緋弾のoutlaw   作:サバ缶みそ味

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 少しゴリ押した感じがあります。このキャラはこんな事しない、こんなこと言わないわ‼なことがあります‥‥スミマセン


18話 キャンディ

 最初に動いたのはドリアンだった。ぶつかり合った拳同士を下げ、仕込んでいたメリケンサックをつけたもう片方の拳を放った。ノブツナは相手胃の攻撃をまともに受けず体を左へ傾けていなし、左の拳でボディーブローを狙う。

 

 ドリアンはその拳を片手で受け止めるや否や、その手を握り絞めだす。ミシリと拳に痛みが走ると完全に骨まで粉々にする気だという殺気を感じたノブツナは地面を蹴ってその勢いで両足で蹴り飛ばす。蹴とばされたドリアンは受け身を取って嬉しそうににんまりと笑った。

 

「そうこなっくちゃね!」

「正直怖すぎなんですけど…」

 

 握りつぶされそうになった左手をさすりながらノブツナが苦笑いする。ただ闘争を楽しむただの殴り合いとはいっても相手は元死刑囚であり、中国武術の最高峰の者に与えられる『海王』と呼ばれる称号を持っていた男。生半可の覚悟ではこっちが圧倒的にやられてしまう。

 

「そう畏まるな。君の持ちうる全力を遠慮なくぶつけるといい」

 

 色々と頭の中で考え込んでいるノブツナに対してドリアンは気楽に話しかけていく。ため息をついたノブツナは大きく深呼吸をして再び拳を構えた。少し身をかがめていつでも素早く懐へ迫って先手を打てるように膝に体重をかけていく。

 

「いきますよ…」

「いつでもきたまえ」

 

 余裕綽綽に突っ立っているドリアンに対し、ゆらりと前へ倒れるように体重をかけ膝に力を入れて地面を蹴り上げる。爆発的な跳躍力でドリアンの懐まで一気に迫った。少し驚いたように目を丸くしていたドリアンが何をしてくるか何も考えずこのままの勢いで相手の鳩尾めがけて拳を撃ち込む。

 

 しかしその寸前に目の前でドリアンはパンッとノブツナの顔間近で両手を叩いた。所謂猫騙し。相手に虚を突いてきたのだった。その猫騙しに思わず目を瞑ってしまった。虚を突かれたノブツナは一瞬びしりと止まる。

 

 目を瞑ってしまった隙をつき狙われたようで、横腹に激痛が走る。横腹に蹴りを入れられた。このまま蹴り飛ばされてたまるかとノブツナは踏ん張って耐え、目を瞑ったまま思い切り拳を放つ。手応えはあったが威力が低く浅すぎる。ノブツナは後ろに下がって目を開き、痛みに耐えながら拳を構える。一方のドリアンは何事もなかったかのように突っ立って、感心しながら髭をさすっていた。

 

「見た目に反して鍛えているのだな」

「おっかないおっさん達に嫌と言うほど鍛えられましたからね」

 

 ノブツナは苦笑いをして答えた。範馬勇次郎然り、師匠の本部然り、師匠の友達の中国拳法家だの柔術の達人だの空手の師範代だのにあれやこれやと叩き込まれたことを思い出す。あの地獄の特訓はもう懲り懲りだと遠い目をした。

 

「君の様に多く学べる人生が羨ましい」

「‥‥人生それぞれです。俺も羨ましがられるほどなもんじゃないですよ?」

 

 気軽に笑いながら話してくるドリアンはすかさず拳を振り下ろしてきた。早い拳を顔スレスレで避け、腹部めがけて掌底を撃ち込んだ。体内の水分や血液を振動させて内部から臓器や筋肉にダメージを与えていく『打震』。今まで余裕の表情を見せていたドリアンが初めて痛みで顔を歪ませた。

 

 手応えがあり。相手が怯んでいる隙にありったけの攻撃をしかけていく。今度は顔を狙ってくるかと両手で防いでいる隙にもう一度腹部を狙ってボディーブローを打ち込む。がら空きになったボディーを更に攻めていく。体重をかけて一発、体重をかけてもう一発。それでもドリアンは倒れることなく反撃をしてくるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。確かに気になる事なのだが、今は考える暇はない。ノブツナは攻め手を緩まず、拳を蹴りを入れていった。

