 ノブツナは激怒した。必ずかのクソ野郎を仕留めなければならないと決意した。

 

 6月の上旬で梅雨入りし、外はシトシトと雨が降っている。屋上でサボることができないので仕方なしに教室に行くと自分の机に大嫌いなセロリが生け花の如く派手に飾られていた。

 

「‥‥」

 

 ノブツナは無言で己の机を凝視する。よく見ると机の上だけではない、机の中にもセロリが何本も入れられており葉っぱがひょっこりと覗かせていた。セロリ独特の匂いが教室に蔓延する。ざわつく教室をノブツナは見回す。

 

―————やばい、めっちゃ怒ってる。

 

 キンジも武藤も、生徒の誰しもが彼が静かに激昂しているのが一目で分かった。

 

 表情を一切変えず恐ろしい程の真顔なノブツナの視線が生徒達の目に映る。キンジも武藤も、教室の生徒達も一斉に首を横に何度も振る。

 

 誰が彼の逆鱗に触れるようなことを、核爆弾のスイッチを押すようなことをするものか。彼を怒らせては教室が戦場となる。アリアが怒って『風穴!』と言ってガバメントを乱射するレベルではない。

 

 ノブツナを怒らせる、そんな愚行をするような輩は一体誰だ。主犯は一体何者か、生徒達はざわつきながら見回していると、突然掃除ロッカーがガタガタと音を立てながら揺れ始めた。

 

 そして中から白いオーバーコートを羽織ったツンツン頭の目つきの悪い男が蹴り開け、勝ち誇ったような笑みをみえながらノブツナを指さしてあざ笑った。

 

「ふぅーははははぁっ‼どうだノブツナ!貴様の大嫌いなセロリを教室においてやったぞざまあみろ‼そして苦しむがいい!お前はそのセロリの匂いがべったりとついた机と椅子で授業を受け――――――」

 

―———のちに遠山キンジ氏はこう語る。

 

 ええ、あっという間でした。突然ロッカーから飛び出して来た男がノブツナを嘲笑い台詞を言い終える前に、ノブツナが真顔でその男の顔面を思い切り殴ったんです。何と言いますか‥‥プロボクサー顔負けの速さでこうストレートで。

 

 それで、男が怯んで後ろに倒れそうになったところを今度は顎を狙ってフックをしたんですよ。殴られた男は「あふんっ!?」とか言って駒の様にギュルンッてすごい勢いで回転してましたね。本当に起きるものなんですね‥‥

 

 でもそれで終わりじゃありませんでした。倒れた男の両足を掴むと、ジャイアントスイングして窓へ、いや外へと放り投げました。勿論窓ガラスは割れましたけど、やらかした当の本人は物凄く嫌そうな顔をして『二度と来ねえように仕留める』とか言って教室を出て行きましたよ。まあロッカーに籠ってた男が一体何者だったのか知りませんが‥‥ノブツナ、セロリが嫌いだったんだな‥‥

 

 

―———そう言い終えた遠山キンジ氏は教室に蔓延しているセロリの匂いと、ノブツナの机に置かれているセロリの生け花をどうしようか途方に暮れていた。

 

 

____

 

 

 

「さて、言い残すことはねえか?」

 

「おいちょっと待て、俺とお前の仲じゃないか。勝手に殺そうとするなよ」

 

「うるせえよ‼てか、何で来た!?どうやって来た!?」

 

 ノブツナは物凄く嫌そうな顔をしてずぶ濡れになっている、腐れ縁3号ことダンピールである神田スヴェンの胸倉をつかんで揺らす。屋上からもう一度投げ捨てたかったのだが生憎今日は雨。仕方なしに雨天時のサボりスポットである鳰がいる文学部の教室で尋問している。同じサボり仲間のジーク、鳰、そしてレキまでもがこの教室でサボタージュしていた。

 

「ほうほうほう、そいつがダンピールとな‥‥ところでダンピールって何?」

「吸血鬼と人間のハーフだ。ちなみに俺はめっちゃ強いぜ」

「なんと!?もう一戦やろうぜ!」

 

「すんなバカ。というか話を逸らすな」

 

 ノブツナはジークとスヴェンにゲンコツを入れる。のたうち回るジークを無視して再びスヴェンの胸倉をつかんだ。

 

「もう一度質問する。どうやって来た、どうして来た」

「俺に質問するな!」

「やかましいわ‼というかこのくだりもう5回目だぞ!」

 

「まあまあノブちゃん、そうかっかせずにー。あ、コーヒー飲むッス?」

「あ、ども。お前いい奴だな」

 

 にこやかにコーヒーを渡して来た鳰にスヴェンは色目を使う。これでは埒が明かないとノブツナは項垂れる。レキに至っては無関心なようでずっと窓から雨が降っている外を眺めていた。

 

「本当に何しに来たんだお前は‥‥」

 

「お前の嫌がらせに来た」

 

「鳰、ペンチ持ってきて。こいつの歯全部引き抜いてやる」

 

「待て待て待て話す話す」

 

 ノブツナが完全に殺る気でいるので流石にヤバイと感じたスヴェンは慌ててノブツナを止める。漸く真面目に話す気になったかとノブツナはため息を漏らした。

 