 

____

 

「‥‥若いというのは羨ましいな」

 

 ()()()()()()()()()()()()ドリアンは羨ましそうにノブツナを見つめていた。彼の見つめている先ではノブツナがドリアンとは反対の方向で空を切りながら拳を振り、蹴りを入れていた。時には防ぐ態勢になったり、その瞬間に反撃に入ったり、まるでシャドーボクシングか見え何かと戦っているように見えた。

 

「しかし驚いたな…1回で私の催眠術が効かなかったのは君で初めてだ」

 

 催眠術。ドリアンの得意とした技の一つである。手段はいたって簡単、相手の意表を突かせること。さっきやっていた猫騙しや不意打ちをやって相手の気を一瞬で緩めさせればかけることができる。術にかかった相手は『最も自分が望んでいるシチュエーション、もしくは望んでいる勝ち方』という妄想に取り込まれていく。ノブツナは1回目は効かなかったが、2回目の催眠術にかかってしまったのだ。『打震』をくらった腹部をさすりながらドリアンは感心していた。

 

「やはり術にかかっても尚、隙あらば本当に狙ってくる姿勢は侮れん」

 

 かつて愚地独歩に催眠術をかけても、彼は『戦いとは不都合なもの、思い通りにならないもの』とかみしめていて、術にかかっている事すら記憶にないまま戦って催眠術は全く無意味なものとされてしまった。あの時程ではないが、一瞬でも油断して殺しにかかって行けば逆に襲い掛かってくる。まるで臭いで獲物を嗅ぎ付けて噛みついてくる猟犬の様だ。

 

「身に潜んでいる闘気と殺気…君は大したものだったよ。だが、ここは私の勝ちとしてもらおう」

 

 短い組手であったが楽しむことができたし、ここで仕留めるのも惜しい。しかしここで長居しても他の武偵が来てしまうかもしれない。静かに殺気を込めて近づいて仕留める事にする。頸椎を折るか、脳天を砕くか、何処で止めを刺すか拳を握った。

 

「さあ、今見ているものを永遠のものとするために…行きなさい、夢の世界へ!」

 

 ドリアンは止めを刺そうと拳を振り下ろした。その時、彼の腕にどこからともなく弾丸が掠める。ドリアンはピタリと止め、飛んできた方向を見るや否やすぐに下がった。

 

「狙撃…!?彼の付き添いの子か…‼」

 

 ノブツナの傍にドラグノフを持っていた翡翠色の髪をしたレキとかいう少女がいたことを思い出す。何処から狙って撃ってきたのか見抜いたドリアンはすぐにノブツナから離れて倉庫の物陰へと隠れる。

 

「あの子も見た目に寄らず中々の腕だな…」

 

 この物陰からなら射程外であろう、ここは惜しいが戦いを一先ずお預けにするかと身を引こうとした。その時どこからかチュインッと金属を弾いた音がしたかと思いきや弾丸が右肩を掠める。一瞬何が起きたのかと驚いたが、腕と同じ痛みからしてレキが跳弾を狙って撃ってきたということに気付くと肩を竦めて苦笑いをした。

 

「ははは…逃がさないというわけか」

 

 それならば今度は物陰からノブツナを仕留めようかと、ケブラー繊維を仕込んだライターを試しにちらりと見せた。その瞬間にライターは弾丸に射抜かれて粉々になる。彼を殺させはしない、という事も分かったドリアンは苦笑いしながらため息をついた。

 

「やれやれ、逃げるなだったり殺すなだったり私はどうしたらいいのか困りものだ」

 

 ここから出られないまま待ち惚けをするか、強引にでもノブツナを仕留めるか、もしくは全力をもって逃げるかどうするか悩みだした。しばらく悩んでいると、跳弾を狙った狙撃も全く来ないしこっちを狙っているような気配すらも消えた。物陰から様子を伺うと、催眠術に取りつかれて今も尚拳を振っているノブツナから離れた場所でドラグノフをもったレキが待っているのが見えた。

 

「これは珍しい…どういう風の吹き回しかな?」

 

 少し珍しそうにドリアンは見つめた。スナイパーならばあのまま狙い撃ちを続けていればよかったはず。それなのに彼女はそのまま姿を現して自分の下へとやって来たのだった。ゆっくりと近づいてくるドリアンにレキはドラグノフを構える。

 

「‥‥本当ならばそのまま貴方を狙って撃てばよかったのかもしれません。でも、それでは意味がない」

「ほお?それは油断と慢心か?」

「いいえ。命を賭してでも主を守るのが私の務め」

 

 そのまま静かにドラグノフの弾丸をリロードして狙いを定める。

 

「…こうでもしなければノブツナさんは起きないので」

 

 ドリアンはちらりとノブツナの方へ視線を向ける。ノブツナは息を切らせながらも見えない敵に向けて拳を、蹴りを入れていた。あれはまだ術を解くことはないだろう。

 

「ここまで近づいても撃ってこないとは…君の引き金が先か、私が避けて君を仕留めるのが先かな?」

「‥‥私は一発の銃弾。何も考えず目標へ飛んでいくだけ」

 

 面白いことを言う、とドリアンはふっと笑い、レキの指が引き金を引く瞬間を見逃さなかった。彼女の指が動いたと同時にドリアンは向けられた銃口から左へと避けた。発砲音とともに放たれた弾丸はドリアンに当たることなく通り過ぎる。ドリアンはステップを踏んでその勢いでレキに向けて拳を振るう。このままぶつけてしまえば簡単に折れてしまうぐらい細い体は耐えきることはできないだろう。この勝負は勝ったとほくそ笑み拳を振り下ろした。

 

 その刹那、ドリアンの脇腹にミシリと激痛が走る。痛みに表情が歪みと驚きが混じり、痛みがする方へと視線を向けた。催眠術にかかって見えない自分とシャドーボクシングをしていたノブツナが全体重をかけた拳を入れていたのだった。驚きが隠せなかったドリアンは大きく後ろへと下がった。あの様子は完全に催眠術が解けている。一体どうやって彼は催眠術を解いたのか焦りながら考えた。よく見ると彼の頬に一筋の赤い傷がついて血が流れている。

 

「さっきの銃弾は私ではなく彼へと向けたものだったか…‼」

 

 レキがノブツナに向けて発砲して強制的に催眠を解いたのであった。頬を拭うノブツナにレキはジト目で見つめる。

 

「ノブツナさん、気を抜きすぎです」

「いてて…サンキュー、レキ。次は気を付けるさ」

 

 そんな二人の様子を見ていたドリアンは突然大きく笑いだした。

 

「はははは‼こんなに面白いことは久しぶりだ‥‥人生とは色々とあるものだな」

 

 大きく笑い終えたドリアンは何かすっきりしたかのような、何かを悟ったかのような落ち着いた表情をしていた。

 

「…私も一瞬でいいから誰かの為とかを抱いて戦ってみたかったものだ。ノブツナ君、君はまだまだ多くを学ぶことができる。私の人生は短い…羨ましいものだ」

 

 こぶしを握り締め、静かに殺気と闘気を高めていくのが分かった。どういう事か、これで最後にするつもりのようだ。

 

「‥‥レキ、後ろへ。もしもの時は頼んだ」

 

 ノブツナはちらりと視線を向けて指示を出した。相手がその気ならこっちも同じようにこれで終わらせる。どちらも間合いに入り、ドリアンの拳がゆらりと動く。

 

「これまで私の人生は矛盾した喜劇だと蔑んでいたが‥‥君らに会えて悪くは無かったよ…!」

 

 嬉しそうに、誇らしそうに、ドリアンはこれまでよりも早く、強く拳を振り下ろした。しかし、ドリアンのよりも早く、強く、ノブツナの拳が入っていた。

 