「俺は仕事でこっちに戻って来たんだ。ついでにお前も誘おうと思ってここまで来た。まあお前に嫌がらせするのが主だったけど」

 

「仕事?確かバチカンから来たと言っていたよな。それと関係あんのか?‥‥それからあとでお前殴るわ」

 

「まあ半分あってるな。お上からの指令が半分、私怨が半分」

 

「ったく‥‥事の次第にゃ乗るがなんだ?」

 

「流石は俺のライバル。それでこそ競い甲斐があるぜ!ノブツナ、ブラドを〆に行こうぜ!」

 

「はーいみんな解散、おつかれっしたー」

 

 そそくさとノブツナは鳰たちを連れてスヴェンを置いて出て行こうとした。そんなノブツナをスヴェンが全力で止める。

 

「まあ待てライバル!俺の話を聞いてくれ!」

「うっせえバーカ‼どうせ碌な事じゃねえと思ったけどもやっぱりじゃねえか!」

「碌でも無くはないぜ!俺もお前もお手柄で褒め称えられるくらいやべえから!」

 

「ノブちゃんノブちゃん、そのダンピールのお方の言う通りでもあるっすよ?」

 

 苛立つノブツナに鳰がひょっこりと二人の間に割って入った。

 

「鳰、お前なんか知ってんのか?」

「ブラドって聞けばそりゃあもう有名っすよー。なんたってイ・ウーのNO.2の吸血鬼なんっすよ?」

 

 またイ・ウーかいな。ノブツナは面倒くさそうに頭を抱えた。しかも相手は吸血鬼で、イ・ウーの二番目にえらい奴。先月のジャンヌ・ダルクといい、イ・ウーにはそんなおかしい奴等しかいないのかと愚痴をこぼす。

 

「でもなんでそのブラドを〆に行くんだ?」

「簡単な話だ。あいつ、母ちゃんを馬鹿にした」

「すっげえ私怨だなおい」

「‥‥それもあるが、事実バチカンのシスター、『殲滅師団(レギオ・ディーン)』はブラドやその娘と長い事戦っていてな、ブラドの奴日本に潜んでいるからいっちょぶちのめしてこい、と俺に指令を下してきた。俺に命令してきたメーヤとかいうシスターの顔がメッチャ怖くてな、いやホント怖かった」

「つか物騒な連中だな」

 

 ノブツナは引き気味に苦笑いをした。スヴェンもかなり面倒な目に遭っているのだと、こいつなりに少しは苦労いているのだと分かった。

 

「まあ安心しろ。ここの武偵法じゃ殺しは禁じられているからな、死なない程度にのめして逮捕で済ましてやるさ」

 

「それで、そいつを捕えるのに俺達に協力を求めてきたってわけか」

 

「どうだ?のるか?」

 

 どうしたものか、ノブツナは腕を組み唸りながら深く考えた。人ならまだしも、今回の相手は吸血鬼。驚異的な回復力をもつとは聞くがどれほどの力を持つのかは分からない。そしてそれはとてつもなく面倒だというのが嫌程分かる。

 

(レキは‥‥興味なさそうだし、ジークは‥‥寝てるし、鳰は‥‥)

 

 とりあえず他の奴の意見を聞こうとしたが幾人か人の話を聞いてないしやる気は無さそうにしている。鳰は果たしてどう考えているか視線を合わせると鳰はにへらぁと笑顔を見せる。

 

「ノブちゃん、めっさ楽しそうじゃないっすか。ファッキンイ・ウーをまた一人ぶちのめしせるなら鳰ちゃんは喜んで承りーっす」

 

 ああこいつイ・ウーが大嫌いだったな。

 

 そんな事を考えていると鳰がギザギザの歯を見せて下衆そうな笑みを浮かべてノブツナに歩み寄る。

 

「ねえねえノブちゃん、ノブちゃんもやりましょーよ」

「あのなぁ…俺がやってもこいつが得するだけだぜ?」

 

 鳰がギザギザの歯を見せて下衆そうに笑う時は必ず碌な事がない。これだけは確信できる。クスリと笑った鳰は耳元でささやいた。

 

「――――手伝ってくれたら、ノブちゃんの知りたい事、教えてあげるっすよ?」

 

 やはり碌でも無かった。ノブツナはお茶目に笑う鳰を見つめた後、仕方ないと肩を竦めてため息を漏らす。

 

「しゃあねえな‥‥手伝ってやる。その代わり、報酬は弾めよ?」

 

「流石は俺のライバル。きっとやってくれると信じてたぜ!」

 

 スヴェンは嬉しそうにノブツナの手を握って何度も振る。果たしてブラドとやらはどんな御仁なのか、どうやって捕えるか、自分達で倒せる相手か、考えることが山ほど増えた。今月ぐらいはレキとただ只管サボってのんびりしたかったのだがとため息をつく。

 

「じゃあ詳しいことは後程知らせる」

「おう、ちゃんとやりやすいプランを考えろよ?」

 

「「‥‥‥」」

 

 

「‥‥コーヒーおかわり」

 

「帰らねえのかよ!?」




 今回はレキ成分薄め

 次回から頑張ります(オイ

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