 足の親指から始まり関節の連動を足首へ、足首から膝へ、膝から股関節へ、股関節から腰へ、腰から肩へ、肩から肘へ、肘から手首へと8箇所の関節を同時加速をかけて目にもとまらぬ高速の正拳突き。師匠の友人である空手の師範代から教わった技。大きく深呼吸をしたノブツナは前のめりへと倒れるドリアンに向けてもう一発放った。

 

 顔へと直撃したドリアンは後ろへと倒れる瞬間、意識が薄れる寸前、ノブツナに向けてふっと笑った。

 

「‥‥良い夢を見させてくれて、ありがとう‥‥」

 

_____

 

 

 ドリアンは仰向けに大の字に倒れて動かなかった。これで静かになったと、終わったと察したノブツナはマッハ突きを放った拳を痛そうに振りながらへたりと座り込んだ。

 

「‥‥な、なんとか勝った…‼」

 

 やつれながら大きく息を吐く。正直かなり緊張した。自分で止めることができるかどうか分からないながらも戦った。安堵と共に緊張と焦りが今更ぶり返して来た。

 

「ノブツナさん、お疲れ様でした」

「いやもう疲れた。あっちも終わったみたいだし、はやく教務科の連中が来てほしいわ」

 

 このままあとは後から来る教務科の連中に押し付け事情聴取をすっぽかして帰りたいぐらいだった。レキは静かに倒れているドリアンを見つめていた。

 

「‥‥自分の人生は変える事はできない。それなのにどうしてこうまでして変えたかったのでしょうか」

「そいつは違うな、レキ」

 

 疲れ気味ながらもノブツナは首を横に振った。

 

「変える事ができないと諦めているから、変えれない。誰だっていつ時も変えるチャンスがあり、変える事はできる‥‥あの人は立ち向かって、変わったよ」

「…私も変える事ができるのでしょうか…?」

「?ああ、変わろうと思えば変われるもんさ。まあその気になるんなら、俺が手伝ってやるさ」

 

 『ウルス』とか『風』とかよくわからないレキの中二病を脱出して変わろうとしているのなら良い方向に向かっているのだろうと、ノブツナはニッと笑った。

 

 その時、これまで仰向けに倒れていたドリアンがむくりと体を起こした。突然のことでノブツナとレキはギョッとし驚くが、ドリアンの様子がおかしい。先ほどまでの殺気は感じられないどころか、彼の目はおどけたようにあたりを見ていた。レキはドラグノフを構えていつでも撃てるようにするが、ノブツナは止めた。そしてノブツナはゆっくりと近づく。

 

「ノブツナさん、何を‥‥」

 

 近づくノブツナに気付いたドリアンは子供の様に困った表情を見せた。

 

「‥‥キャンディ‥‥」

「…えっ?」

 

「‥‥パパがね…2つしかくれないの‥‥キャンディ…ボク、たくさんほしいのに…」

 

 これはまさかとノブツナは目を丸くした。かつてのドリアンは最後、勝負に負けて精神が崩壊し幼児退行をしてしまった。それはもう戻ることのない永遠の症状。これは『本来』の彼に戻ってしまったのではないだろうか。

 

 

「ボクね、ずっとゆめをみてたんだ…」

「夢を…?」

 

「ボク、スーパーマンみたいにつよくなったゆめをみたんだ…でもさいごはたたかってまけちゃった…」

「‥‥その夢は怖い夢だったかい?」

 

 ノブツナの問いにドリアンは大きく首を横に振った。

 

「ううん…とってもたのしかった‼」

 

 ノブツナは目を見開いてしばらく考え込んでいたが、頷いてドリアンに向けて笑った。

 

「そっか。そいつはよかった‥‥そうだ。キャンディ、俺が買ってやるよ」

「ホント!?」

「ああ。好きなだけ、山ほど買ってやるさ‥‥」

 

 もうさっきまで戦ったドリアンはいない。彼は残りの人生をかけ、最後は楽しんでいった。

 

「‥‥もっと拳を交えたかったな…」





 これでドリアン編は終わりでございます。後はエピローグへ…

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